BRAVEー勇気の魔法ー
「うーん」
「どうした?」
俺、エインは同じテーブルを囲っていた親友のアシェルがそう唸っているのを見てそう尋ねた。
ここはアラネス魔法学校。魔法を極めるために俺もアシェルもこの学校に通っている。俺とアシェットは同じクラスでかなり仲が良い。
「イーチェの事なんだ」
「ああ...」
イーチェは同じクラスのマドンナ的存在だ。金髪に長い髪とその美しい容姿は「容姿端麗」という言葉が当てはまるほどで、クラスのみならず誰からも好かれている。
「俺、告白しようと思うんだ!」
「おお」
「でも...俺ってこんな感じじゃん?」
そういう親友は心配そうに自分の体を見る。アシェルは少し小太りで顔は平々凡々。マドンナのイーチェからしたら生徒の1人程度にしか思っていないだろう。
「だから、その勇者を見ていてほしいんだ!」
「あ、ああ」
そういうと、アシェルは立ち上がり一緒に来てほしいというような仕草をする。俺は親友のためについていった。
教室に戻るとイーチェを見つけ、近づいて「ねえ...」と声をかける。
「なに?」
「え、えっと...」
「なに?私暇じゃないんだけど」
「ああうん...ええっと...」
なかなか言い出せないアシェルに少しイラついたようにイーチェが待っていると、向こうから「イーチェ」と呼ぶ声が聞こえる。
「あ、はい!!」
「ああ...」
イーチェを呼んだのは廊下の先生で、そっちの方に行ってしまい告白を達成できなかった。まあ当然と言えば当然の反応だろう。イーチェはアシェルの事なんて何も思っていないのは見ればわかる。問題は、ここからどうやって振り向かせるかだ。
「うーむこれは難しいなあ...」
必ず成功させるために何か作戦を練らなければならない。授業に向かう途中も考え、授業中になっても俺はいい作戦ウィ考えたがいい案が思いつかなかった。
「いいですか?この『グライデン』という魔法はかなり高度なものです。なので相当の能力がないと使えないのです」
先生の授業の声を聞きながら、俺は隣でしょんぼりとしているアシェルを慰める。勇気を出せずに言えないのをどうにかできないものか...俺はそう考えながらうーん、と首を傾げる。
「エインさん、エインさん!」
その時向こうから先生のよく声が聞こえる。先生はかなり年行っていて白髪の頭を団子のように丸めてシワシワの顔に小さいメガネをかけているがかなりの実力者何だとか。俺は「話を聞いてませんでしたね?」と言われるので俺は適当に平謝りしておいた。
アシェルが自信ないのにはもう一つ理由がある。それは同じクラスのウェルネスという男の存在だ。
「あいつは魔法の成績もいいし運動神経もいい完璧なやつだからなあ。そりゃあ勝ち目は薄そうだ...」
ウェルネスは完璧超人な上に、イーチェが惚れている人物だ。はっきり言って勝てる相手ではないと俺は考えていた。だがもちろんそんな事で友人に諦めさせるような事はない。できるだけ悪あがきはしてやろうと考えている。
「エインさん!聞いているのですか!?」
その時、先生のその叫びと共に机に何かが飛んでくる。それは魔法で投げ飛ばしたチョークだった。そのチョークはテーブルに突き刺さり煙を上げる。顔をあげると先生が少し怒ったようにこちらを見ている。
「エインさん高等魔法、『グライデン』に必要なものはなんですか?」
「え、えーっと...」
しどろもどろで答えようとしない俺に先生は「ちゃんと授業は聞いてくださいね」と言い、続け様に笑い声が聞こえてくる。
そこでも授業を聞くふりをしていい案を考えていると、俺は少しいい事を考えた。
「今日はここまで!」
授業が終わり、立ち上がって隣のアシェルを連れてウェルネスの元へと向かった。ウェルネスは楽しそうにイーチェと話している。
「なあ」
「やあエイン君とアシェル君」
「何?なんか用?」
ウェルネスとの会話を邪魔されてイーチェはすこし不満そうだ。
「そう言えば僕は急用があったんだった。それじゃあね」
そう言って去ろうとするが、俺が用があるのはむしろウェルネスの方なので「待ってくれ」と引き止める
「アシェルと魔法決闘してくれないか?」
「え??」
俺のいきなりの提案にアシェルも驚く。魔法決闘というのはその名の通り、魔法をつかって戦うというものだ。もちろん弱い魔法しか使え内容も定義されていて相手に降参させれば勝ちだ。
「ちょっとエイン何考えてんだよ!」
「考えてもみろ。こいつに勝てればイーチェも振り向くだろ??」
「それは...」
そう言ってアシェルは黙り込む。確かにイーチェの目をアシェルからこちらに向けるチャンスだ。俺の無茶な提案にアシェルも「わかった」と言って乗ってくれた。
放課後で場所は中庭でやる事になった。どちらも自信満々だ。
「ウェルネスあんなやつぶっ倒しちゃってよ!」
「え?ああ、うん」
イシュナは相変わらずウェルネスの方に肩入れしているがもちろん勝てばいい話だ。
「それで、どうやって勝つつもりなの?」
「え、あーえっと」
