## 第7話「学園最強」
月曜日の朝。
俺は久しぶりに普通の時間に起きた。
「おはよう、朝倉くん」
教室に入ると、美咲が笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、神楽さん」
「最近、朝早いみたいだね」
「ちょっと訓練してて」
「訓練?」
美咲が首を傾げる。
その金色の瞳が、一瞬何かを見透かすような光を宿した。
「強くなりたいんだ」
「そっか」
美咲が優しく微笑む。
「応援してる」
そんな会話をしていると——
ガラッ
教室の扉が勢いよく開いた。
「朝倉蒼はいるか!」
現れたのは、見知らぬ男子生徒。
3年生の制服を着ている。
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【真田 剛】Lv.42
職業:記憶剣士(A級)
HP:1200/1200
MP:800/800
状態:戦意高揚
学園最強と呼ばれる男
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教室がざわつく。
「真田先輩…」
「学園最強の…」
クラスメイトたちが怯えたような声を上げる。
「お前が朝倉蒼か」
真田先輩が俺を睨みつける。
「はい」
「聞いたぞ。黒羽から記憶を奪ったんだってな」
昨夜のことか。
「それで?」
「決闘を申し込む」
「は?」
唐突すぎる。
「なんで俺が——」
「理由なんてどうでもいい」
真田先輩が腕を組む。
「俺は強い奴と戦いたい。それだけだ」
戦闘狂か。
『面倒なのに絡まれたわね』
Systemも呆れているようだ。
「断ったら?」
「無理やりにでも戦わせる」
「…………」
厄介だ。
A級、しかもレベル42。
今の俺じゃ勝ち目は——
「待ってください」
美咲が立ち上がった。
「朝倉くんは関係ありません」
「あ?誰だお前」
「神楽美咲です」
美咲が真田先輩の前に立つ。
「暴力は良くないです」
「どけ」
真田先輩が手を振る。
ただそれだけの動作。
でも、凄まじい圧力が美咲に向かって——
パンッ
乾いた音が響いた。
美咲が片手で、真田先輩の圧力を弾いていた。
「!」
真田先輩の目が見開かれる。
「お前…」
「私は戦いません」
美咲が静かに言う。
「でも、朝倉くんを傷つけるなら、話は別です」
一瞬、美咲の瞳が——
いや、見間違いか。
「面白い」
真田先輩が獰猛に笑う。
「いいだろう。午後、第一演習場だ。来なかったら——」
「行きます」
俺は立ち上がった。
「蒼くん?」
美咲が心配そうに振り返る。
「大丈夫。逃げるわけにはいかない」
これも記憶屋としての試練だ。
「ふん、根性はあるようだな」
真田先輩が踵を返す。
「午後3時。遅れるなよ」
そして、教室を出て行った。
教室に重い沈黙が流れる。
「朝倉…大丈夫か?」
クラスメイトが心配そうに声をかけてくる。
「真田先輩、去年の学園トーナメント優勝者だぞ」
「A級最強って言われてる」
「今まで負けたことがない」
不安を煽るような情報ばかりだ。
でも——
「なんとかなるさ」
強がりだけど、そう言うしかない。
### ◆◇◆
昼休み。
屋上で鈴音に事情を説明した。
「真田剛…」
鈴音が難しい顔をする。
「厄介な相手に目をつけられたわね」
「知ってるのか?」
「当然。学園最強の名は伊達じゃない」
鈴音がため息をつく。
「去年、私も戦ったことがある」
「結果は?」
「完敗」
「…………」
「レベル差もあったけど、それ以上に」
鈴音が拳を握る。
「戦闘経験が違いすぎた。あの人、記憶の闘技場で毎日戦ってる」
記憶の闘技場。
違法すれすれの地下施設。
記憶を賭けて戦う、危険な場所だ。
「勝ち目、あるかな」
「正直、厳しい」
鈴音がはっきりと言う。
「でも、可能性はゼロじゃない」
「どうすれば?」
「あなたの能力を最大限に使うこと」
鈴音が指を立てる。
「記憶喰らいは、相手の記憶を奪える。それは大きなアドバンテージ」
「でも、レベル差があると成功率が」
「だから、チャンスは一度だけ」
鈴音が真剣な眼差しで俺を見る。
「相手が油断した瞬間、最も重要な記憶を奪う。それしかない」
「重要な記憶…」
「戦闘技術の核となる記憶。それを奪えれば、一気に形勢が変わる」
なるほど。
一か八かの賭けか。
「それと」
鈴音が何かを取り出した。
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【アイテム取得】
『記憶増幅薬』
効果:一時的に記憶能力を200%に増幅
持続時間:5分
副作用:使用後24時間、能力使用不可
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「これは?」
「切り札よ。本当に危なくなったら使って」
「でも、こんな貴重なもの」
「いいから」
鈴音が俺の手を握る。
「絶対、無事に帰ってきて」
「…ああ」
温かい手だった。
### ◆◇◆
午後3時。
第一演習場には、既に人だかりができていた。
「来たか」
演習場の中央で、真田先輩が待っていた。
上半身裸で、鍛え上げられた肉体が露わになっている。
「遅くなってすみません」
「いや、時間通りだ」
真田先輩がニヤリと笑う。
「準備はいいか?」
「はい」
周囲がざわめく。
観客の中に、鈴音と美咲の姿も見えた。
二人とも心配そうな顔をしている。
『頑張って』
Systemの声が響く。
『あなたなら、きっと——』
「始めるぞ」
真田先輩が構えを取った。
瞬間、凄まじい圧力が演習場を満たす。
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【決闘開始】
朝倉蒼 Lv.17
VS
真田剛 Lv.42
勝利条件:相手の戦闘不能
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「行くぞ」
真田先輩が地面を蹴った。
速い——!
