## 第6話「依頼」
特訓開始から一週間。
俺は何とか生き延びていた。
「ふう…今日の訓練はここまでね」
鈴音がタオルで汗を拭いながら言った。
俺は地面に倒れ込む。もう指一本動かしたくない。
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【朝倉 蒼】Lv.16
職業:記憶喰らい(D級)
HP:320/320
MP:150/150
一週間の成果:
筋力:D → C
敏捷:D → C
持久力:E → B
精神:C → B
新スキル:
・高速記憶処理 Lv.1
・危機感知 Lv.1
・身体強化 Lv.2
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「だいぶ強くなったわね」
鈴音が満足そうに頷く。
「レベル16…普通なら1年かかる成長を1週間で達成したんだから」
「全部、鈴音のおかげだ」
「ふふ、素直でよろしい」
そんな話をしていると——
「あの〜」
訓練場の入口に、見知らぬ女子生徒が立っていた。
中等部の制服を着ている。13、4歳くらいだろうか。
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【佐藤 美月】Lv.3
職業:一般人
HP:50/50
MP:10/10
状態:緊張
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「白石先輩と、朝倉先輩ですよね?」
「そうだけど」
鈴音が警戒心を隠さない。
最近、俺たちのことが学園内で噂になっているらしい。
「あの、お願いがあって…」
少女——美月は、おずおずと近づいてきた。
「記憶を、探してほしいんです」
「記憶を探す?」
俺と鈴音は顔を見合わせた。
「詳しく聞かせてもらえる?」
鈴音が優しい声で聞く。
美月は安心したように話し始めた。
「私の友達が、大切な記憶を失くしちゃって…」
「失くした?売ったんじゃなくて?」
「違うんです。盗まれたみたいで」
「盗まれた!?」
記憶泥棒。
この街では珍しくない犯罪だが、学園内でとなると話は別だ。
「いつ、どこで?」
「3日前の夜、寮の部屋で寝ている間に…」
美月の目に涙が浮かぶ。
「友達、それから笑わなくなっちゃって。盗まれた記憶が、初恋の思い出だったから」
初恋の記憶。
確かに、それは誰にとっても大切なものだ。
「警備員には?」
「言いました。でも、証拠がないって…」
「そう…」
鈴音が考え込む。
「それで、どうして私たちに?」
「噂を聞いたんです。朝倉先輩が、他人の記憶を視ることができるって」
やっぱり、バレてるか。
「お願いします!友達を助けてください!」
美月が深々と頭を下げる。
「報酬は…あまり出せませんけど」
「報酬なんて——」
「待って、蒼」
鈴音が俺を制した。
「これは立派な『仕事』よ。報酬はきちんともらうべき」
「でも、困ってるんだぞ」
「だからこそよ」
鈴音が真剣な眼差しで俺を見る。
「あなたは記憶屋でしょう?プロとして仕事を受けるなら、それなりの覚悟が必要」
そうか。
これは慈善事業じゃない。俺は記憶屋として、依頼を受けるんだ。
「わかった」
美月に向き直る。
「依頼、受けます。報酬は成功報酬で、1000メモでどうですか?」
「は、はい!ありがとうございます!」
美月が顔を輝かせた。
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【クエスト発生】
『盗まれた初恋』
依頼人:佐藤美月
内容:友人の初恋の記憶を取り戻す
報酬:1000メモ
期限:3日以内
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『初めてのお仕事ね』
Systemの声が響く。
『頑張って、記憶屋さん』
### ◆◇◆
美月に案内されて、俺たちは被害者の部屋を訪れた。
中等部の女子寮。男子禁制のはずだが、特別に許可をもらった。
「香織ちゃん、来たよ」
美月がドアをノックする。
「…どうぞ」
か細い声が返ってきた。
部屋に入ると、ベッドに一人の少女が座っていた。
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【高橋 香織】Lv.2
職業:一般人
HP:40/50
MP:5/10
状態:記憶欠損(部分)
WARNING:精神的ダメージ有
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「初めまして。朝倉です」
「白石です」
「…高橋香織です」
香織は虚ろな目で俺たちを見た。
確かに、大切な何かを失った人の目だ。
「記憶を盗まれたって聞きました」
「…はい」
「どんな記憶か、覚えてますか?」
「それが…」
香織が首を振る。
「顔も、名前も、何も思い出せなくて。ただ…」
「ただ?」
「温かい気持ちだけは、残ってるんです」
切ない。
記憶を失っても、感情だけは残る。それが余計に辛いんだ。
「記憶探査、使ってみる?」
鈴音が提案する。
「ああ」
俺は集中した。
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【スキル発動】
記憶探査 Lv.2
探査範囲:半径100m
探査中...
