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## 第4話「特訓と新たな力」

翌日、土曜日。


朝6時、俺は学園の裏にある訓練場にいた。


「遅い!」


既に到着していた鈴音が、腕を組んで仁王立ちしている。


「5時58分ですよ?」


「2分前行動は基本でしょ」


理不尽だ。


でも、ジャージ姿の鈴音は新鮮で、文句を言う気が失せた。


「それで、何から始めるんですか?」


「まずは、あなたの能力を正確に把握することから」


鈴音が小さな記憶結晶を取り出した。


===================================

【訓練用記憶結晶(白)】

価値:10メモ

内容:「晴れた日の散歩」

危険度:なし

===================================


「これを食べてみて」


「え、いきなり?」


「大丈夫、これは私が作った安全な記憶。まずは、どんな風に摂取してるのか見せて」


俺は結晶を手に取った。


昨日までなら、口に入れて飲み込んでいた。でも——


『その必要はないわ』


Systemの声が響く。


『レベル10になった今なら、直接吸収できるはず。手のひらに意識を集中して』


言われた通りにすると、結晶が光となって俺の手に吸い込まれていった。


===================================

【白記憶を摂取しました】

経験値+10

MP消費:0(訓練用のため)


現在の摂取数:1/10

===================================


「!」


鈴音が目を見開いた。


「直接吸収…そんなことができるなんて」


「これも異常ですか?」


「異常なんてレベルじゃない。普通、記憶の摂取は経口でしかできない。それが常識だった」


鈴音が俺の手を取って、じっと観察する。


「痛みは?違和感は?」


「特に何も」


「そう…」


考え込む鈴音。


「ねえ、もう一つ試していい?」


今度は黒い結晶を取り出した。


===================================

【訓練用記憶結晶(黒)】

価値:50メモ

内容:「試験に落ちた日」

危険度:低

===================================


「これは少し負の感情が入ってる。でも、害はない程度よ」


「わかった」


同じように吸収する。


今度は少し苦い感覚があったが、問題なく摂取できた。


「どう?」


「苦いけど、大丈夫だ」


「苦い…味覚で感じるのね」


鈴音がメモを取り始めた。


「他の感覚は?視覚とか聴覚とか」


「えーと…」


集中してみる。


すると、摂取した記憶が鮮明に浮かび上がってきた。


試験の答案用紙。赤字の「不合格」の文字。落ち込む誰かの感情。


「見える。記憶の内容が」


「詳しく教えて」


俺は見たものを詳細に伝えた。


「なるほど…完全に記憶を追体験してる」


鈴音のメモを取る手が早くなる。


「じゃあ、次の実験」


「まだあるんですか?」


「当然。あなたの能力を理解しないと、訓練メニューも組めないでしょ」


そう言って、今度は2つの結晶を同時に差し出した。


「これを同時に摂取できる?」


「同時に?」


「ええ。普通は無理だけど、あなたなら…」


試してみる価値はある。


両手に一つずつ結晶を持ち、同時に吸収を試みる。


すると——


===================================

【エラー】

同時摂取は現在のレベルでは不可

必要レベル:20


スキル『並列摂取』が必要です

===================================


「あ、無理みたいだ」


「そう…さすがに限界はあるのね」


少しホッとしたような鈴音。


「でも、レベル20になれば可能になるらしい」


「レベル20…」


鈴音が複雑な表情をした。


「ねえ、そのレベルって、どうやって上げるの?」


「記憶を食べることで経験値が入って…」


「経験値…」


ますます考え込む鈴音。


「まるでゲームみたい」


『その通りよ』


Systemが口を挟んできた。


『この世界は、ある意味ゲームなの。ただし、命がけのね』


その言葉の意味を聞こうとした時——


「蒼、避けて!」


鈴音の叫び声。


反射的に横に飛んだ。


次の瞬間、俺がいた場所に光の刃が突き刺さった。


「なっ…」


振り返ると、訓練場の入口に人影があった。


「おはよう、諸君」


現れたのは、黒いスーツを着た男。サングラスで目元は見えないが、口元には薄い笑みを浮かべている。


===================================

【???】Lv.45

職業:記憶執行官(A級)

