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##第2話「天才と落ちこぼれ」

記憶屋街第7区画。


普段は人通りの多い商店街だが、今は異様な静けさに包まれていた。


いや、静かなんじゃない。


音が、記憶が、すべて『喰われて』いるんだ。


「はぁ…はぁ…」


俺は建物の陰から、信じられない光景を見ていた。


広場の中央に、それはいた。


高さ5メートルはあろうかという、黒い靄のような怪物。その体は無数の記憶結晶で構成されていて、グロテスクに脈動している。


そして、その怪物と対峙しているのは——


===================================

【白石 鈴音】Lv.28

職業:記憶調律師(B級)

HP:380/450

MP:120/300

状態:軽傷

===================================


「記憶調律・第三楽章サードムーブメント!」


白石鈴音先輩だった。


銀色の髪を風になびかせ、両手から青白い光の糸を放つ。その糸が怪物に巻き付き、一瞬だけ動きを止める。


だが——


「グオオオオオオ!」


怪物が咆哮すると、光の糸は粉々に砕け散った。


「くっ…!」


鈴音先輩が後退する。


よく見ると、制服のあちこちが破れ、頬には血が滲んでいた。


『コード:RED、禁忌級記憶体』


頭の中でSystemの声が響く。


『人の負の記憶が集まりすぎて、自我を持った存在。通常の記憶術では倒せないわ』


「じゃあ、どうすれば…」


『簡単よ。喰えばいい』


「は?」


『その怪物の核となっている記憶を、君が喰らえば消滅する。ただし——』


Systemの声が、急に真剣になった。


『失敗すれば、君の精神は崩壊する。レベル4で挑むには、あまりにも危険すぎる相手よ』


その時、怪物が大きく腕を振り上げた。


===================================

【戦闘開始!】

===================================

朝倉 蒼 Lv.4

HP:150/150 MP:40/40

職業:記憶屋見習い(F級)


VS


禁忌級記憶体『絶望の集合体』Lv.???

HP:???/??? MP:???/???

危険度:SSS級

===================================


黒い瘴気を纏った拳が、鈴音先輩に向かって振り下ろされる。


「させるか!」


気づいた時には、俺は飛び出していた。


「危ない!」


鈴音先輩を突き飛ばす。


代わりに、俺の体に衝撃が走った。


「がはっ…!」


吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


全身が軋む。肋骨が何本か折れたかもしれない。


===================================

【ダメージ!】

===================================

禁忌級記憶体の『絶望の拳』!

朝倉蒼に100ダメージ!


HP:150 → 50(残りHP33%)

状態異常発生:

- 骨折(軽傷):敏捷-1ランク

- 出血(軽度):毎ターンHP-5

- 重傷:全能力-1ランク


WARNING:HPが危険域に到達!

===================================


「あなた…朝倉くん!?」


鈴音先輩が駆け寄ってくる。


「なんで…来ちゃダメって言ったのに…」


「だって…先輩が、守ってくれるって…」


血を吐きながら、俺は笑った。


「だから、今度は…俺が守る番です」


「バカ…」


鈴音先輩の目に、涙が浮かんでいた。


「あなた、ただの見習いなのよ?こんな化物相手に、何ができるって言うの」


「わからない」


正直に答えた。


「でも、このまま見てるだけなんて、できない」


ゆらりと立ち上がる。


怪物が、俺たちを見下ろしていた。


その瞬間、俺には『視えた』。


怪物の中心に、一つの巨大な黒い結晶。


そして、その中に閉じ込められている無数の人々の記憶。


「あれは…」


『そう、あの怪物の正体は『絶望の集合体』』


Systemが説明する。


『この街で記憶を売った人々の、最も深い絶望が集まって生まれた存在。放っておけば、街全体の記憶を喰い尽くすわ』


「なら、止めないと」


「朝倉くん?」


俺は一歩前に出た。


「先輩、下がっててください」


「何を言って——」


「俺には、視えるんです」


右手を掲げる。


「あいつの核が。そして、喰らう方法も」


『本気?レベル4で挑むなんて、自殺行為よ』


「うるさい」


Systemの警告を無視して、俺は怪物に向かって歩いていく。


「グルルルル…」


怪物が俺に気づいた。


巨大な腕が、また振り上げられる。


でも、今度は避けなかった。


「記憶喰らい(メモリーイーター)・発動」


===================================

【スキル発動!】

===================================

記憶喰らい Lv.2 を発動!

