早く仕事辞めさせて欲しいんですけど。まだあるんですか?
「10月7日か...はぁ。今日誕生日なのになぁ。」
辺りを見回してみても、目に映るのは蒼蒼と生い茂る草木と朝露を受け止めうっすらと湿った地面だけ。
時間は早朝、山の中腹なだけあって、辺りには薄い霧がかかっていた。
下ってきた斜面を振り返ると木々の間から黒煙を発しながら燃え上がる警察車両が見える。
・・地図もないし、どうしたものか。
「なぁお偉いさんっぽいニイチャンよぉ、あんたもこの刑事たちと同じようにばらけてみるか?」
声がした方に私は、ゆっくりと振り返った。
そこには、刑事「だったもの」と返り血に染まった金髪の男が立っていた。
刑事「だったもの」の体にはまるで何かにむしり取られたかのような傷跡があちこちに見える。
心底、面倒くさい仕事を押し付けられたものだ。
これだから殺人犯の輸送などやりたくなかったんだ。
どうしたものか。
処分するにも、事後書類の量が増えるのはちょっとなぁ。
遭難したときに見失った~。なんて言ったらクビにされるかもしれないしなぁ。
どうしよう、何かきっかけが欲しいな。
「何をしても」許されるようなきっかけが。
よし。本人に作ってもらおう。
「すみません。一つ質問をいいでしょうか。」
答えがどうであれ、面倒なことになることは変わらないが、今聞いておいた方が書類に書く内容が増えて楽だ。
「なんだぁ?質問ンだとぉ?ふん、どうせお前も殺すんだ。いいぜ答えてやるよ」
よかった。まだましな方で。
対話ができるなら説得もできるかな。
「では始めに、何故あの人たちを殺したのですか?」
「暇だったからだよ。なんか文句あるか?あぁ?」
「いえ別に、では次の質問で..」
言い切る前に、男の声が待ったをかけた。
「おまえ、あの刑事たちの仲間にしちゃぁやけにドライだな。普通なら、もっとほら、なんかあるだろ。」
男が首をかしげながら問いかけてくる。
その顔は、半分笑っていた。
「そんなことはどうでもいいので、話を続けますよ。」
答える価値もない質問は、無視していいって教わったから無視無視。
「さて、さっきの続きです。」
「死にたいですか?生きたいですか?30秒以内に答えてください。」
質問はこれで終わり。後は、男の回答を待つだけ、っと...
「何をためらっているんですか?早く答えてくださいよ。」
男はやっと、閉ざしていた口を開いた。
「死にたい、とお前に告げたら、俺はどうなる?」
「死にます」
「生きたいと答えた場合はどうなる。」
「見逃します。ただし、今後あなたが人を殺した場合、私が殺しに行きます。どこにいようともね。」
男は時間いっぱい考える間もなく。口を開いた。
「じゃあ俺は、お前を殺して自由の身になるとするわ。」
見え透いていた答えだ。うん。
「その言葉に後悔は無いですか?」
最終確認も聞いてみたけど...
「当たり前だろ?お前の質問に従うより、手ぶらのガキ一人殺す方が楽ってもんだ。」
ガキ...ねぇ。一応今日で19歳なんだけどな。
いいや、きっかけっぽいのも作れたし。
「それじゃあお兄さん、お相手よろしく。」
さっさと終わらせて帰ろう。職場に。