3.憧れと、諦めないこと。
『冒険者っていうのはね、困っている人を助けるヒーローなんだ』
それはボクがまだ、とても幼い頃のこと。
もう顔も忘れてしまったけど、自分の危機を救ってくれた冒険者がボクにかけてくれた言葉だった。家の事情で街の外に飛び出した自分は、魔物に遭遇して危うく命を落としかける。そこにその人がやってきて、助けてくれた上でそう言ってくれた。
それ以来ずっと、ボクにとっての理想は変わらない。
自分もいつか、誰かを守れるだけ強く優しい冒険者になるのだ、と。
◆
「アルス、さん……?」
「大丈夫? リリカ、まだ走れそうかな」
ボクが声をかけると、少女は驚き目を丸くする。
そして、途端に我に返って叫ぶのだ。
「駄目です! こんな大きなドラゴン、アタシたち二人では倒せません!!」
――だから逃げろ、と。
リリカは犠牲になるのは自分だけで良い、と言いたいのだと思う。たしかに傷を負っているとはいえ、このように巨大なドラゴンを相手に二人では分が悪いとしか言いようがなかった。だけど、こちらも引くわけにはいかないのだ。
「まだ、諦めるには早いよ。もしかしたら、凄い奇跡でも起こって――」
「奇跡は起こらないから、奇跡って言うんですよ!!」
そうやって、こちらが励まそうとすると。
リリカは何やらいつもより強い語気で、こちらの言葉を否定してみせた。どうやら、この少女は完全に諦めてしまっているらしい。
それもそのはずと、理解はできた。
だとしても、ボクはその理解を拒絶した。
「それじゃあ、起こしてみせようか。――奇跡」
「……え?」
「こんなデカいドラゴン、ボクたち二人で討伐したら……それこそ、奇跡だよね」
「それは、そうですけど……」
「昔ね、ボクを助けてくれた冒険者が言ってたんだ」
その上で、真っすぐに。
リリカの呆気に取られる幼い表情を見て、笑顔で伝えた。
「奇跡ってのは、最後まで諦めなかった人が起こすものだ……ってね!」
ボクは知っている。
先日、最後まで諦めなかった自分に何が起きたのか。
いま手にしている弓が、その証明だった。だから――。
「見ててね、リリカ。……最後まで諦めないボクを」
「アルスさん……!?」
ボクは少女にそう告げて、ドラゴンへと向かって駆け出すのだった。
◆
「アルスさん……す、すごい!」
そうして、少女は目撃する。
囮役だった少年が、ドラゴン相手に素早く立ち回る姿を。
ブレスを避け、限られた本数の矢を的確に撃ち込んでいく。その都度にドラゴンは絶叫するが、前進は止まらない。むしろ勢いを増して、必ずやアルスを喰らわんと肉薄するのだ。
そんな、一進一退の攻防。
リリカはその様子を目の当たりにして、心臓が跳ね回るのを感じた。
言いようのない高揚感、あるいは緊張感か。ともかく彼女は目の前の少年の戦い、諦めない姿に目を奪われていた。だからこそ、気付くこともある。
「威力が、足りない……? 弓のどこかに、不備が……」
どういう理屈か分からないが、アルスの弓の腕は素晴らしい。
しかし、ちっぽけな矢の威力では、急所を貫くには至らない様子であった。つまり弓自体の整備ができて、それが持つ出力が大きく成れば、きっと――。
「そっか、それなら……!」
リリカはそう思い立って、いつの間にやら立ち上がっていた。
そして、思い切り声を張り上げるのだ。
「アルスさん、アタシに弓を貸してください!!」
◆
「……なるほど、弦が緩んでたのか」
ボクはリリカに弓を渡して、自分で気づかなかった異変に納得する。
矢は間違いなく、ドラゴンの弱点を射抜いていた。それでも後退させるに至らない。その不自然な理由はそこにあったのだ。
そしていま、それを解決する術はリリカの修繕しかない。
「頼んだよ、リリカ……!」
ボクは弓の調整をする少女を見やって、そう呟いた。
だがすぐに、眼前のドラゴンを睨みつける。
「ボクたちは、こんなところで終わらない」
そして、宣言した。
「こんなところで、諦めてやるものか!!」
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