俺はそのアシェッルも質問にしどろもどろになる。そう言えばそこまで考えていなかった。どうにかして勝つ方法を考えなければならない。
「そこはまあ...気合いで頑張れ」
「えぇ...」
「きたね」
中庭にはすでにウェルネスとイシュナがいた。アシェルと俺は2人を見る。
「魔法の撃ち合いって事でいいんだよね?」
「ああ。先に降参って言った方が負けだ」
この決闘は大体魔法で撃ち合い降参させた方が勝ちだ。魔法の種類は問わないが、基本は相手にあまりダメージのないような魔法を使うようにと暗黙の了解がある。
「はーっ!!」
戦いが始まり、まずアシェットが炎の魔法を出す。それをウェルネスが水の魔法を出し相殺する。魔法にはこのほかにも雷や氷などたくさんあり、今の炎と水のような強弱が決められている。
「この!!」
「やるね!!」
様々な魔法を出すが、今度はアシェットが同じ魔法を出し、相殺する。アシェルは負けじと炎や氷、雷など魔法を出すがやはり何度やってもアシェットが繰り出す同じ魔法に相殺される。
「ちょっとやりすぎたかな...まあいいか」
そう言って炎と雷の魔法を同時に繰り出す。その攻撃にアシェルは魔法で防ごうとするが2つ合わさった威力で防ぎきれずに吹き飛ばされてしまった。
「さすがウェルネス!!」
「まあ、普通だよ」
大喜びのイシュナにウェルネスはそういう。俺はその様子を見ながら「しょうがない」と言いながら一枚の紙を出した。その紙には魔法陣が書いてあり、愉快において俺は魔力を込めると、ボン!という音を立てて煙が立ち、大きなライオンの魔物が姿を現した。
これは魔物を呼び出す「召喚紙」というもので、俺のやったように魔力を込めれば封じされていた魔物が飛び出すという仕組みだ。
「ギュオオオオオオオオン!!」
ライオンの魔物は大きな唸りをあげてウェルネスたちの方へと向かって行く。俺の作戦はこうだ。ライオンの魔物を戦わせ、ウェルネスがいい感じに戦ってやられたところにアシェルがトドメをさす。
少し強引だが、魔物を使ってなんとか無理やりくっつけてやろうという作戦だ。
「ウェルネス助けて!」
「うわああああああ魔物怖いいいいいいいいいいいいいい!!」
ウェルネスはそう言いながら先程までのかっこいい姿はどこにいたのかビビりながら命乞いをしていた。
「ギュオオオオオオオオン!!」
ライオンの魔物は勢いよくイシュナの方へと向かう。「きゃああああああ!!」と叫ぶイシュナに向かってくるライオンは爪で攻撃を仕掛けてくる。
「え?」
だがその攻撃は防がれた。イシュナの目の前にはアシェルの姿があり、咄嗟に襲われそうなイシュナの目の前立ち。腕で爪の攻撃を防いでいた。爪が刺さったアシェルの腕には血が流れてきている。
「あんた!!」
「早く逃げて!!!」
「...うん!」
アシェルのその言葉にイシュナはそそくさと逃げる。そしてアシェルは「はああああああああああああああ!!!」と言いながらもう片方の手を出した。
するとその手から凄まじい光線が飛び出して、ライオンの魔物を吹き飛ばした。
「あれは、高等魔法『グライデン』」
「アシェル勇気に応えて発動したのか!!」
「ギュオオオオオオオオン!」
ライオンはまだ生きていて、腕でアシェルを叩くように吹き飛ばした。アシェルは勢いよく壁に激突する。
「まずい!」
その時、大きな氷の魔法がライオンを包み込み、あっという間に氷漬けにしてしまった。その魔法を使ったのは先生で、「大丈夫ですか!?」と周りの生徒を心配する。
「イシュナ大丈夫!?」
そう言ってアシェルはイシュナの方に駆け寄る。イシュナはうるさい!と最初は言っていたが、少し顔を赤らめて「ありがとう」とだけ言った。
「これ、君がやったんだろう?」
そう言いながらウェルネスが近づいてくる。俺は素直に「ああ」とだけ答えた。
「少しやりすぎたな。あとであいつにも謝っておかないと」
「まあでも、目的は達成できたじゃない?」
「やっぱり分かってたのか」
ウェルネスがイシュナと話していてアシェルが来た時、明らかに2人にしようと急用と言って去ろうとしていたし、今回のもアシェル相手なら秒殺できていたとことを明らかに手加減をしていたのを見てウェルネスはこの作戦にどうやら勘づいているようだった。
「お前もあのライオンにビビる演技すごかったぞ」
「そうかい?結構迫真だったからね」
「でもいいのか?あんなカッコ悪い演技して人気落ちるんじゃないのか?」
「まあ別に落ちたところでさ。それよりも見てごらんあの2人
向こうのほうでアシェルとイーチェが何か話している光景を見て俺もウェルネスも良かったと安堵の息を漏らす。
「これで一件落着か」
「いいえ」
後ろからそんな声が聞こえ、振り向くと先生が少し怒ったような顔でこちらを見ていた。
「あの魔物、あなたは召喚したそうですね」
「あ、いやその..これはですね!深い事情がありまして...」
そう俺が弁解しようとするが先生は「言い訳は向こうで聞きます」と言って俺を引っ張っって職員室へと向かった。