第二話 チュートリアル本
まずはチュートリアル本の確認からだろう。
かなり長いからざっと要点だけ読んで、詳細はどこか落ち着けるところで読もう。
森は危険が多そうだ。
一旦周囲を警戒してみる。
風に葉がなびく音しかしない。
よし、本を開こう。
ーーー『一見最弱だけど実はチートなスキルについて』
これだ!これこれ!
まず最初に一番知りたい奴!
ソシャゲでガチャ引く時くらい心臓が高鳴っている。
え?その程度かって?
大学受験はむしろ落ちてる気しかしなかったし、誰かに告白したこともないし、
パチンコとかのギャンブルは怖くてできないし……
俺の人生において胸が弾むほどの期待に満ちた瞬間なんてガチャくらいしかなかったよ
ーーーあなたに与えられたスキルは『数値化』です。
『数値化』?
字面から察するに何かの数値を見えるようにするスキルか。
明らかに攻撃的なスキルじゃないので確かにこれは一見最弱っぽいな。いいね、定義クリア。
ーーー「視覚内のオブジェクト」の「パラメーター」を指定し、「単位」を設定することで数値を表示することができます。
なんとなく最初にやってみようと思ったのは、「この本」の「総ページ数」はいくつか、だった。
単位は「ページ」だな。
すると次の瞬間、本の上に「チュートリアル本 616ページ」と薄い文字が浮かび上がる。
AR、あるいはゲームのUI表示みたいだな。まぁこのあたりは鉄板か。
どうも何かを入力するという動作は必要なく、意識するだけで発動する能力のようだ。
じゃぁ次。
「視界内の植物」の「全長」、単位は「メートル」
すると視界を埋め尽くすように一気に文字が浮かび上がる。
「ヴェノムツリー 12.8メートル」「ホタルギ 4.2メートル」「ハングドラシル 9.6メートル」……「」「」「」
「バベルサボテン 331.2メートル」「ホタルギ 4.1メートル」「タタラ・タトゥ 7.6メートル」……「」「」「」
あまりの情報量に思わず目をつぶってしまう。
しまった、森で発動するんじゃなかった。
複数対象にも可能なのかを知りたかったのは確かだが、「植物」は流石に広すぎた。
見えたのは一瞬だったが収穫は多い。
まずは『数値化』以外の情報。
さっき、「この本」で指定したのに浮かび上がった情報が「チュートリアル本」だったのでもしやとは思ったが、
名前を正確に表示してくれるおまけ機能があるみたいだ。
そして、「ホタルギ」のように重複する種類でも個体を別々として認識していれば別々に表示できる。
最後にこの世界について。
植物に「ツリー」なんていう元の世界と同じ言葉が使われているから
俺が理解しやすいように翻訳でもされているのかと思ったが、
しかし「タタラ・タトゥ」のような言葉は全く知らない。恐らくこれはこの世界固有の名称だ。
ここから想定されるのは……
俺は植物にかけた『数値化』を解除するイメージをし、目を開いて本に意識を向ける。
「チュートリアル本」の「この世界に存在する冊数」、単位は「冊」
「チュートリアル本 616ページ 348冊」
ビンゴだ。
同じようにチュートリアル本を渡されてここに異世界転生してきた人間が少なくとも348人はいるってことだ。
過去にも異世界転生してきた人間がいれば、元の世界の言葉が混在している理由としてふさわしい。
きっとチート能力を手にしているはずだから、伝説上の偉人とかに名を連ねているんだろうな。
「バベルサボテン 331.2メートル」は明らかに視界内に収まっていないが一部でも見えていれば全長を知ることが出来た。
同じくチュートリアル本もすべてを視界内に収めていなくても、存在している冊数を数値化することが出来るみたいだ。
なるほどね、これはかなり面白い能力かもしれない。
チュートリアル本を読めばもっと深くまで能力を知れそうだ。
どうして先に全部読んでから検証を始めなかったのかって?
家電製品とか買った時にざっと読んで使いながら読み進めていくタイプなんだよ俺は。
さーてもう少し読もうか、とチュートリアル本を再び開こうとしたとき、一陣の風が吹いた。
俺は体勢を崩し、転んでしまう。
「攻撃……?いや、どこも痛くないな」
尻もちをつきながら状況を確認し、愕然とする。
「本が……なくなってる……」