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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第一章
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第9話 新生活

 異世界での新生活が始まった。


 初日の午前は座学で、この世界の歴史と地理をざっくり教わった。


 ここサンルーン地方は、クラスト大陸の北西部からぴょこんと飛び出したひょうたん型の半島だそうだ。大陸との接合部である大山脈は非常に高く険しい上、地脈の関係で年中天候が荒れており、凶悪な魔族達もこの山に入ることは無いらしい。海岸線も高い山や切り立った崖に覆われており、海中には巨大な生物がうようよしているため、海からの上陸もできない。


 その険しい大山脈を超えこの北の果てにやってきた初代国王が、神々の力を借りて魔族を一掃、興したのがこのオーランド王国。王権神授説的な色合いが強く胡散臭さしかないのだが、魔法という超常現象のあるこの世界では説得力が違うんだろう。


 雪に閉ざされる季節が長く、生きていくのは簡単ではないが、その気候のおかげで強い魔物が少ない。

 大山脈のおかげで魔族も寄り付かないが、それでも勢力争いに破れた集団や一部の物好き魔族が稀に山脈を越えて侵攻してくる。それを受け止めているのが、大山脈の少し北にある小山脈で、人類はここに砦を築き敵を押し返しているらしい。ただ最近重要な軍事拠点である砦が一つ落とされ、人類側に大きな被害が出たらしく、余談を許さぬ状況なのだとか。


 そんなわけで、僕たちには大変な期待が掛かっている。まずは砦の奪還、そして魔族を大山脈の向こうまで押し返し、さらには魔王軍の領域まで攻め込み魔王を討つ。さすがに要求が過ぎるのでは? というか本当にいるんだな、魔王。



 一通り教養の時間が終わると、お待ちかねの魔法の話だ。


 講師は、あの面接の髭長おじいちゃんだった。この世界的に魔法は「神が願いに応えて発動して下さるもの」で、「魔法陣・詠唱は信仰心が強ければ省略することができる」そうだ。おじいちゃんは「《ライト》」と言って、指先にビー玉ほどの光る玉を出してみせた。大規模魔法はもっと長い詠唱や魔法陣、魔法具などの補助が必要だとか。


 魔法は火、水、土、風、光、闇の6属性に分かれており、使うだけなら2、3属性扱える者は多いが、実用的には最も才能のある1つに絞る。2属性を十分に操れるなら仕官でき、4つ使えれば筆頭宮廷魔術師、それ以上は歴史に名を残す大賢者らしい。

 ここでうれしいお知らせ、異世界人はその加護によって全属性使えることが多いのだそう。ただし、スキルが無いと威力も低く、十分な訓練も必要らしい。そこは仕方がない、簡単に使えたんじゃ何のためのスキルだって話だ。


「勇者の皆様には、実際にやっていただいたほうが早いでしょう」


 簡単な講義の後、早速魔法の実践に入った。

 丸く大きな耳を持つ兎みたいな動物が、檻ごと運ばれてくる。


「これはマジックラビットの子供です。魔法で外敵から身を守る兎ですが、子供のため魔力を放出するだけで、上手く形成することができません。皆様にはこの兎の頭に手を置いていただき、放たれる魔力を感じていただきます。一度魔力が感知できれば、ご自身の中にある魔力も自覚できるようになるでしょう」


 あ、これ小屋敷ゼミでやったやつだ!!


 檻のすみで丸まってるこの子が隷属とか洗脳の魔法を使うようには見えないけど、警戒しすぎるということはない。


 みんな身構えて動かないので、リーダーの大学が率先して進み出たところ


「大学、ここは譲ってくれ」

 

 と種里君が遮った。


「いや何、俺は【土魔術師】なんだけどさ、昨日魔法を使おうとして全然発動しなくてよ。滅茶苦茶バカにされたからこれはリベンジなんだ」


 種里君はいつも出席番号の近い立石君、田中君とつるんではバカやってる陸上部で、「三バカ『た』」としてクラスにいつも明るい笑いを提供してくれるナイスガイなんだが、もしかして走り幅跳びでいつも砂場に突っ込んでるから【土魔法使い】なんだろうか? 神様、さすがに雑過ぎる。


 檻の扉を開け恐る恐る兎に手を載せた種里君は、「うおっ」とか「キモッ」とか言いながら、30秒ほどで手を離した。


「なるほど、どうやら理解(わか)っちまったみたいだぜ……《ライト》!!」


 種里君の手のひらから光の玉が飛び出す。


「お見事です。《ライト》は数ある魔法のうちでも最も簡単なものの一つですが、これだけの速さで習得なさるとはさすが勇者様。土魔法は補助の石や土がなければ最初は難しいものですが、この調子なら大丈夫でしょう」


