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3話 異世界一日目。莫大な富を得てゲームエンドの可能性

「このアホ!」

「あいてっ!?」


 とりあえず。

 俺はミナの頭をすぱーんと軽く叩く。


「死んだらどうすんだよ!」

「だ、大丈夫だったじゃないですかあ!」

「そういう問題じゃなくてだな、ああいうのはちゃんと説明してからにしてくれ! 俺はただの高校生なの!」

「はあい、すいませんでした」


 はあ。謝ってるし許す……いや許してもいいのかこれ。曲がりなりにも命の危険があったわけで。

 まあ、今後はこういう突然の戦闘なんかも起こり得るかもしれない。いい練習になったと思っておこう。

 ともあれ、俺達はドラゴンが墜落した場所まで足を運ぶ。

 すると、確かにそこには倒れて動かないドラゴンがいた。これを俺がやったのだという事実は、中々信じがたいものがあるな……。

 ドラゴンを殺した。ファンタジーそのまんまな展開に、俺は思わず立ち尽くしてしまう。


「素晴らしいです。早速鱗を引っ剥がして売りに行きましょう!!」


 そんな俺を置いて、ミナはるんるんとスキップをしながら、声色を高く楽しそうに死体へ向かっていく。

 すげえなこの子。俺ちょっと、流石に近寄りづらいんですけど。

 目の前に倒れているドラゴンは、俺の何倍もの大きさがある。身近なものでいうと、多分バスとかに近いくらいの大きさだろうか。それに翼や赤い鱗、顔面がついているイメージ。

 死んでるとはいえ、お近づきにはなりたくない。


「ほら魔王様も手伝ってください! 一人じゃ運びきれませんから!」

「あ、はい」


 言われるがまま。

 俺はビビりながらもドラゴンに近づくと、抱えるほどの大きさの鱗をその巨体から引っ剥がしていく。ガッチガチに張り付いてて中々取れなかったが、何度かやってコツを掴むと、案外スルスルと取れていって面白い。


「これ、そんなに価値があるのか?」


 剥がした鱗はくすんだ赤色をしていて、とてもじゃないが高値がつきそうにはないけど。

 俺の問いに、ミナは頷いて答える。


「はい。ドラゴンは強力なモンスターで、中々倒せないんです。なのでその素材は貴重ですし、かなりの額になります」

「へえー」


 まあ、ゲームなんかでもドラゴンの素材って結構貴重なイメージあるから、違和感は感じないが。


「てかさ、なんで俺じゃなきゃいけなかったんだ? ミナが魔法使って倒せば良いんじゃないのか」

「実は私、魔法が使えないんですよね」

「え。でもゲートってのは使えてるじゃんか」

「あれは別軸のやつなんです。ま、それはおいおいってことで」


 とかなんとか話しながら、俺は地道に鱗の剥ぎ取りを実施。その間、ミナは同じように鱗を剥いだり、どこから取り出したのかナイフで角や羽を切ったりしていた。

 慣れてるなあ。流石異世界人。


「よおし、こんな感じでいいでしょう! 早速売りに行きますよ!」


 彼女の掛け声に、俺は鱗にかけた手を止める。


「まだ結構取れそうだけど、いいのか?」

「はい。それは後々」

「了解。それで、売りに行くってのはどこに?」

「冒険者ギルドっていう所があって、そこが素材を買い取ってくれるんです」


 冒険者ギルド。ラノベやら漫画やらで聞き馴染みのある単語だ。シンプルな単語だが、心が踊る。

 

「へえ」

「あ、ギルドって言っても分かりませんよね。説明しましょうか」

「あー……そうだな。頼む」


 知ってるかもしれないけど、一応聞いておこう。

 と、ミナの口から語られた情報は、俺が知っているものと大差なかった。

 冒険者がいて、それを管理するギルドがあって。ギルドではクエストが受けられたり、素材の売却ができたりすると。さらに、ギルドは各地に沢山あり、それぞれが色々な活動を行っているらしい。