消費MP:30(残りMP:10/40)


効果:対象の記憶を強制的に摂取

成功率:相手のレベル差により変動

現在の成功率:15%(レベル差-6)


発動中...

===================================


俺の右手が、黒く染まっていく。


そして——


ドンッ!


怪物の拳と、俺の手のひらがぶつかった。


普通なら、俺の体なんて粉々になっているはずだ。


だが——


「なっ…!」


鈴音先輩が息を呑む。


怪物の拳が、俺の手のひらに『吸い込まれて』いた。


「グオオオ!?」


初めて、怪物が動揺の声を上げる。


「お前の記憶、俺が喰ってやる」


ズルズルと、怪物の体が俺の中に流れ込んでくる。


同時に、凄まじい量の記憶が脳を襲った。


——母さん、どうして死んじゃったの

——借金が返せない、もうダメだ

——愛してた人に裏切られた

——生きている意味がわからない


無数の絶望。

無数の悲しみ。

無数の怒り。


「うあああああああ!」


頭が割れそうだ。


これが、この街の人々が抱えていた闇。


『危険!このままじゃ精神が持たない!』


「うるさい…これくらい…」


妹の顔が浮かんだ。


病院のベッドで、必死に生きようとしている妹。


あいつに比べたら、この程度の苦しみなんて——


「大したことない!」


渾身の力を込めて、記憶を喰らい続ける。


怪物の体が、どんどん小さくなっていく。


そして、ついに核の結晶が露出した。


「これで…終わりだ!」


核に手を伸ばす。


その瞬間——


『待って』


怪物の中から、か細い声が聞こえた。


『お願い…消さないで…』


「!」


核の中に、一人の少女の姿が見えた。


10歳くらいだろうか。泣きながら、俺を見つめている。


『私…ママとパパが死んじゃって…記憶を売ったの…でも、寂しくて、悲しくて…』


「お前が、この怪物の元になった…」


『みんなの悲しい記憶が集まって、私、こんなになっちゃった…でも、消えたくない…』


俺は、迷った。


この少女も、被害者だ。


でも、このままじゃ街が——


「朝倉くん!」


鈴音先輩の声で、我に返る。


「その子は、もう——」


「わかってます」


俺は、少女の幻影を真っ直ぐ見つめた。


「でも、このままじゃダメなんだ」


『やだ…消えたくない…』


「消えるんじゃない」


優しく語りかける。


「俺の中で、生き続ける。みんなの記憶と一緒に」


『本当…?』


「ああ。約束する」


少女が、小さく微笑んだ。


『じゃあ…いいよ』


核の結晶が、俺の手に収まる。


そして——


パリン。


音を立てて、砕け散った。


===================================

【禁忌級記憶体撃破!】

===================================

獲得経験値:5000EXP!

獲得称号:『慈悲深き喰らい手』


大量レベルアップ!

Lv.4 → Lv.10(6レベルアップ!)


最大値上昇:

最大HP:150 → 250(+100)

最大MP:40 → 100(+60)

※現在値は据え置き(HP:50、MP:10)


職業進化!

記憶屋見習い(F級)→ 記憶喰らい(D級)


新スキル習得!

『記憶同調』Lv.1

・摂取した記憶の感情を理解し、浄化する


『記憶浄化』Lv.1

・負の記憶を正の記憶に変換する


スキル成長!

記憶喰らい Lv.2 → Lv.3

・摂取可能数:5個/日 → 10個/日


記憶探査 Lv.1 → Lv.2

・探査範囲:半径50m → 100m


ステータス大幅上昇!

筋力:F → E

敏捷:F → E

知力:D(維持)

精神:C(維持)

幸運:???(変化なし)


称号効果発動!

『慈悲深き喰らい手』

・負の記憶摂取時の精神ダメージ50%軽減

・即座にHP+20回復!(HP:50→70)

===================================


怪物の体が、光の粒子となって消えていく。


怪物の体が、光の粒子となって消えていく。


同時に、俺の体から力が抜けた。


===================================

【戦闘終了】

===================================

戦闘結果:勝利!