HP:800/800

MP:600/600

状態:戦闘態勢


WARNING:政府関係者の可能性大

===================================


「記憶統制局の者だ」


男が懐から証明書を見せる。


「君が、昨夜禁忌級を倒したという朝倉蒼君かな?」


「…………」


「黙秘か。まあいい」


男がゆっくりと近づいてくる。


「君には、我々と来てもらう必要がある」


「断る」


鈴音が前に出た。


「彼は私の生徒です。勝手に連れて行かせません」


「白石鈴音…君も優秀な記憶調律師だと聞いている。邪魔をしないでもらおうか」


「邪魔?」


鈴音の目が鋭くなる。


「むしろ、邪魔してるのはそっちでしょう」


「ほう」


男の笑みが深くなった。


「では、実力行使といこうか」


瞬間、男の姿が消えた。


「!」


次の瞬間、鈴音の真後ろに現れる。


「遅い」


男の手刀が振り下ろされ——


ガキィン!


金属音が響いた。


「なに…」


男の攻撃を、俺が受け止めていた。


いや、正確には俺の手から生えた、黒い結晶の刃が。


「これは…」


俺も驚いていた。


体が勝手に動いて、気づいたら防御していた。


===================================

【新スキル習得】

『記憶武装化』Lv.1

摂取した記憶を武器として具現化する

現在使用可能:近接武器のみ

消費MP:20/分

===================================


「面白い」


男が距離を取る。


「F級だったはずの少年が、私の攻撃を防ぐとは」


「蒼…」


鈴音が驚きの声を上げる。


「今のは?」


「わからない。でも」


黒い刃を見つめる。


これは、昨日食べた記憶から生まれたもの。チンピラの殺意が、形になったような——


「行くぞ」


男が構えを取った。


「記憶術式・執行剣エグゼキューション・ブレード


男の両手に、白銀の剣が現れる。


「蒼、下がって。相手はA級よ」


「でも」


「いいから!」


鈴音が前に出る。


「記憶調律・戦闘形態バトルモード!」


鈴音の周囲に、無数の光の糸が展開される。


それは複雑な幾何学模様を描き、障壁となって男の前に立ちはだかった。


「ほう、さすがは天才と呼ばれるだけある」


男が剣を振るう。


光の障壁が切り裂かれるが、すぐに再生する。


「でも、どこまで持つかな?」


連続で剣撃が放たれる。


鈴音の障壁が、徐々に押されていく。


「くっ…」


額に汗が滲む鈴音。


レベル差が大きすぎる。


このままじゃ——


『蒼、聞こえる?』


Systemの声。


『今なら、あの男の記憶を一部奪える』


『でも、レベル差が』


『大丈夫。彼は今、戦闘に集中してる。隙がある』


『どうすれば』


『記憶探査を使って、彼の一番古い記憶を探して。そして——』


なるほど。


「鈴音、もう少し持ちこたえて!」


「言われなくても!」


俺は集中した。


記憶探査、発動。


===================================

【スキル発動】

記憶探査 Lv.2

探査範囲:半径100m

対象の記憶反応を感知中...


発見:強い記憶反応 複数

最古の記憶を特定しました

===================================


見えた。


男の頭上に浮かぶ、無数の記憶。


その中で、一番奥にある小さな光。


子供の頃の、純粋な記憶。


「記憶喰らい!」


全力で能力を発動する。


「なっ…」


男が動きを止めた。


「貴様、何を…」


「あんたの記憶、もらうぜ」


ズルリと、記憶が抜けていく感覚。


男が膝をつく。


「ば、馬鹿な…A級の私が…」


===================================

【記憶摂取成功】

『執行官の幼少期の記憶』を獲得

経験値+500


レベルアップ!