反射的に記憶武装化を発動。
黒い刃で受け止めるが——
ガキィン!
「ぐっ!」
一撃の重さが違いすぎる。
吹き飛ばされそうになるのを、なんとか踏みとどまる。
「ほう、受け止めたか」
真田先輩が面白そうに笑う。
「だが——」
連撃が来る。
右、左、上、下——
全方位からの攻撃。
防御で精一杯だ。
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【ダメージ】
HPが50減少
現在HP:270/320
防御しても削られている
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「どうした?攻撃してこないのか?」
挑発してくる真田先輩。
だが、下手に攻撃すれば隙だらけになる。
今は耐えるしかない。
チャンスを待つんだ。
「つまらんな」
真田先輩の攻撃が止まった。
「本気を出させてやる」
背中から、巨大な剣が現れた。
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【真田剛の奥義】
記憶剣・斬鉄
A級最強の記憶武装
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「これが俺の本気だ」
真田先輩が大剣を構える。
「一撃で終わらせてやる」
まずい。
あれをまともに受けたら——
「覚悟しろ!」
真田先輩が剣を振り下ろす。
避けられない。
なら——
「記憶喰らい!」
全力で能力を発動した。
狙うは、真田先輩の『剣術の記憶』。
一瞬、真田先輩の動きが鈍る。
「なっ…」
その隙に横に跳ぶ。
大剣が地面に突き刺さり、演習場の床が砕ける。
「貴様…俺の記憶を…」
「もらいました」
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【記憶摂取成功】
『真田流剣術・基礎』を獲得
経験値+1000
レベルアップ!
Lv.17 → Lv.18
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「面白い」
真田先輩が剣を引き抜く。
「だが、基礎程度を奪ったところで——」
確かに、奪えたのは表層の記憶だけ。
核心部分は、まだ奪えていない。
でも——
「十分です」
俺も剣を構える。
記憶武装化で作った、白銀の剣。
そこに、今奪った剣術の記憶を込める。
「ほう」
真田先輩の目が輝く。
「俺の技を、使うつもりか」
「使わせてもらいます」
同じ構え。
同じ呼吸。
「いいだろう」
真田先輩が笑う。
「剣術対決といこう」
二人同時に踏み込む。
剣と剣がぶつかり合う。
今度は、押し負けない。
奪った記憶のおかげで、相手の動きが読める。
「はははは!いいぞ!」
真田先輩が楽しそうに笑う。
「これだ!これが欲しかった!」
激しい剣戟の応酬。
観客たちが息を呑む。
レベル差25。
普通なら一方的な戦いのはずが、互角に渡り合っている。
でも——
(長くは持たない)
体力も、MPも、相手の方が上。
このままじゃジリ貧だ。
(どこかで、核心の記憶を)
チャンスを伺う。
そして——
「隙あり!」
真田先輩が大技を繰り出してきた。
全身全霊の一撃。
これを受けたら終わりだが——
(今だ!)
技を出す瞬間、一瞬だけ精神が無防備になる。
その隙を突く。
「記憶喰らい・全力発動!」
残りMPをすべて注ぎ込む。
狙うは、真田先輩の『最も大切な記憶』。
ズルリと、何かが抜けていく感覚。
「!?」
真田先輩の動きが止まった。
大剣が、力なく地面に落ちる。
「これは…」
真田先輩が膝をつく。
奪った記憶が、俺の中に流れ込んでくる。
それは——
幼い頃、初めて剣を握った日の記憶。
亡き父との、約束の記憶。
『強くなれ。誰にも負けない男になれ』
ああ、そうか。
真田先輩が強さを求める理由。
それは——
「返します」
俺は奪った記憶を、そのまま返した。
「なっ…」
真田先輩が目を見開く。
「なぜ…勝利を捨てるんだ」
「これは、あなたの大切な記憶だから」
立ち上がり、手を差し伸べる。
「それを奪って勝っても、意味がない」
「…………」
真田先輩が、しばらく俺を見つめる。
そして——
「はは…ははは!」
大声で笑い始めた。
「面白い奴だ!」
差し出した手を掴み、立ち上がる。
「俺の負けだ」
「え?」
「記憶を奪われた時点で、俺の敗北だ」
真田先輩が高らかに宣言する。
「朝倉蒼!お前を認める!」
観客たちがどよめく。
学園最強が、敗北を認めた。
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【決闘終了】
勝者:朝倉蒼
獲得経験値:3000
レベルアップ!
Lv.18 → Lv.20
新称号獲得:『学園の新星』
効果:学園内での評判大幅上昇
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「おい」
真田先輩が肩を組んでくる。
「今度、一緒に闘技場行かないか?」
「え?」
「もっと強くなりたいだろ?」
確かに、強くなりたい。
でも——
「危険じゃないですか?」
「はは!それがいいんじゃないか!」
豪快に笑う真田先輩。
なんだか、面倒な人に気に入られてしまった気がする。
「蒼!」
鈴音が駆け寄ってきた。
「大丈夫?怪我は?」
「大丈夫だよ」
「よかった…」
安堵の表情を浮かべる鈴音。
「朝倉くん」
美咲も近づいてくる。
「凄かった」
「ありがとう」
なんだか、照れくさい。
「それにしても」
真田先輩が俺の肩を叩く。
「レベル20か。大したもんだ」
そうか、レベル20。
ついこの間まで、F級の見習いだったのに。
「これからも、よろしく頼む」
「こちらこそ」
握手を交わす。
今日、また一つ成長できた気がする。
そして、新しい仲間も。
記憶屋としての道は、まだ始まったばかりだ。
【更新予定】
毎日更新を目指します!
最低でも週5は更新したいと思ってます。
【お願い】
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