【コミカライズ】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「フィアーナ・レインワーズ! 貴様との婚約は破棄する!!」
王立学園の卒業式。そこで、唐突に言い渡された婚約破棄。
事実無根の罪を並べ立てられた私は、弁解の余地もなく、年老いた辺境伯の後妻になることが言い渡された。
「ま、まさか私が、悪役令嬢フィアーナだなんて!?」
その事実を受け入れる時間もないまま、私は辺境に嫁ぐことになった。
悪役令嬢なのに、断罪直後にそのことを思い出しても、何の得もないと思う。
それでも知っている中では、一番ましな追放先だったので、私は黙ってその決定を受け入れた。
(――――あれから三年。私は、大人になった。……と思うのよね?)
墓前に供えたのは、夫だった辺境伯の最愛の奥様が、大好きだったというマーガレットの花束だ。
正直いって、ずっとそばにいてくれた家族がいなくなって、悲しくて仕方がない。
それでも、彼は最期まで笑顔で、私の幸せを願ってくれたから……。
「……リーフ辺境伯、それからお会いしたことのない奥様。お世話になりました」
五十歳も年が上だった夫。
初めのうちは、思い出した記憶と異世界、そして自分の境遇におびえるばかりだった私に、本当に優しくしてくれた人。
挨拶を終えて、私に幸せを教えてくれた領地を去ろうとしたとき、慌てたように追いかけてくる声がした。
「奥様! こちらのお屋敷は、全て奥様の名義にされるようにと……!」
「セバスチャン……。ありがとう、でも私は置いていただいただけの形だけの妻。旦那様のご親族がこのお屋敷を継ぐのが道理というものよ」
葬儀を終えた私は、荷物をまとめて、この土地から出て行く。
「それに、リーフ辺境伯は私の濡れ衣も全部晴らしてくれたから……」
名実ともに、自由の身になった私。
もちろん、亡くなった奥様だけを愛していたリーフ辺境伯と私は、白い結婚だった。
それでも、孫のように思っている、とあの断罪劇の事実を全部調べてくれたことに感謝しかない。
ヒロインと王太子は、公爵令嬢だった私に濡れ衣を着せたことで罪を問われて幽閉された。
その後、リーフ辺境伯は白い結婚だったことを公表して離婚しよう、と申し出てくれたけれど、すでに体調が思わしくなかった恩人を置いて、一人王都に戻るなんて出来るはずなかった。
この世界で、たった一人肉親のように接してくれた人はもういない……。
「王都のお屋敷と、一生暮らせるだけのお金も手に入れたわ」
私は、燃えていた。リーフ辺境伯夫人。この名を手に入れた私。
もう、以前のように同意なく結婚させることは出来ない。
「推しを……。推しを遠くから思う存分愛でることが出来るわ!?」
去って行く私のことを、領民たちが取り囲んで別れを惜しんでくれる。
私が嫁いできてからの三年間で、辺境伯領は見違えるほど流行の最先端になった。
転生知識を生かしたのだから当然だけれど、少しやり過ぎたのかもしれない。
遺産は全て、リーフ辺境伯の親族に渡したけれど、転生知識で得た個人資産は潤沢だ。
だから、これからは、この乙女ゲームで私が大好きだった推しを思う存分眺めることが出来るのだ。
「末の王子……。レザールきゅん!!」
悪役令嬢としての記憶を思い出したのは、残念なことに断罪直後だった。
記憶を取り戻す前の私も、可愛く慕ってくれる年下のレザール様をとても可愛がっていた。
攻略対象者の中で、唯一の年下枠。
ヒロインよりも背が低いけれど、正義感が強く魔法の能力は王国一とも言われている天才。
「さあ、いざ王都に行くわよ!?」
最新鋭の馬車に乗り込んで、私は王都へと旅だったのだった。
***
王都のお屋敷は、そこまで大きくはないけれど、レザール様の所属する魔術師団の本部近く。
きっと、レザール様のお姿を毎日拝見できるに違いない。
「私のように噂の渦中にいた人間が見ているなんて、決して気づかれてはいけないけれど……」
魔法の力を組み込んだ双眼鏡片手に、魔術師団本部の正面玄関を眺める。
まだ、薄暗い早朝。正面玄関に現れたのは、背がとても高く淡い水色の髪をした美しすぎる男性だった。
(あら……? レザールきゅんと同じ色合いだわ?)