記憶の残留反応を感知
3日前の痕跡を発見
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「見つけた」
「本当!?」
香織が身を乗り出す。
「ああ。でも、かなり薄い。誰かが意図的に痕跡を消そうとしてる」
「追跡できる?」
「やってみる」
残留した記憶の粒子を辿っていく。
廊下、階段、そして——
「屋上だ」
### ◆◇◆
夜の屋上。
俺たちは慎重に扉を開けた。
「いる」
鈴音が囁く。
月明かりの下、一人の人影が立っていた。
見覚えのある後ろ姿。
「まさか…」
「あら、バレちゃった?」
振り返ったのは——
黒羽彩夜先輩だった。
「やっぱり先輩でしたか」
「あはは、ごめんなさいね〜」
悪びれもせずに笑う黒羽先輩。
その手には、ピンク色に輝く記憶結晶が握られていた。
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【桃色記憶(初恋)】
価値:プライスレス
純度:AAA
状態:完全保存
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「それ、返してもらいます」
「え〜、やだ」
「やだって…」
「だって、これすっごく綺麗なんだもん。初恋の記憶って、こんなに美しいのね」
黒羽先輩が結晶を月にかざす。
確かに、見惚れるほど美しい輝きだった。
「でも、それは香織さんのものです」
「そうね。でも」
黒羽先輩の目が鋭くなる。
「これと交換なら、返してもいいわよ」
「交換?」
「そう。君の記憶と」
俺を指差す。
「君の『記憶喰らい』の記憶。それをちょっとだけ味見させて」
「それは…」
「1分。たった1分だけでいいから」
黒羽先輩が一歩近づく。
「そうすれば、この子の記憶も返すし、今後一切君たちには関わらない。どう?」
「ダメよ」
鈴音が前に出る。
「そんな危険な取引、認められない」
「あら、保護者気取り?」
「パートナーですから」
「ふーん」
黒羽先輩が面白そうに笑う。
「じゃあ、力ずくで奪うしかないわね」
瞬間、黒羽先輩の姿が消えた。
「速い!」
次の瞬間、俺の真後ろに現れる。
「もらった!」
だが——
ガキィン!
黒い刃が、黒羽先輩の手を防いでいた。
「へえ、反応できるんだ」
「一週間、地獄の特訓受けてますから」
「面白い」
黒羽先輩が本気の構えを取る。
「じゃあ、ちょっと本気出そうかな」
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【戦闘開始】
朝倉蒼 Lv.16 & 白石鈴音 Lv.28
VS
黒羽彩夜 Lv.35
WARNING:レベル差注意
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「記憶狩猟!」
黒羽先輩の周囲に、無数の黒い針が現れる。
それが雨のように降り注ぐ。
「記憶調律・防壁!」
鈴音が障壁を張るが、針の一部が突き抜けてくる。
「くっ…」
「蒼、左!」
鈴音の警告で、横に跳ぶ。
さっきまで俺がいた場所に、黒羽先輩の蹴りが突き刺さった。
地面が砕ける。
「やるじゃない」
「まだまだ!」
俺は記憶武装化で二刀を生成。
右手に黒い刃、左手に白い刃。
「へえ、二刀流?」
「これも特訓の成果です」
高速で斬りかかる。
黒羽先輩は余裕で避けていくが——
「今だ!」
鈴音の調律糸が、黒羽先輩の足を縛る。
一瞬の隙。
「記憶喰らい・部分摂取!」
黒羽先輩の戦闘技術の一部を奪う。
「なっ…!」
初めて、黒羽先輩が動揺した。
その隙を逃さない。
白い刃で、初恋の記憶を弾き飛ばす。
「鈴音!」
「任せて!」
鈴音が飛んできた結晶をキャッチ。
「ちっ…」
黒羽先輩が舌打ちする。
「まさか、私から記憶を奪うなんて」
「すみません」
「ふふ、謝ることないわよ」
意外にも、黒羽先輩は楽しそうに笑った。
「面白かった。君、想像以上に成長してる」
「それは…」
「約束通り、今回は引き下がるわ」
黒羽先輩が踵を返す。
「でも、覚えておいて」
振り返らずに言った。
「君の能力を狙ってるのは、私だけじゃない。もっと強大な敵が、必ず現れる」
そして、夜の闇に消えていった。
### ◆◇◆
「これ…私の…」
香織が震える手で、記憶結晶を受け取った。
瞬間、結晶が光となって香織の中に戻っていく。
「あ…ああ…」
香織の瞳に光が戻った。
そして——
「思い出した!彼の顔…名前…全部!」
涙を流しながら、香織が笑った。
「ありがとうございます!本当に…本当に…」
「よかった…」
美月も泣いていた。
俺たちも、胸が熱くなった。
これが記憶屋の仕事か。
人の大切な記憶を守り、取り戻す。
悪くない。
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【クエスト完了】
『盗まれた初恋』
報酬:1000メモ獲得
追加報酬:経験値500
レベルアップ!
Lv.16 → Lv.17
佐藤美月の信頼度:MAX
高橋香織の信頼度:MAX
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「ありがとうございました」
帰り道、美月が何度も頭を下げた。
「また何かあったら、依頼してください」
「はい!」
「でも」
鈴音が真剣な顔で言う。
「黒羽先輩の言葉、気になるわね」
「ああ」
もっと強大な敵。
それが誰なのか、まだわからない。
でも——
「強くなるしかないな」
「そうね」
鈴音が微笑む。
「明日からまた特訓よ」
「げっ」
「何よ、その反応」
「いや、もう少し休みが…」
「甘い!」
結局、地獄の特訓は続くらしい。
でも、今日みたいな依頼を解決できるなら。
誰かの笑顔を取り戻せるなら。
頑張れる気がした。
夜空を見上げる。
記憶結晶塔が、静かに輝いていた。
あと、983万メモ。
妹のために、もっと稼がないと。
『いい仕事だったわ』
Systemの声が優しく響いた。
『これが、あなたの選んだ道。記憶屋としての第一歩ね』
ああ、そうだな。
俺は記憶屋だ。
最弱から始まった、記憶を喰らう者。
この力で、もっと多くの人を——
「蒼?」
「ん?」
「ぼーっとしてないで、行くわよ」
「ああ、わかった」
鈴音と並んで歩く。
明日も、きっと大変だ。
でも、それでいい。
一歩ずつ、前に進んでいこう。
【更新予定】
毎日更新を目指します!
最低でも週5は更新したいと思ってます。
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