「ほおほお」

「とりあえず、行ってみましょう。体験するほうが早いはずです」


 ミナが開いたゲートを、素材を抱えてくぐっていく。すると、またもや知らない空間に顔を出した。

 立ち並ぶレンガ造りの家々。石畳の道を行き交う人々。中には馬車が通っていたり、巨大な剣のようなものを持っている人がいたりと、非現実的な光景が広がっていた。

 街か。しかも見る感じ、それなりに大きなとこっぽい。


「ここはアレストロニアという街です。このあたりでは一番大きな街ですね」


 後からゲートをくぐってきたミナがそう教えてくれる。

 確かに、そう言われてみると人の数もすごいな。沢山の人達が、道を行き交っていて……。


「……えっ」


 と。

 思わず、俺は目を見張った。

 というのも。目の前を歩く沢山の人達。その中の一人の頭の上に、犬の耳のようなものが生えていたのだ。


「どうしましたか?」

「いやほら、なんか耳生えてる人いないか?」


 俺が言うと、何故かミナは少し寂しそうな顔をする。


「それは亜人ですね。覚えていませんか」


 亜人か!

 動物とかと人間が混じった種族、ってなんかで得た知識はある。さっき人みたいに耳が生えてたり、しっぽがあったり。

 なるほど、流石異世界。こういうのもあるのか!


「あっちの世界にもそういう概念はあったから知ってはいるけど、覚えてはないかな」

「そうですか。魔王様にとって、とても縁のある種族なんですよ」

「え。俺に縁がある?」


 思わず首を傾げる。俺、なんか亜人と関係があるの?


「まあそれは後々で。今は素材を売ることに集中しましょう」


 そう言って、彼女は視線を左に移す。つられてそちら側を見ると、そこには大きな建物が建っていた。

 建物全体は大人しくも豪勢に装飾されていて、どこか神殿のような雰囲気を感じる。大きく開かれた出入り口には、沢山の人達が出入りしていた。


「ここがギルド?」

「はい。行きましょう、魔王様」


 歩き出した彼女の後ろをついて歩く。

 中に入ると、そこには賑やかな雰囲気が漂っていた。


「おお……すげえな」


 入口から見て右側には、酒場と思われる空間が。ガタイの良い男たちが、木で作られたジョッキを手に取り、豪快に飲み干している。

 左側には、何やらデカい掲示板のようなものが。それを見てなにか話し合っている人たちはみな、剣やら弓やら、物騒な武器を背負っていた。

 左奥の方には階段。そして、向かって正面に、恐らく受付であろう場所があった。

 ミナはそこに向かってスタスタと歩いていく。俺も黙ってついて行くと、金髪ロングのお姉さんがこちらに気がついて。


「いらっしゃいませ。なにか御用ですか?」

「素材を売りに来ました。買取をお願いしたいんですけど」


 ミナが言うと、お姉さんは笑顔で頷く。美人な人だ、異世界って美人多いのかな。この人もそうだし、ミナもかわいいし。


「かしこまりました。どのモンスターの素材でしょう」

「ドラゴンです」


 問われて、ミナが答える。すると、お姉さんは驚いたように目を見開いた。


「ど、ドラゴン!? ドラゴンの素材ですか!?」


 驚いたように、というか驚いてるみたいだ。

 さっきミナが言ってたことに信憑性が出てきたな。ドラゴン、どうやら本当に結構な大物だったらしい。


「はい。厳しいでしょうか」

「い、いえ。こちらとしては大歓迎ですが……。とりあえず、ご拝見しても?」

「はい。魔王様、こっちに素材を置いてください」

「あ、ああ」


 カウンターに、さっき取ってきた鱗を乗せる。ミナもその横に、抱えていた角や翼を置いた。

 お姉さんはしげしげとそれを眺めてから、ぽつりと呟くように言う。


「ほ、本物ですね……素晴らしいです」


 お姉さんの瞳には、うっすらと魔法陣が浮かんでいるように見えた。

 どうやらなにか魔法を使っているらしい。それでこの素材が本物かどうかを確かめたのかも。


「どうやって手に入れたのですか?」

「叔父が無くなりまして、その遺産を受け継いだんです。ただ、私達には使い道がなかったので、換金しようかと」

「そういうことでしたか。大変な時期に、ありがとうございます」

 