双眼鏡で覗きながら、私は首を傾げる。
その時、その男性が、髪と同じ色をした薄い色素の瞳をこちらにまっすぐ向けた気がした。
「…………目が合った」
それが、気のせいだと思おうとしたのに、なぜかその人は私から目をそらすことなく、ものすごくカッコいい微笑みを見せる。
「…………え? カッコいい、じゃなくて明らかに私に気がついていた?」
魔術師というのは、不思議な力で遠くにいる相手の気配まで分かるのかもしれない。
そう結論づけた私は、推しへと思いをはせる。
レザール様とは、記憶を取り戻す前、王太子の婚約者だったときによく関わっていた。
当時は、「お姉様!」なんて言って、可愛い姿で慕ってくれていた。
けれど、私は三年という月日を甘く見ていたのだ。
そう、三年間離れていれば、年齢差は変わらなくても、身長差なんてものは逆転してしまう。
翌日も、その翌日も、男らしい男性と双眼鏡越しに目が合った……。
「気のせいにしては、目が合いすぎるわ。不審人物として警戒されてしまったのかしら?」
私の中では、レザール様は乙女ゲームの年下枠でしかなかった。
ゲームの登場人物が成長するという概念が、私にはなかった。
そのことが、まさかあんな急展開を招くなんて……。このときの私は、まだ知らない。
***
毎日、レザール様のお姿を探していたけれど、結局見つけることが出来ないまま、一週間が過ぎた。
しびれを切らした私は、もしかしたらお会いできるかもしれないという期待を胸に、街に出かけることにした。
そんな私の目の前に現れたのは、レザール様と同じ色合いの超絶美男子だった。
「…………お久しぶりですね。フィアーナ様」
「あ、あの。こんな美形の知り合いは、存じ上げないのですが……」
「何を言っているんですか。お姉様、レザールですよ?」
「えっ……。えぇ!?」
掴まれた手首。ゴツゴツした指先は、すっかり大人の男性のものだ。
高くて可愛らしかった声も、低くて耳の奥がしびれそうな声に変わっている。
「え? 可愛かったレザールきゅ……いいえ、レザール様が、こんなに男らしく?」
呆然としている私の、紫色の髪の毛を一房手にのせて、落とされる口づけ。
信じられない出来事に震えながら、私はその光景を見つめていた。
「…………お慕いしていた、と言ったら、信じていただけるのでしょうか?」
「え? 慕う……? え?」
「あの時の俺は、力を持たず、あなたをえん罪から救うことが出来なかった。あれほど、己の無力を悔いたことはありません」
「…………え?」
王立魔術師団長に上り詰めているレザール様は、今はもう王国軍の中心人物だと見なされているらしい。
そして、ものすごくもてるのに、女性に興味がないのかというくらい浮いた噂一つなく、恋人も婚約者もいないという……。
魔術師団長として戦えば、誰よりも強く、いつも戦いに明け暮れているらしい。
なんとか私が集めた噂話は、それだけ。
なぜか社交界にもほとんど姿を現わさないという末の王子。レザール様の情報はほとんどなかった。
戦いに明け暮れている、という時点で、かつての可愛らしく庇護欲をそそるレザール様とは違うって、気がつくべきだったのに……。
「リーフ辺境伯が、もしもあなたに無体を働くような人間なら、追い落としてしまおうと思っていたのですが……。仁義に厚く、あなたに指先一つ触れなかったそうですね?」
「え!? 何でそのことを……」
「……魔術師団長に上り詰めたのは、全てあなたを取り戻すためですから」
無邪気だった微笑みは、今は少しだけ暗く淀んでいる気がする。
ジリジリと下がろうとするのに、同じだけ距離を詰めてくるせいで、私は壁際に追い詰められていた。
(あ……。あれ? 周囲に通行人がいないわね?)
気がつけば、普段人があふれているメインストリートのはずなのに、不自然なほど人がいない。
まるで、王都に私たち二人だけが取り残されたみたいだ……。
「さて、毎日誰を捜していたのですか? あなたが興味を持っている男性を、俺は……」
「ひっ! あの! レザール様を捜していました!!」
「え……? どうして」
驚きに見開かれた、薄い色彩の瞳。
どうして、そんなに驚いているのか、と状況も忘れて私は首を傾げる。
「だって……。ずっと好きでしたもの」
「は…………? えっ!?」
壁に私を追い詰めて、壁ドン未遂だったレザール様の頬が真っ赤に染まり、それを腕で隠している。
その姿は、私の知っているレザール様そのものだった。
「そう、ずっと好きでした(推しとして)」
「え……? 本当に」
次の瞬間、私は強く抱きしめられていた。
抱きしめた手を離した後も、赤い顔と潤んだ瞳で私を見つめるレザール様は、可愛らしい。
そのことで私は大満足だった。
***
それなのに、三週間後、ベールを通して、純白の正装に身を包む魔術師団長様を私は見上げていた。
「…………あれ?」
私は、三年前と同じように、再び王都の噂の中心になっている。
元夫は、亡くなる前にレザール様と手紙のやりとりをしていたらしい。
レザール様と私の婚約が発表されると同時に、リーフ辺境伯と私は白い結婚だったことが発表された。
えん罪を知ったレザール様が、密かに慕っていた私を救い出すために、リーフ辺境伯の力を借りて私を守ったという噂は王都を駆け巡り、あろうことか演劇にすらなっている。
「ぜ、全部、嘘とは言い切れないですが……。用意周到すぎませんか?」
「それはもう。三年間準備していましたから。観念してください?」
ベールが上げられ、落ちてくる口づけ。
白い結婚しか経験がなかった私は、今度こそ本当の結婚をすることになったのだった。
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