獲得報酬:確認済み


現在ステータス:

HP:70/250(28%)

MP:10/100(10%)


状態異常:

- 重傷:全能力-1ランク

- MP枯渇:スキル使用不可

- 精神疲労・重度:思考力低下

- 骨折(軽傷):敏捷追加-1ランク

- 出血(軽度):継続ダメージ


※病院での治療を推奨

===================================


「っと…」


膝をつく。


全身がボロボロだ。でも、なんとかやり遂げた。


「朝倉くん!」


鈴音先輩が抱きついてきた。


「バカ!無茶しすぎよ!死んだらどうするの!」


「す、すみません…」


「謝らないで!」


顔を上げると、鈴音先輩は泣いていた。


「F級の見習いが、禁忌級を倒すなんて…あり得ない…」


「先輩…」


「でも」


涙を拭いながら、彼女は微笑んだ。


「ありがとう。助けてくれて」


その笑顔に、俺の心臓が跳ねた。


ああ、この人——


めちゃくちゃ可愛い。


「あの、先輩」


「なに?」


「明日の放課後、まだ有効ですか?」


「え?」


「屋上で、詳しい話をするって」


鈴音先輩が、顔を赤くした。


「あ、あれは…その…」


「俺、行きます」


真剣に言った。


「この力のこと、先輩にだけは話したい」


「…………」


しばらく沈黙が流れる。


そして——


「わかった」


鈴音先輩が頷いた。


「でも、条件があるわ」


「条件?」


「私のこと、鈴音って呼んで」


「え?」


「だ、だって!命を助け合った仲なのに、先輩なんて他人行儀じゃない!」


ツンデレだ。


完全にツンデレだ。


「わかりました、鈴音…さん」


「さん付けもいらない」


「鈴音」


「そう、それでいいの」


立ち上がろうとして、よろける。


「危ない」


鈴音が支えてくれる。


「病院、行かなきゃね」


「その前に」


俺は空を見上げた。


怪物が消えた後の夜空には、無数の記憶の光が舞っていた。


解放された人々の記憶が、それぞれの持ち主の元へ帰っていく。


「きれい…」


鈴音が呟く。


「ああ」


俺も頷いた。


こうして、俺の最初の戦いは終わった。


でも、これは始まりに過ぎない。


『よくやったわ、蒼』


Systemの声が聞こえる。


『でも、覚えておいて。君が倒したのは、最弱の禁忌級。これから先、もっと強大な敵が現れる』


「望むところだ」


俺は拳を握った。


レベル10。


まだまだ弱い。でも、確実に強くなっている。


「鈴音」


「何?」


「俺、もっと強くなる」


「…………」


「君を、守れるくらいに」


鈴音の顔が、真っ赤になった。


「な、何言ってるの!私の方が強いんだから!」


「今はね」


「む〜!生意気!」


頬を膨らませる鈴音。


やっぱり、可愛い。


病院への道を、二人で歩いていく。


明日、屋上で何を話すんだろう。


この力の秘密。

Systemの正体。

そして、これから起こること。


わからないことだらけだ。


でも、一つだけ確かなことがある。


俺は、最強の記憶屋になる。


大切な人を守れるように。


そして、すべての記憶を——


「あ、そうだ」


鈴音が立ち止まった。


「何?」


「さっきの戦い方、誰に教わったの?」


「え?」


「だって、記憶喰らいなんて能力、聞いたことない。それに、あの戦い方…まるでベテランみたいだった」


鋭い。


さすが天才と呼ばれるだけある。


「それは…」


明日、話そう。


今はまだ、言えない。


未来の自分から受け継いだ記憶のことなんて——


『その通り。まだ早いわ』


Systemが囁く。


『でも、いずれ彼女も知ることになる。君と共に、この世界の真実を』


鈴音と並んで歩きながら、俺は夜空を見上げた。


記憶結晶塔が、遠くで静かに輝いている。


あの塔の頂上で、俺は何を見るんだろう。


そして——


何を失うんだろう。

【更新予定】

毎日更新を目指します!

最低でも週5は更新したいと思ってます。

【お願い】

★(評価)や感想をいただけると、作者のMPが回復します!

特に感想は、次話を書くエネルギーになります。

「ここが良かった」「ここはこうして欲しい」など、どんなことでも嬉しいです!


批判的な意見も大歓迎です。

初心者なので、皆様のご意見で成長していきたいと思ってます。

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