【短編版】部外者の口だし恐縮ですが、そのダンジョンボスを撃破したの、俺です~Fラン探索者の俺が捨て置いた討伐部位を拾って、ダンジョン踏破を騙っていたAランク様がいたので、ちょっと事実を指摘してみた~
短編です!
「うーん、今日も良い運動になったなー」
趣味と運動を兼ねてダンジョン探索をしている俺は、倒したダンジョンボスのドラゴンもどきを手早く解体して、魔石と主要部位だけ、腐敗防止機能つきの収納拡張袋に詰めていく。
「あ、収納袋、もう満杯かー。そういや全然、換金してない。よし、あとは置いてこー」
俺は散らばったままの素材を見回すとそう決断する。
幸い時間が経てばモンスターの素材はダンジョンに吸収される。
「素材を換金すると、税金処理が面倒らしいんだよな……とはいえ、これより大きな収納袋、買おうとすると高いし。ほぼ趣味で探索者やってる俺には痛い出費に……」
換金して収入が確定した時点で、税金の申告と支払い義務が発生するのだ。
本業の方でそれなりの収入のある俺は、実は冒険者を始めて以来、ずっと換金をサボっていた。税務処理をするのがどうにもめんどくさかったのだ。
──まあ、そのせいで探索者のランクがFランクのままなんだっけ。仕方ない、覚悟を決めて素材を換金するか~
取り出した探索者カードを出して、Fと書かれたそれを眺めながら、そんな考え事をしつつ、とぼとぼと帰っている時だった。
前方から物音がする。
さっと、俺は条件反射で飛び上がり、天井の突起を掴むと、フードを目深にかぶり身を潜ませる。
このフード付きコートは認識阻害機能つきの一品で、先程の収納袋同様、ダンジョン産の宝物をそのまま使っていた。
──あ、なんだ。来たのは別の探索者か。うわ、高ランク探索者っぽい格好。あれは、関わると、めんどくさそうなやつ……このままやり過ごそう。
俺の眼下を歩いて通っていくのも、ソロの探索者のようだ。
いわゆるファショナブルな雰囲気の鎧を着こんでいて、遠目には美少女に見える。そして探索で鍛えた俺の危機察知能力が、彼女には近づくなと告げていた。
──しかし珍しいな。あの手の厄介そうなタイプの女性探索者は、だいたい取り巻きの男を盾がわりにゾロゾロ引き連れているのが相場なんだが……
その女性探索者はやけにキョロキョロと地面を見ている。
まるで何か地面に落ちていないか、漁っているかのようだ。
それもあってか、天井に張り付いたままの俺には気がつかずに通りすぎていく。そのまま、ついさっきまで俺が探索していた方へと歩いて行ってしまった。
──ま、関わらずに済むならいいか。さて、帰ろう。
俺は気にしても仕方ないかと気持ちを切り替えると、そのままダンジョンから抜け出すのだった。
◆◇
「ふぅ、食べた食べた。さて、と。面倒だけど受付いくか。──あー、すいません、素材の換金をお願いします」
ダンジョンから抜け出した俺は探索者ギルドに併設された酒場で腹ごしらえを終えたところだった。
やっぱり運動の後の飯は、うまい。
「はい、探索者カードをお願いいたします。──ええっと、Fランクのカジュ様ですね、素材の換金は始めてですね。初納品、おめでとうございます」
「ありがとうございます?」
「こちらのトレーに、素材をお願いします」
納品が、めでたいのかと一瞬不思議になるが、確かにギルド側からしたら、稼ぎに繋がるのだ。めでたいことかと、すぐに納得する。
「あー。ちょっと、これだと乗りきらないかも?」
「え?」
そんなやりとりを俺が受付嬢と交わしているときだった。
「どういうことよっ! これは覇竜の迷宮のダンジョンボスたる、ドラゴンの素材よっ! 良く見なさいっ!」
俺たちの隣の受付で、誰かが騒いでいる。
「ですから、これはドラゴンの素材ではありません。討伐時にモンスターをご覧になっていれば──」
「なによっ、それっ。私に言いがかりをつける気っ! 私を誰だと思っているの。Aランク探索者たる戦姫、シエラレーゼよっ」
どうやら、素材の納品でトラブっているようだ。
──うわ……自分で二つ名を名乗るとか、はず。しかも、戦姫とか……
思わず聞こえてきた、恥ずかしい二つ名。俺は思わず耳を傾けてしまう。
──というか、覇竜の迷宮って、俺もさっき潜ってたところだよな。あそこのダンジョンボスは、俺がさっき倒してて、しかも、あれって、ドラゴンじゃないんだよね。覇竜の迷宮とか、紛らわしい名前がついてるから勘違いしやすい──あ……
そこで思わず俺はちらりと隣を見てしまう。
すると、そこにいたのは俺が帰りに見かけた、例の厄介そうな女性探索者だった。
一歩も引く気がない様子の戦姫とやらに、彼女の対応をしている隣の長い金髪の受付嬢も明らかに困った様子だ。
