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プロローグ 囮役、覚醒。






「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」



 ボクは思い切り情けない悲鳴を上げながら、ダンジョン内を駆け回っていた。

 それというのも、今回の討伐対象であるドラゴンにやられないため。こちらを執拗に狙ってくる【ブレス】を紙一重で回避しつつ、ボクはどうにか時間を稼いでいた。


 そう、時間を稼いでいる。


 申し上げておくと、ボクはほとんど丸腰だった。

 武器と呼べるものといえば懐にある果物ナイフくらいなもので、こんな小さな刃でドラゴンを倒すなど不可能。そもそもとして、ボクは戦闘要員ではないのだから。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 そしていま、またドラゴンの咆哮に震えあがった。

 こんな情けない冒険者は、他にいない。


 それでは何故、ボクがドラゴンと相対しているのか、というと。

 単純な話、そのことこそがボクの役割だったからだ……。



『おい、アルス! 囮役のお前が、俺たちの逃げる時間を稼げ!!』



 思い出されるのは、パーティーリーダーの怖い顔。

 ドラゴンとの戦況が悪くなると、彼はボクにそう命じた。こちらのステータス【回避力】がカンスト寸前だ、ということを踏まえてのことだろう。

 状況から考えるに、その判断はまず間違いではなかった。

 ボクだって、たくさんのパーティーをクビになって、最後の最後に囮役として自分を売り込んだのだから。このように捨て駒同然の扱いになることは、百も承知のはずだった。


「ぜぇ、ぜぇ……う、あ……!?」


 だから、こんな結末になるのも分かっている。

 いくら【回避力】が優れていても、それ以外のステータスが平均以下。時間稼ぎはできたとして、いずれ息切れしてドラゴンの餌食になるのは分かっていた。

 足がもつれて、前のめりに倒れ込む。

 そんなボクを恨めしく睨んだ怪物は唸りながら、一歩、また一歩と迫ってきていた。


「く、そ……!」


 這いつくばりながら、思わずそう悔しさを口にする。

 逃げ切れなかったことへのものか、あるいは自分の運命を呪ってのものか。――いいや、そのどちらでもない。これは紛れもない、不甲斐ない自分に対しての苛立ちだった。


 夢に見て、憧れた冒険者としての生き方。

 それは困難へと果敢に立ち向かい、仲間と共に乗り越えるものだったはず。

 だというのに、いまのボクはどうだろうか。情けなくて仕方なかった。魔物を目の前にしても逃げ惑うことしかできず、こうやって命を落とす。

 そのこと自体が怖いのではない。

 その程度のことしかできず、誰にも記憶されないのが怖いのだ。


「ま、だ……死ねない。死んで、たまるか……!」


 ボクは匍匐前進しながら、唇を強く噛みしめる。

 だから、せめて最後に。目の前の敵に『一矢報いる』ことさえ、できれば……!



「え……?」



 そう思った直後だった。

 目の前が一瞬だけ光ったような気がして、手元にそれがあったのは。


「これ、は……弓? 矢も、一本ある」


 これって、そういうことか……?


「は、ははは……なんだよ、それ。馬鹿みたいに、出てくるなよ……」


 思わず乾いた笑いが出た。

 ボクが『一矢報いる』とか考えたから、か?

 そんなお情けみたいなこと、まさか本当にあるとは思えなかった。だからボクは、いっそのこと開き直って弓を手に取る。そして矢を番えて、ドラゴンの眼に向けた。

 そして、力いっぱいに引き絞り――。



「もう、どうにでも……なれってんだ!!」



 ――それを放った。

 すると矢は明らかに外れてしまった。そのはずだったのに、




『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

「……え?」




 不思議なことが起こった。

 放たれた矢は、ドラゴンの眼を射抜いたのだ。

 ドラゴンはもがき苦しんで、どこかへと消えてしまう。


「これ、は……?」



 ボクは生き残れたのか……?

 ただそれ以上に、手元にある弓の不思議さに唖然としていた。



 後になって思えば、これが冒険者アルス・オルリオとしての転機だったのだろう。


 


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