 と、何故かミナはさらりと嘘を付く。驚いて彼女を見ると、しーっと口に指を当ててジェスチャー。どうやら黙っておけとのお達しらしい。


「この量、それにドラゴンとなると……そうですね。純金貨五枚ほどで買取になるかと」

「五枚! 聞きましたか魔王様、純金貨五枚の収益ですよ!」

「へ、へー……」


 ミナは喜んでいるみたいだが、価値が全く分からん。なんだ純金化って。純の部分まで含めてまるっと意味がわからない。金貨と違いがあるのか?


「なあ。具体的に言うとどれくらいの価値なんだ?」

 

 ミナに耳打ちすると、彼女は「ああそうか」みたいな顔をする。そうですよ、俺この世界のこと何も知らないんですからね。


「それなりの家くらいなら買えると思います」


 一瞬、思考が停止する。

 それなりの家が買える。それなりの家が買える? この集めた鱗で?


「これそんなに高いの?」

「そうですよ? 本当に貴重なんですから。ドラゴンを倒せる人なんて、世界に何人いるかってレベルです」


 ま、マジか。いっても何万とか、そういう感じかと思ってた。てかドラゴンってそのレベルで強かったのかよ。それ倒せた俺ってどうなってんだ……?

 こりゃ城も買えるやもしれん。夢物語が現実感を帯びてきた。

 しばらくすると素材達が引き取られ、代わりに黒い布で包まれた何かが運ばれてくる。


「では、こちらになります」


 お姉さんは布をカウンターに置き、結び目を解く。すると、中から五枚のコインが現れた。

 真珠のような色をしていて、掛け値なしに光って見える。磨き上げられたコインが放つ光沢は、人目で"高い"なにかだと分かった。コインの中央には複雑な模様が書き込まれており、雰囲気を作るのに一役買っている。