Lv.10 → Lv.11

===================================


「今だ、鈴音!」


「わかってる!」


鈴音が全力で術式を展開する。


「記憶調律・終章フィナーレ!」


光の糸が男を縛り上げ、動きを完全に封じた。


「ぐっ…」


「悪いけど、しばらく大人しくしてて」


鈴音が指を鳴らすと、男は意識を失った。


「ふぅ…」


安堵の息をつく鈴音。


「蒼、大丈夫?」


「ああ、なんとか」


でも、足が震えていた。


A級との戦闘は、やはり無謀だった。


「それにしても」


鈴音が倒れた男を見下ろす。


「いきなり執行官が来るなんて…やっぱり、目をつけられてるわね」


「悪い、俺のせいで」


「謝らない」


鈴音が俺の頭を軽く叩く。


「パートナーでしょ?」


「…ああ」


「それより」


鈴音が真剣な顔になる。


「今の、新しい能力?」


「みたいだな。記憶武装化って」


「記憶を武器に…」


また考え込む鈴音。


「あなた、本当に規格外ね」


「それは…」


「褒めてるのよ」


鈴音が微笑んだ。


「でも、これで訓練の方向性が決まったわ」


「え?」


「戦闘技術よ。力があっても、使い方を知らなければ意味がない」


確かにその通りだ。


さっきも、たまたま防御できただけで、戦い方なんて全然わからない。


「よし、決めた」


鈴音が拳を握る。


「今日から、みっちり鍛えてあげる。覚悟しなさい」


「お、おう…」


なんだか、凄く大変なことになりそうな予感がした。


「あ、でもその前に」


鈴音が倒れた執行官を指差す。


「こいつ、どうする?」


「…………」


確かに、このまま放置するわけにもいかない。


『記憶を少し弄れば、今日のことを忘れさせられるわ』


Systemが提案してきた。


「記憶を、消せるのか?」


「え?」


鈴音が首を傾げる。


「あ、Systemが、記憶を弄れるって」


「へえ…便利ね」


感心する鈴音。


でも——


「それって、いいのか?」


「何が?」


「他人の記憶を勝手に消すなんて」


鈴音が少し驚いたような顔をした。


そして、優しく微笑む。


「優しいのね、蒼は」


「え?」


「でも、時には必要なこともある。私たちを守るために」


「…………」


「それに、消すんじゃなくて、ちょっとぼやかすだけでいいんじゃない?」


なるほど。


完全に消去するんじゃなく、曖昧にするだけなら——


「わかった」


俺は執行官に手を触れた。


『記憶編集、やってみる?』


『ああ』


意識を集中する。


男の直近の記憶が見えてきた。


俺たちとの戦闘。


その部分を、そっとぼかしていく。


「訓練場で学生と会った」「でも誰だったかは覚えていない」「特に問題はなかった」


そんな風に、記憶を書き換えていく。


===================================

【スキル発動】

記憶編集 Lv.1(新規習得)

対象の記憶を部分的に改変

消費MP:30

成功率:85%(レベル差による)


編集成功!

===================================


「できた」


「凄い…」


鈴音が感嘆の声を上げる。


「これで、私たちのことは覚えてないはず」


「でも、また来るかも」


「その時は、もっと強くなってるでしょ」


鈴音が自信満々に言う。


「さ、訓練の続き」


「え、まだやるのか?」


「当然。むしろ、実戦を経験できてよかったじゃない」


「それは…」


確かに、実際の戦闘を経験できたのは大きい。


でも、疲れた。


「ほら、立って」


鈴音に手を引かれて立ち上がる。


「今日は基礎体力作りから。走るわよ」


「走る?」


「そう。まずは10km」


「じゅ、10km!?」


「記憶屋は体力も大事。さ、行くわよ」


「ちょ、待てって——」


鈴音に引っ張られて、俺は走り始めた。


こうして、地獄の特訓が始まった。


でも、不思議と嫌じゃなかった。


鈴音と一緒なら、どんなに辛くても頑張れる気がした。


『青春ねぇ』


Systemの呟きは、今回も無視した。

【更新予定】

毎日更新を目指します!

最低でも週5は更新したいと思ってます。

【お願い】

★(評価)や感想をいただけると、作者のMPが回復します!

特に感想は、次話を書くエネルギーになります。

「ここが良かった」「ここはこうして欲しい」など、どんなことでも嬉しいです!


批判的な意見も大歓迎です。

初心者なので、皆様のご意見で成長していきたいと思ってます。

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