プロローグ
なろう小説が嫌いだ。
一見最弱とか言いつつどう見ても最強スキル与えられてて無双する主人公とか!
周りの登場人物が馬鹿すぎるだけなのに持て囃される主人公とか!
薄い理由で出会う女の子全てから好かれる主人公とか!
最初から結果が見えているようなザコ敵を何でもないような顔で蹴散らす主人公とか!
何もかも腹が立つ!
そんなものにカタルシスがあるのか?
そんなもの読んで面白いか?
俺は無理だった。
アニメ化した作品ですら1話を見て鳥肌が収まらなくて血反吐を吐きながらリタイアした。
何でこんなものがアニメ化までこぎつけられたんだと憤慨する。
それに引き換え少年漫画はいい。
美しいライバルとの友情、
強敵に立ち向かうための努力、
そして掴む栄光の勝利。
俺は三度の飯より友情、努力、勝利が好きだ!
だからそんな俺が
猫を助けてトラックに轢かれて死んだと思ったら
白い光に包まれた謎の空間にいて、
目の前に常軌を逸した美人が自分を女神だと名乗るこの状況においてもなお、
ちっとも嬉しくなんかなかった。
異世界転生モノのテンプレ通りすぎるだろ。
「あなたには異世界に転生する権利があるのです」
しかしこの女神、ちょっと露出が多すぎやしないだろうか......?
少年誌では載せちゃまずいレベルで胸の谷間見えてるし、
そんなにスカートにスリット入れたらちょっと風が吹くだけで全部見えちゃうんじゃないか?
「聖なる女神パワーでこのスカートは捲れないのです」
「え、声に出てました!?」
「いえ、邪心を読みました。女神たるものこれくらい余裕なのです」
『なのです』語尾のキャラ付けはこの大人びた容姿からするとちょっとミスマッチでは...?
というか直近3セリフ全部語尾が被るとくどいと思う。
普通校正が入って止められる。
そんなところまで低クオリティ異世界転生モノをなぞらなくていいのに。
「誰が量産型なろうテンプレ女神ですか、ぷっ飛ばしますよ」
「『なのです』語尾はやめたんですか?」
「......。わかりました。あなたの転生先は『1秒ごとにありとあらゆる毒、呪、病が、追加されるも不老不死の能力をもつがゆえに永遠に終わることのない苦痛を味わうコース』に決定なのです」
「ちょっと待ってください!本当にすみませんでした調子に乗りました!!!」
「立場がわかったなら何よりなのです」
そう言って頬を膨らませる姿は不覚にも、可愛いと思わされた。
いや、絶世の美女なんだからそりゃ何してもサマになるわ。
普通に顔が良すぎて自然と敬語になってしまう。
あれ、もしかしてこの邪心も読まれてる?
「……オホン。説明を続けますね?」
「あ、はい。」
……この反応はちょっとどっちか分からないな……。
「これからあなたには元の世界とは異なる世界に転生してもらうのです」
「まぁ、なんとなくそういうことかなとは思っていました」
「元の世界の書物である程度知識を得ているようですね。それでは大まかな説明は省きましょう」
「あ、いや、それは困るのでちゃんと説明してほしいですね。なんだかんだ言って作品によってまちまちな部分も多いし、ルールをよく知らない状態で転生するのは怖いので」
「うわぁめんどくさいオタク」
「声に出てますけど!?ってかオタクじゃないんだが!?」
「いや、オタクですよね?こっちはあなたの転生前の情報など、
生まれた時からの行動すべて、シークレットモードを使用したスマホの履歴まで含めて全部入手しているんですよ」
「……はい、オタクです……」
スマホの履歴も見られてるのはズルいじゃん……
「まぁ分かりました。ではチュートリアル本をつけておくので向こうについたら読んでください」
「そんな雑な」
「とにかく、あなたに今してほしいのは選択なのです」
「選択?」
「はい。
『一見最弱だけど実はチートなスキルを得て悠々自適にハーレムを築いて最強無双するコース』か、
『本当にゴミスキルを与えられるけどライバルと地道にコツコツ切磋琢磨して努力して強くなって人知れず世界を救うコース』
あなたはどちらを選びますか?」
「……。」
そんなもの決まっている。
俺は三度の飯より友情、努力、勝利が好きだ。
不遇な境遇をはねのける底意地を見せる主人公に憧れる。
魅力的な師匠の下、ライバルと共に過ごす修行パートに胸が躍る。
世界を救うという偉業を、誰にも知られずひっそりと行うなんて最高にシビれるね。
だからこんな選択、一瞬で答えが決まった。
どちらを選んだかなんて言うまでもないだろう?
俺はなろう小説が嫌いだ。
一見最弱とか言いつつどう見ても最強スキル与えられてて無双するなんでつまらない。
周りの登場人物が馬鹿すぎるだけなのに持て囃されるのは意味が分からない。
薄い理由で出会う女の子全てから好かれるのも虚無感を覚える。
最初から結果が見えているようなザコ敵を何でもないような顔で蹴散らしたところでむなしいだけだ。
俺はなろう小説が嫌いだ。
だって羨ましすぎるから!!!
ずるいじゃん!!!!!俺もそんな風になりたいよ!!!!!
「『一見最弱だけど実はチートなスキルを得て悠々自適にハーレムを築いて最強無双する展開』でお願いします!!!」
「正直でよろしい」
女神が微笑んだと同時に俺は光の粒子に包まれ、意識が途切れた。
やっていきます