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1.生還後、酒場にて。




「あっはははははは! まさか、あの状況から生還するなんてな!」

「は、ははは……」



 ダンジョンから帰還して、仲間を探すと彼らの姿は酒場にあった。

 ボクが到着した頃にはすっかり出来上がっており、ほとんど全員が赤ら顔。ドラゴン討伐失敗の悔しさなど微塵も感じられないくらいの浮かれっぷりに、思わず苦笑が漏れた。

 そうしていると、リーダーのアクアはこちらの肩に手を置きながら言う。


「いや、しかし悲しかったんだぜ? アルスは死んだんだろう、って思って、みんなで泣きながら街にもどってきたもんだ」

「……それにしては、ずいぶん楽しげだけど?」


 分かりやすい演技をするアクアに、ついついそんなツッコミを入れた。

 周囲を改めて確認してみると、やはりボクのことを気にしているメンバーはいないように感じる。誰もかれも、エールを片手に肉をむさぼり、肩を組んでは歌を叫んでいた。

 そんな様子を気にしていると、リーダーは大きくため息をつく。

 首を左右に何度か振って、耳元でこう囁くのだった。


「ばーか、空元気ってやつだよ。俺のパーティーは仲が良いんだぜ? 新入りだろうと、使えない木偶の坊だろうと、全員が全員を想ってるアットホームなグループだ」

「そう、なんですかねぇ……?」


 言葉自体は綺麗だが、どうにも裏があるように感じるのはボクの気のせいか。

 そう思いつつエールを一口すると、アクアは――。


「信じろって、俺はお前のこと使えるって分かったんだからよ!!」

「げふっ……!!」


 思い切り背中を叩かれて、喉まできていたエールが変なところに。

 ボクは咳き込むが、そんなこちらを見て彼は笑っていた。

 そして、何かを気にした素振りをしたが……。


「げほっ、げほげほっ……!?」


 こっちは、そんなの気にしている場合ではなかった。





「うー……ちょっと、飲み過ぎたかな?」


 手洗いに行ってくると、軽い嘘を口にしながら外の空気を吸いにきた。

 酒場の喧騒を遠くに感じつつ、冬季特有の乾いた冷たいそれを胸いっぱいに送り込む。そうして改めて、自分は生きて帰ってきたのだと、そう実感するのだった。

 肌を撫でる裂くような冷気。

 長くここにいては、きっと風邪を引いてしまうだろう。


「さて、そろそろ戻ろう――ん?」


 そう考えた時だった。


「あれは、たしか……リリカ?」


 真っ暗闇に入りかける、ほんの手前。

 そこで酒場の明かりを頼りにして、見覚えのある女の子が作業をしているのを見たのは。どうしたのかと思い、ボクはこっそり近づいてから声をかけてみた。


「お疲れ様。……何してるの?」

「ひゃ……!? あ、ああ……アルスさん、でしたか」


 すると金色髪に赤い瞳をした少女は、まさかといった様子で軽い悲鳴を上げる。

 しかし相手がボクだと気付くと、少しだけ気恥ずかしそうに笑った。


 リリカは、同じパーティーに所属する小柄な女の子。

 ボクより幾分先に入ったそうだけど、こうやって一対一で話すのは初めて。ただ第一印象だけでいうなら、少し怖がりな可愛い子、って感じか。

 そんなリリカは、どこか困ったように笑っていた。

 ボクはそれの意味が分からなかったが、彼女の背にあるものを見て訊ねる。


「あ……これって、もしかしてみんなの武器とか、防具?」


 そこにあったのは所々がほつれたり、破損している武具たちだった。

 そして、リリカの所有物であろう道具の数々が置かれている。


「そう、です。えっと……アタシの特技は、これくらいなので」

「特技……もしかしてだけど、修繕かな?」

「は、はい! そうなのです!!」


 こちらが言い当てると、少女は目を輝かせて頷いた。

 どうやら彼女のパーティーでの役割は、みんなのサポートのようだ。ダンジョンで命を張って戦うボクたちにとって、そういった装備の修繕を行う存在は貴重だろう。

 そう思ったのだが、しかし疑問も浮かんできた。


「でも、どうしてこんな寒い場所で? 中に入らないの……?」

「う……そ、それは――」


 それを訊ねると、リリカはどこかうつむき加減になる。

 そして、ポツリとこう言うのだ。


「ア、アタシは……役に立たない、グズですから」

「役に立たない、グズ……?」

「……はい」


 その言葉に、思わず首を傾げてしまう。

 だって修繕は戦闘技能ではないとはいえど、絶対に必要になるものだ。それを請け負っているのだから、役立たずなんてことはあり得ないと思うのだが……。



「あ、あはは……! 気にしないでください、明日も頑張りましょう!!」

「え……あ、うん」



 そんなこちらの表情を察して、リリカは努めて明るく笑った。

 ボクはしばし、そうやって作業する彼女を見つめる。


 なんだろう、この違和感。


 ボクはすぐにその正体を掴むことはできなかった。

 だが、次のクエストの時だ。


 その違和感は、すぐさまボクたちに牙を剥くこととなる。


 


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