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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第三章
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第91話 ワニ

「挨拶代わりだ、取っとけやァ!!」


 豊成がスキル全部乗せで放った先制の魔法矢が、巨大ワニの右目を貫いた。


「ギィヤヤアアアアアアァァァァァァァァァア!!!!!!!!!!」

 

 ワニは突然の痛みに叫び声を上げ、猛スピードで川辺を転がり回った。挨拶代わりに片目を奪っていくとか、最近の首狩り族は過激化が進んでるなあ。取っとけと言いながら(タマ)取りに来るの嫌過ぎるでしょ、いや、眼球(タマ)か?


 怪獣はさっきまでのゆったりとした動きはどこへやら、その巨体で周囲の全てを飲み込み破壊の限りを尽くしている。おいおい、ここまで速度が出せるならまずくないか?


 しかし、おおよそ動物ベースの魔物相手なら、ボスクラスでさえ豊成の先制攻撃で片目を奪えるのはでかすぎる。下手すると両目とも持っていけるし、正直反則だろう。


「やーい、このチート野郎~」

「芋砂でチートとか救いようがねェじゃねえか!!!!」


 前者はプレイングの問題なのでともかく、後者は問題外で追放決定だ。


「よし、チートパワーでも左目もいこう」

「うおお、ふるえるぞチート! 燃え尽きるほどチート!!」


 豊成の第ニ射が大ワニの生き残った目へ飛翔する。


 しかし、それが突き刺さるかと思われた瞬間(まぶた)が下り、矢から眼球を守った。


「なっ!?」

「マジかよ!!??」


 不意打ちでも豊成の一番得意な超長距離でもないとは言え、この距離であれを防ぐのか!!??


 しかも、瞼は完全に閉じられたわけじゃない。半目、いや7割目くらいの閉じ具合で、丁度ゴツゴツと分厚い部分で矢を受けている。瞬時にそれだけのコントロールをするのかよ!!


「無理かも」

「逃げるかァ?」

「……いや、続行しよう。片目は潰せてるし、ここで逃走はまだ早い。いつもの基準なら逃げの一手なんたけどね」

「お天道様が許しても、お師匠様が許してくれねェか」


 正直さっさと撤退したいんだけど、どこかでチャレンジして自分たちの限界を確かめる必要があるのも事実だ。ケツモチの用心棒がいるシチュエーションなら、挑戦にはこの上ない環境だろう。


 大ワニは落ち着きを取り戻したのか再び歩き始めたが、幸いなことにのっしのっしという速度だ。高台に到着するまではまだ時間がある。


「曲げてくぜェ!!」


 豊成の放った魔法矢が、ワニの死角になった右目側からカーブを描いて左目に突入する。だが、ワニは少し頭を上げてそれを弾いてみせた。


「おい! 今のは見えない軌道だっただろ!!」


 豊成は口角泡を飛ばして抗議した。


「ふざけんな、チーターみたいな不自然な反応しやがって!」

「どっちかと言えば高難度CPU?」


 横を向いた瞬間を狙ったから僕らの姿は視界に入ってなかったはず、だけど躱された。


「魔力で感知されたかな、思わぬ弱点だね」

「結局は基本技が一番、とかいう流れかァ? 何のための特訓だったんだよ」


 魔法矢ちゃん、短い全盛期だったね……。


「だがよ、その方がなんぼかマシだな。実は右目も見えてました、なんて目も当てられ無ェ」

「暫くしたら回復しました、とかも勘弁してほしいね」


 豊成の攻撃を受けてからずっと、右目は閉じられたままだ。矢尻も隠れるくらい完璧に突き刺さったんだし、理不尽な復活は無いと信じたい。

 

「それに、感知されるならされるでやりようはある」


 僕は弓を取り出すと力いっぱい引き絞り、魔力をのっけて射ち出した。高い放物線を描いた矢が、ワニへと降下する。当てる気の無い、牽制の一矢。


 だけど、ワニの反応を引き出すには十分だった。先制攻撃で大ダメージを負い、飛び道具を警戒していたこともあったんだろう。僕の遠くへ飛ばしただけの矢をワニは嫌い、首を傾げてかわす。


 無傷の、左目をさらけ出して。


 無防備なワニの横顔に、豊成の矢が間髪入れず命中した。頭の動きに合わせた一発、あれは(かわ)せまい!


 僕らの見事な連携による一撃は、しかし再び瞼に防がれ――いや、今度は突き立った!


「ガアアアァァァァ!!!!」


 ワニが頭を振り回す。瞼を貫通した矢は、わずかだが眼球を傷つけたようだ。


「ヨッシャ! やっぱ曲げねェほうが威力は出るな」

「薄い部分とはいえ、装甲を抜けるのは朗報だ」

「これなら柔い腹は撃ち放題よォ!」


 痛みに頭を上げていた巨大ワニの喉元、腹板に豊成の連射が襲いかかる。ワニはいっそう叫び、頭を激しく振り回した。でも、暴れれば暴れるほどセクシーな白い腹が露出してしまう。豊成はその継ぎ目を狙って射撃を続け、僕は魔法矢を射掛けてワニを牽制した。柔らかいと言っても背中側に比べ、というだけで実際はそれなりの硬さがあるはずだけど、それをものともせず豊成の矢が突き立っていく。戦況は、極めて順調だった。


「……まずいな」


 僕は自然とそう漏らしていた。


「調子が良すぎる」

「揺り戻しで酷いことになるパターンだろこれ」

 