「これが純金貨ってやつか」

「はい。以前使っていたものとはだいぶ見た目が変わっていますね」

「へー。……ん? それが分かるってことは、ミナは前の純金貨も触ったことがあるのか?」

「はい。というか、魔王様もありますよ」


 マジか。魔王ともなればお金なんか腐る程持ってたりしたのだろうか。

 あれ、ちょっと待てよ。そう考えたら、前世の俺は何かしらの対策をしたりしなかったのかな? ほら、徳川幕府の遺産みたいな感じで、どっかに大金隠しておくとか。


「なあ、ミナ」


 思ったことをそのまま聞いてみると、残念ながらミナは首を横に振る。


「そういったことをしている暇はありませんでしたからね」

「そうか……」


 理由があって、無理だったらしい。一攫千金は諦めよう。いや、諦めるってか、一攫千金は今成し遂げたのだから、これで満足しておこう。


「純金貨は私が管理しても大丈夫ですか?」

「え? ああ、全然。むしろ頼むよ、俺失くしそうだし」

「分かりました。では」


 ミナは俺に断りを入れてから、黒布の上に置かれたコインを一枚ずつ、懐から取り出した小さな巾着袋に入れていく。

 全部を入れ終わると。


「よし。買取、ありがとうございました!」


 ミナはぺこりと頭を下げる。


「いえいえ。もし今後もなにかありましたら、ぜひいらっしゃってください」


 俺も軽く頭を下げてから。

 受付から離れ、ギルドから出る。ミナは俺を見ると、ガッツポーズをして嬉しそうに笑った。


「よおし。流れは分かりましたか、魔王様」

「ん? まあ、こうやって売るんだなってのは分かったけど」

「いいですね。では、これを繰り返してもっともっとお金を作りましょう」

「え、もっと? どうやって?」


 ちっちっち、とわざとらしく指を振るミナ。見た目と声が良いからかわいいだけで全くうざくないのがすごい。


「まあ、とりあえずあっちに戻りましょう。ついてきてください、魔王様」


 ミナがゲートを開き、俺はそれをくぐる。今日始めてみたこれにももう慣れてしまった。人間の適応力ってすげえな。

 またもやあっつい火山に戻ってくると、ゲートを閉じてから。ようやくミナは話し始める。


「魔王様。ドラゴンの素材、まだ余ってましたよね」

「あ、そういえばそうだな。それを売るってことか」

「はい。ですが、ここのギルドではもう売りません」


 彼女の意図が組めず、俺は首を傾げる。


「え、じゃあどうするんだよ」

「別の地域のギルドで売るんです」

「……それ、なんか意味があるのか?」


 数秒ぶり二度目のちっちっちが再来。もういいよ。


「ドラゴンを一頭丸々売るとなると、一箇所にドラゴンを、或いはその素材を運んでこなければいけないでしょう。貴重なものが大量に、しかも一箇所に集まったとなれば、きっとそれなりの騒ぎになるはずです」

「それは確かにそうだな」

「そうなれば、私達は注目され、そして怪しまれるはずです。どうやってこの量の素材を得たのか。まさか、自分達で倒したのか。おかしい、お前みたいな名前は聞いたことがないぞ。怪しいな、身分はどうなっている――みたいな塩梅で」

 

 ここまできて、なるほどと理解ができた。

 受付のお姉さんに素材の入手方法を隠したのは、そういう理由があったからなのか。叔父の遺産ってことにしておけば、中々首を突っ込まれ辛いと踏んだのだろう。


「それを避けるために、各所のギルドで売っていきます。まあ、しばらくすればドラゴンの素材が何故か大量に出回ってることに気が付かれて、怪しまれると思いますが。その時には、私達はもう大金を得ているという寸法です」

「なるほどなあ。ミナって頭良いんだな」

「そりゃもう、魔王様の側近ですから! 私にどんと任せてください!」


 彼女はとんと胸を叩き、にへらと顔を崩して笑う。


「それじゃ、どんどん売っていきましょう。魔王様、手伝ってください」

「おっけー」


 言われるがまま、俺はミナと一緒に素材を剥がしては各地のギルドに売りに行く。何回も何回もそれを続け、しばらくするとドラゴンから剥がせるものは何もなくなってしまった。

 代わりに、俺達の手には沢山の純金貨が。衝撃的なほど勢いよく増えていったんだけど、これ本当に大丈夫なのか?


「現代の錬金術かよ」


 いや、現代というか、ここは異世界だから異世界の錬金術と言うべきだろう。どうでもいいか。


「れんき……?」

「いやなんでもない。にしてもすごい量のお金が集まったな」


 あれだけあった鎧も自慢の逸品も奪われ丸裸になったドラゴンの前で、俺はミナが持っている巾着袋を覗き込む。

 結局手に入ったのは、純金貨が五十枚。価値にするとどれくらいになるのだろうか、考えただけで夢が広がるな。


「これだけあれば、大きいものでなければお城が買えるでしょう。適当なものを買って、早速私達の拠点としちゃおうではありませんか!!」

「おおー」

「では、私についてきてください! とある街に、不動産を取り扱う大きな商店があったはずです」

「了解」


 せこせこと袋をしまい、ゲートを開くミナ。

 にしても。目標が目標じゃなかったら、今回稼いだお金で永遠に遊んで暮らしていけてたかもな。俺、異世界一日目にしてゲームを終わらせてしまっていたかもしれない。

 ゲートをくぐりながら、俺はあったかもしれない未来に思いを馳せたりする。ま、この先にも楽しい未来が待ってるはずだから、期待しつつ行動するとしようじゃないか。

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