マキノちゃん達を届けて……
ブロロロロロ
「……あー、遅くなったなぁ……もう、19時だよ」
……配達を終えた男は、現地から会社へと帰っていく。
長く大変だった配達のお仕事が今日も終わったが、
【……ト……ケ……テ……】
「?」
運転するバイクの後ろから機械音に近い女の子の声がする。日が落ちて暗くなり、閑散とした小道を通る帰り道でする、機械音によるメッセージ。
配達員はふと辺りを見渡しても……
「気のせいか」
女の子の声はしても、女の子はおらず。
そして、そんなことなど忘れて会社に戻って、後処理をして自宅に帰る。
なんてことはない。そんな一日だと思っていた。
しかし、翌日。
「また、19時を過ぎちゃったよ」
昨日と同じく配達が遅れてしまい、この時間。昨日の女の子の声が聞こえていた事など忘れていたし、帰り道も違う。今日は大通りを通っていく。全然違う帰り道でも
【……ケテ……トド……ケ……】
「!!」
配達員の耳に聞こえてくる、機械音に近い女の子の声。7秒か10秒の事であるが、女の子の声は配達員に向けられている。
「な、なんだ……一体……」
その日からこの配達員は仕事が終わる帰り道で、機械音と言える女の子が
【ケテ……アタシ………ハ……マキ……ノ……】
後ろから声を掛けて来るようになったという。最初は一声、次に7秒、10秒、15秒……。日に日に伸びていくと、帰り道で女の子から声を掛けてくる時間も伸びた。当然だが、配達用のバイクには女の子なんて乗っていない。キャリーケースの中に入っているわけでもない。
仕事が終わる帰り道で、配達員に伝えるのだ。
【ミ……ナ……マッテ……トドケ……】
「ひぃっ!まただっ!!ど、ど、ど、どこから呼んでるんだ!?」
機械音の女の子の声に怯え、配達員の仕事は早くなった。19時から18時半、18時、17時半、17時……。やがて、定時となった。
しかし、仕事が早くなっても、日が昇っている間でも……女の子の声は大きくなり、ハッキリとしてきた。帰り道の配達員に訴える、女の子の声はこう言っていた。
【ワタシヲトドケテヨ、ハイタツインサン】
女の子の声。配達員が怨霊に言われているような声は、やがて現実となって、この配達員に突きつけられる。
◇ ◇
「えーーーっ、お前等、社畜共もニュースを見ただろうが……」
そんな心霊話は、実は作り話ではないのが現実。ニュースでも流れた我が社の事件を、わざわざ山口部長がみんなに伝えるのは、改めて、恥ずかしい。
「〇〇郵便局で、郵便物の放棄隠匿をした馬鹿が現れました!普通にバレるからな?」
郵便物の放棄隠匿。およそ、半年間。
ある配達員が郵便物を空き家に放置していたという事が判明した。最初の放棄はただの出来心ではあったが、次第に怖くなったり、遅くなるのが嫌になったりと、エスカレートしてしまったそうだ。急に業務が早くなった事を不審に思った上司が、調査をした事で判明したのであった。
放棄していた中には、お客様が待っていた郵便物もあり、大きな問題となった。もちろん、配達員は解雇され、逮捕ものである。
「隠す・捨てるをするなら、俺のところに持ってこい!!俺が配達してやる!!馬鹿共!!いいかっ!俺はキレてねぇぞ!どこの誰とも知らねぇゴミクズが潰したこの会社の信頼は!お前等が今日も変わらず、ちゃんとした仕事をすれば元に戻せる!!今日も事故なく、誤配なく、ちゃんとした仕事をしろ!分かってんな!!」
本当なら、こんな全体ミーティングをする必要もねぇ事だ。でも、それをしなきゃいけないのが、会社で起きてしまった犯罪に対する行動だ。そして、成果を出さなきゃいけない。
末端の配達員を束ね、課長よりも上の役職に付き、全体を纏める部長の2名。
「まったく、どこの誰かは知りませんが、困りますねぇ?山口部長」
「当たり前だろ、蓮山部長。俺達、カンケーないのに気合を引き締めなきゃいけねぇんだ」
「私達の局で起きたら大変でしょうね」
「そんな馬鹿は、俺の目の前から消え失せろ」
おーおー、怖い怖いって蓮山部長は、それくらいに頼もしい山口部長で良かったと思う。口だけの部長とは違って、部長の仕事をしながら、配達員のお手伝いまでガンガンする理想的な上司だ。口だけじゃねぇんだよな。
「人が待ってる・人が届けたい。それで回ってるのが物流なんだ。俺はそーいう日常を守るのが、楽しいからな」
「ご立派。でしたら、私は。その日常でちゃんと社会で維持できるように、山口部長の代わりの仕事を引き受けますよ」
「……蓮山部長も頼りになる」
「私は外に出るのが嫌いなだけですよ」
午後になったら、山口部長は配達をしに行く。
今日も今日とて、配る物が多い。
そして、多くの配達員が配っているDMの中には
【マキノちゃんが100点!?すごーいっ、どうやったの!?】
【実はあたし、夏からコレを始めたんだ!!】
子供達に薦めたい通信教材に関するDMがいくつかあった。
手に取ってくれるか、やってくれるかどうか、それは分からない。
だけれど、この女の子のストーリーをちょっとでも見て欲しいなって……。そんな気持ちがあったからなんだろう。




