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8話 魔法にルビ振るとしたら"ロマン"だと思う

「あの、精霊がそもそも分かんないんだけど」

「精霊というのは、魔法を司る圧倒的な力を持つ存在のことです。私達のようなものは、その精霊から力を借りることで、魔法を行使します。そうだ、ついでに魔法の説明もしておきましょうか」


 ミナによる魔法の講義が始まった。参加費はなんと無料である、魔王特権というものかもしれん。聞き逃さないようにしっかり頭を働かせねば。


「魔王様は先程魔法を使った際、ポセイドンと言う名前を呼びましたよね」

「ああ、あの魔法の走りの部分で」


 ポセイドン、魔力、センド、デシジョン、カスケード。

 これを唱えることで、俺は魔法を使うことができた。その一番最初に、確かにポセイドンと口にしている。


「一連の言葉を詠唱と言うのですが、その詠唱の初めに言っているポセイドンというのが、精霊の名前なんです」

「ほお。つまり、俺はポセイドンさんから力を借りて魔法を使ってると?」

「はい、その通りです!」


 パチパチと手を叩くミナ。


「では、次に行きましょう。詠唱がどのように動いているのかを、簡単に説明しますね」


 まるで大学で公演する教授かのような、そんな威厳すらあるミナが教鞭をとってくれる。


「まず、精霊の名前を呼び、誰から力を借りるかを明示します。次に支払う代償を選びます。魔王様は、先程から魔力を代償にしていましたね」


 詠唱の二番目、魔力って言ってたとこだな。


「それで、次にセンドと唱えることで『これこれを代償にするので魔法を使わせてください』と要求を精霊側に送ります。その要求が承認されると、魔法陣が展開され下準備が整います」


 ふむふむ。俺は頭の中でそれを想像しつつ、頷いて返す。


「そこまで来たら、後はこちら側で魔法を使うことを確定させる言葉『ディシジョン』と、その後に魔法名を唱えれば、無事魔法が発動して終わり、といった感じの仕組みです」

「へー。適当に言ってたけど、そんな意味があったんだな」


 精霊の名前を呼び、代償を指定し、要求を送り。許可されれば魔法陣が浮かび上がり、あとはディシジョン+魔法名で魔法が発動。

 纏めてみればそこまで難しくもない話だ。力を貸してくれてる精霊は結局なんなのかとか、魔力が一体どんな仕組みで代償として機能してるのかとか、そういう細かいところは無限に気になるけど、ひとまずなんとなくの原理は理解できた。

 

「魔王様は、私を助けてくださった時も、魔法のことはよく分かっていらっしゃらなかったのですか?」


 レモナさんに聞かれて、俺は素直に答える。


「そうですね、全くでした。とりあえずこう言ってればいいんだろ、みたいな認識で」

「それであれほどの魔法が使えるとは、流石魔王様ですね……」


 手で口を抑え、驚いている彼女に、今度は逆に俺からの質問が襲いかかる。


「え、なんか俺褒められるようなことしてましたか? ただ口動かしただけだったんですけど」

「普通は詠唱するだけでは魔法は使えませんから。意味を理解し、正確に唱え、そしてなにより精霊との関係を築かねばなりません」

「精霊との関係、ですか」


 口ぶり的に、どうやらレモナさんも魔法には詳しいようだ。この世界で生きている人なら、当たり前の常識って感じなんだろうか?


「精霊は、知らない相手に呼ばれても力を貸さないんです。弱い魔法くらいなら使わせてくれることも多いですが、魔王様の使っていた程度の威力ともなれば、それなりの代償か或いは精霊がそれほどの力を貸す理由がなければいけません」

「へえ……」

「きっと、精霊からみても魔王様は特別なのでしょう。流石魔王様ですね」


 なんか褒められて気分がいい。

 ま、よく分かんないけど、魔法使わせてくれてありがとうって感じか。精霊さん、もといポセイドンさん。ありがとうございます。今思ったらポセイドンって名前の精霊厳つすぎて怖いな。三叉の槍とか投げてきそうな迫力がある。

 そんなこんな考えている俺に、ミナが。


「魔王様には、これから魔法をしっかりと勉強していただきますからね! 前世と同じく才能があるようですから、使いこなしてもらわないと勿体ないです」

「そうだな。腐らせるのは勿体ない気がするし」


 これだけ才能があるとか言われれば、やる気も湧いてくるというものだ。

 てか、魔法なんか使いこなせたら絶対楽しいだろ。この世界にどんな魔法があるのかは知らないけど、まだ見ぬ不思議パワーに心が踊る。これをやらないなんてそれこそ勿体ない、折角異世界に来たのだから頑張ろうじゃないか!