俺の対応をしてくれている受付嬢も隣が気になる様子。明らかにそわそわしている。
──あれ、そういえばこの俺の対応をしてくれている人と隣の受付嬢さん、顔立ちが似てるな。髪型はこっちの方がショートだけど同じような色合いだし。うーん、これはあれだ。隣を早急に黙らせた方が、スムーズに進みそう。
ただでさえ、素材の換金は手続きがめんどくさいのだ。
それを処理してくれる受付嬢さんが、隣を気にしたままなのは、俺としても望ましくない。
「ちょっと失礼。よろしいですか?」
俺はかぶったままの認識阻害機能つきのフードを外しながら、隣の戦姫さんに声をかける。
「なによっ、部外者は黙って……」
「──部外者からのさしで口で恐縮なんですが。その素材、俺が討伐したボスモンスターの素材の残りを拾ってきた物、ですよね?」
「は──?」
ポカンとする表情をする戦姫シエラレーゼ。しかしその瞳はすぐに不自然にキョロキョロと動き始める。そして、その視線が俺の持ったままだった探索者カードに向けられたのがわかる。
「あ、あんたみたいなFランクがファントム様な訳──」
そこで、何かに気がついたように、ばっと両手で自分の口を塞ぐ戦姫シエラレーゼ。
そこに、俺の受付をしてくれていたショートの金髪の受付嬢さんが鋭く突っ込む。
「──ファントム様ですか? それは今噂になっている高難度ダンジョンを次々に踏破しているという謎の探索者の方の、通称ですよね」
ショートの金髪受付嬢さんがキリッとした顔で話に入ってくる。しかし彼女のいうファントムなんて存在の噂、俺は初めて聞いた。ただ、なんとなく嫌な予感がしなくもない。
「これはやはりシエラレーゼ様が討伐したモンスターの素材ではないのですね」
ロングの髪の受付嬢さんを庇うようにして続けるショートの髪の受付嬢さん。
「ち、ちがっ! だ、だいたいそこのFランクごときが、覇竜の迷宮のダンジョンボスを倒せる訳、ないじゃ──」
腕をバタバタと動かし、形だけは整った顔を真っ赤にして、俺のことを指差してくる戦姫シエラレーゼ。
「はい、これ。ダンジョンボスの魔石です。換金をお願いしますね、受付嬢さん」
俺は収納袋から取り出した魔石を興奮気味のショートの髪の受付嬢さんに手渡してみる。そのついでとばかりに、俺は唖然とした顔をしている戦姫シエラレーゼに笑顔で告げる。
「ちなみ、覇竜の迷宮のダンジョンボスはドラゴンじゃなくて、ドラゴンもどきのカエルの化物なんですよ。覇竜とかついてるから勘違いしやすいですよね? 両生類の癖に鱗はあるは、でかくて火を吹くはで、そんな風に呼ばれてるとか」
「──はい、確かにこちらエンシェントマスターフロッグの魔石で、間違いございません。カジュ様、覇竜の迷宮の踏破、おめでとうございます……シエラレーゼ様、討伐の詐称は重大な規約違反となります。別室まで、ご同行いただけますね?」
ショートの金髪受付嬢さんの言葉に、無言のままうなだれる戦姫シエラレーゼ。そのままギルドの警備らしき男たちに連行されるようにして、姿が見えなくなる。
「──大変でしたね。大丈夫ですか?」
それを見送った俺は、絡まれていたロングの髪の受付嬢さんを労るように話しかける。
「あ、あの。この度は本当にありがとうございました」
「私からもお礼を言わせてください。この子は、妹なんです。少し気弱なところがあって。本当に助かりました。あ、私はアリシア。妹はローラです」
どうやらやはり二人は姉妹だったようだ。顔立ちが似ているのも納得だった。
一人納得している俺に妹のローラが尋ねてくる。
「あの、あなた様は、噂のファントム様、なのでしょうか?」
「いやーどうなんでしょう。その噂は初めて聞いたので。あ、そうだ換金手続きの続きをお願いします」
俺は担当してくれているアリシアに告げると、収納袋から残りの素材を出し始める。
複数のダンジョンを踏破して溜め込んできた素材たちだ。
あっという間にアリシアの出したトレーなんて埋まって見えなくなり、そのまま山を作っていく。
「し、しばしお待ちください! いま応援を呼んできますので!」
焦ったように告げるとアリシアは奥に引っ込んでいく。
「やっぱり、ファントム様だ……」
妹のローラの方はその俺たちの様子をなぜかうっとりしたように眺めているのだった。
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連載版も投稿してみましたので、よかったらそちらもご覧になってみてください。
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