 僕らは揃って苦虫を噛み潰した。


 何事にも、流れというものはある。人生、麻雀、ガチャ、河童、そして――戦だ。


 開幕に強く当たって、後は流れで押しきれればいい。だけど、それを許さないような強い相手であれば手痛い反撃を食らうのが世の習いだ。この攻撃もダメージは与えているけど、致命傷には程遠いだろう。最初に両目を潰せなかった時点で、相手のターンが訪れることは必死だったのだ。ワニが、大きく顔を上げた。


「ギィヤヤアアアアアアァァァァァァァァァア!!!!!!!!!!」


 邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王は激怒した。必ず、かの鬱陶しい羽虫共を除かねばならぬと決意の咆哮を上げた。


 これまでの叫びとは全く違う、圧力と魔力の乗った雄叫び。いつぞやのヌシと同じ、こちらを恐怖の渦へと叩き落とす怒号だ。


「ウオッ!!」


 攻撃に熱中していた豊成は咆哮の直撃を受けて身体を硬直させ、


「あだっ!!??」


 同じく自由を奪われていた僕も、豊成が放ち損ねてびよよんと跳ねクルクルと回りながら飛んできた矢に顔面を強打され、束縛から開放された。


「僕の左目を狙ってどうする!!」


 豊成に抗議のローキックを入れ開放してやる。


「チッ、油断したぜ。だが威力のない咆哮で助かったかもなァ」

「前情報のないモードチェンジほど厄介なものは無いからね」


 叫び声を上げるワニの雰囲気は、今までと明らかに違う。


「やる気満々って感じだね、ここからが本番かな?」

「やだ! ずっとトレモでいたい! ずっとトレーニングモードキッズ!!」


 お前のはデバッグモードだろ。


 そんな豊成のイヤイヤも虚しく、世界は僕たちを幼いままにして置いてはくれなかった。ひとしきり叫び終わった巨大ワニが、ゆっくりと顔をこちらに向けたのだ。やはり駄々をこねるときのキッズパワーが足りなかった、地べたに大の字になって両手両足を激しく動かし、水たまりに落ちた羽虫みたいに振動でぐるぐる自転するくらいでないと駄目だった。


 巨獣はじっと僕らの方へ顔を向けている。へえ、ワニってお目々がサイドに付いてるイメージだったけど、真正面から見ると中央に寄ってるんだ。


「……そう言えば聞いたことがある、ワニは構造上真正面の獲物が見えないと。もしかしてこのまま動かなければ逃げ切り、いや安地ハメすら行けるか……?」

「魔力感知があるっつってんだろォーッ!!」


 巨獣は火が付いたかのように、突如としてこちらへ突進を始めた。そう言えばそうだった!!


「対ショック体勢ーーーッ!!!!」


 僕らはケイ氏の後ろへ避難しようと試みたが師匠の姿はすでに高台のどこにもなく、代わりに自主練用のカカシ型サンドバッグ「クソエルフくん2号」を地面に深く突き差すと、彼の脊髄を握って踏ん張り衝撃に備えた。


 瞬間、世界が揺れる。


「ふ、ぐ……っ!!」

「おおお、おぉォっ!?」


 大きな衝突音が上がり、激しい振動が僕らを襲う。ガラガラと岩の崩れ落ちる音と、もうもうと上がる土煙。


 でも、それだけだった。


 高台はその身を揺らしながらも、見事にワニの突進を受け止めきったのだ。


 流石に肝を冷やしたけど、こちとら地震大国出身。建物でも壊れない限りこのくらいの揺れなら許容範囲内だ。僕たちはすぐに立ち直ると、ワニへの反撃を開始した。


「目だ、目を狙え!!」

「完全に悪役みたいな指示になってんなオイ!」


 豊成が内なる良心を投げ捨てただ命令通りに右目を狙うけれど、


「あ? 無ェ!?」

「え、何言って……」

「だから、ワニに目が無ェッ!!!!」


 こ、こんな緊急時にいきなりワニ大好き宣言をされても困る。いろんな嗜好や性癖があっていいと思うけど、時と場合を考えてだね……。


 と、豊成の意中の相手を確かめてみると、そこにあるはずの眼球が内側まで沈み込みすっかり隠れてしまっている。相手の動きが止まってる絶好機なのに、これじゃここから狙えない!

 

「まさかワニにも対ショック体勢があるとはよォ!!」

「ええい! なんでもいい、やってしまえ!!」


 豊成が射ち下ろした矢を何本も顔に突き立てられるが、ワニは微動だにしない。くそっ、あんまり効いてないのか!? 僕は弾かれて効果のない弓を諦め、トロトロと上から唐辛子汁を流し込んだ。うーん、こっちも反応が……この巨体だし毒も望み薄か?


 と思ってたら、突然巨大ワニが暴れ出した。頭を上下に、左右に、右回り左回りに振り回し、狂気のヘッドバンギングだ。高台に鼻先をぶつけるたびに、破片が飛び散っている。


「おほほ、めっちゃ効いてる」

「寝たワニを起こすんじゃねェ!!」


 せっかくのボーナスタイムを、ろくにダメージも与えないまま終わらせてしまった。しかも弾かれた石がこっちまで飛んできて最悪だ。


「あるじゃないか! 飛び道具!!」


 僕は激怒した。あのクソエルフ野郎、生きて帰ったらとっちめてやる! 


「どう考えても誰かさんのせいだと思うんですがねェ!」


 僕らは高台の真ん中に避難して縮こまり、嵐が去るのを待った。


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