 まあ、どう頑張ればいいのかは全くわからないんだけど。それはミナやレモナさんに頼っていこう。

 と、ミナはふと視線を別の方向に向ける。


「ちょっと暗くなってきてしまいましたね」


 言われてそっちを見れば、窓の向こうで日が地平線へと沈もうとしていた。

 もう夜が近いらしい、そう思うと同時にそりゃそうかとも思う。一日中動きっぱだったわけだしな、ドラゴン狩ったりなんだりで。


「今日は魔王様もお疲れでしょうから、今日はこの辺でお開きにしましょうか」

「まあ、そうだな。俺も流石に疲労困憊だ」


 一般高校生にしては頑張ったほうじゃないだろうか。なにせ異世界に来て一日目で城を手に入れる所まで来たのだから。まあ、ミナあってのことではあるけれども。


「それでは、今日はお休みになられてください」

「ありがとうございます、すいません話の腰折っちゃって」

「いえいえ、体が資本ですから。それも、魔王様とあってはなおさらです」


 レモナさんはそう言ってにこりと微笑む。

 まさか俺の人生に、猫耳の女の子に慰められるイベントが発生するとは思わなかった。人間って生きてみるもんだな。

 俺達は部屋から出ると、玄関から外に出る。二人はわざわざ見送りに来てくれた。


「では、今回はありがとうございました」

「こちらこそ。魔王様も、ほら」

「分かってるよ。……色々ありがとうございました、これからもよろしくお願いします」


 急かされずとも礼くらいはちゃんと言えます、俺高校生だぞ。ミナから子ども扱いされてる気がしてならないんだけど。

 ともあれ、俺はぺこりと軽く頭を下げる。レモナさんはにこりと微笑んで、あちらも頭を下げた。


「はい、こちらこそ。よろしくお願いいたします」

「分からんことがあったらすぐ来いよ、俺達がなんでもしてやるから」


 ガリアードさんはそう言って自身の胸をドンと叩く。なんて頼りがいのあるマッチョマンなんだ。


「ありがとうございます。それじゃあ、また」


 手を振って、二人に見送られながら俺達は館を後にした。

 来たときには明るく照らされていた道が、薄っすらと暗くなっている。


「これからどうするんだ?」

「とりあえず、お城に行きましょう。そもそもそのためにここに来たのですからね」

「あ、そういやそうだったな」

「だいぶ本筋から逸れちゃいましたから、遅くなっちゃいましたけどね」

「そうだな。……なんかごめん、あの時俺が考えなしに割って入ったばっかりに」


 謝ると、「何を言っているのですか!」とミナ。


「お手柄ですよ、魔王様。まさか初日でこうして仲間ができるとは思っていませんでしたから」

「じゃあ割と良い感じ?」

「割とというかかなりです。イレギュラーでしたけどね」


 ですが、と彼女は続ける。


「ですが、これからはちょっと考えてから動くようにしてくださいね。今回はなんとかなりましたけど、相手が物凄く強い人だったらここで死んでいた可能性もありますから」

「死んでた……か」


 死。呑気に生きてきた俺にはあまり想像はつかないが、あり得た可能性ではあるだろう。

 男が放った魔法、ショックボルトと言ったか。あれは当たればタダじゃ済まなそうだった。実際、そう思ったから助けに入ったわけだし。

 自覚はあんまりないけど、俺は立場が立場なわけで。俺が動けなくなれば、ここまで俺を連れ回してくれたミナの立場も危うくなる。それに、一応仲間もできたわけだしな。

 これからはもうちょっと頭を働かせよう。

 

「あ、たぶんあれですよ魔王様!」


 そうこうしている内に、どうやら俺達の城についたようだ。

 ミナの指差す方を見ると、そこには確かに城然とした建物がどっしりと構えていた。

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