 種里君は称賛するおじいちゃんをよそにその後方に陣取る舞戸君に目配せをした。舞戸君も頷きを一つ返す。どうやらステータスに異常は無いようだ。


 人体実験も無事終わり、クラスメイトが次々と兎を撫でては《ライト》の魔法を唱えていく。魔法スキル持ちのグループはもちろん、非魔法系職業の生徒達も全員が発動できた。普通は才能があってもこんなに簡単にはいかないらしい。不安だらけの異世界ににおいて基調な前向きの話題とあって、あちこちで笑顔で魔法を発動する姿が見える。


「……《ライト》! おお! 出やがった!! 《ライト》! 《ライト》ォ!!」


 豊成は小学生男子みたいなはしゃぎ方をしていた。というか男子は大体男児になってた。


「ふっふっふ。見よ、この俺の開放された能力を! 《ライト》!!」


 種里くんが大仰なポーズを取って明かりを呼び出す。おお、両手から2つ出たぞ。


「くそっ、やっぱ魔法系の奴等が使う《ライト》は違うな」


 豊成が悔しそうに自分の光球と見比べている。


「本物の魔法は温かみが違うぜェ」


 有機栽培か何かか?


 魔法は使えば使うほどMPもスキルレベルも上がるので、各自励んでほしいとのこと。僕も豊成もMPを消費する手段がなかったのでこれは助かった。忍術の兼ね合いがどうなるかわからないので、慎重に実験していこうと思う。なお、幾人かは昨晩お約束の「MP切れで失神寝落ち」を実行していたが、残念ながら特にMPが増えたりとかはなかったそうだ。




◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇




 昼食を挟み、午後の戦闘訓練。


 のために案内された更衣室で僕たちの前に現れたのは、真っ白なあいつだった。


「……」

「……」

「……こ、これは……」


 誰も彼もが息を呑む。



 未踏の処女雪のような、透き通る白さ。



 明かりを受けて煌めく、すべらかな艶。



 そう、王子様が身につけていた、あのスーパーピチピチタイツだ!!



「そちら、どうぞ」

「いえいえ、そちらからどうぞ」


 みんなその輝きに当てられ、謙譲の心を取り戻している。僕の心では「尊厳」の2文字が踊り狂っていた。


「俺はさっきやっただろ! 次はお前らだ!」


 種里君も断固拒否の構えだ。


 僕たちがこれは下着の上に履くべきか下着の上に履くべきかで侃々諤々の議論を交わしたが結論は出ず、結局


「これで人体実験ノルマがこなせるなら、変な役割振られるよりよっぽどマシだろ」


 と腹を決めた浜君が特攻することとなった。彼は履かない派(王党派)だった。


「おお……凄いぞこれ。あっちに持って帰ったらスポーツ用のインナーとして革命がおきるな」


 屈伸したり股割りしてた浜君が唸る。いや、上体そらしだけは勘弁してほしい。


 続いたのはサッカー部の浦君だった。やっぱりスポーツスパッツを履き慣れてる方が抵抗感がないのだろうか。


「んふふ……おい、これは確かにいいぞ。お前らも早く履いてみろよ」


 ここへきてようやっとみんなもタイツを手に取り出す。僕も王党派への参加を余儀なくされた。この世界の下着ってトランクスみたいな感じなので、下に履くのは憚られたのだ。



 ……。



 …………!!



 ウ、ウオオ!!!!



 これが、これがケツの穴まで覆われる感覚!!!!!!!



「うわ! うわ!!」

「ヒョェー!」

「ワッハッハ、何だこれ!!」


 あちこちから奇声が上がるが仕方ない。この履き心地は言葉に言い表せない、よって原始的な叫びとして表現されてしまうのだ。感動のあまり涙ぐむ者も出る。さすが異世界、アハ体験の機会には事欠かないな。


「これ、このままで訓練するの?」

「いや、もう一枚上に履くっぽい」

「助かった」

「あっ、舞戸てめえその格好!!」


 また一つ新たな世界の真実に到達しようとしていた僕たちは、()()を見て驚愕した。舞戸君は、なんと白タイツの上に下着のパンツを履いていたのだ。


 お、おい! 一体どういうことだ! こんな暴虐が許されていいのか!!!! タイツの履き心地とパンツの恥ずかしくなさを両立するいいとこ取りのスタイル、王党派の僕から見ても正直うらやま――いや、規則(ルール)を逸脱した大変脱法的な行為だ……舞戸君、こ、このチート野郎!!!!


 更衣室には訓練用のタイツや運動着の他に、着替え用の下着や部屋着も用意されていた。これを履いたんだろう。僕らは激怒した。


「お前、タイツの上にパンツだなんて!」

「あぁ? そんなの自由だろ?」

「これじゃ白タイツの弱点がなくなっちゃうじゃないか!!」

「朗報だろ」

「王子の生き様を見なかったのか!?」

「見てねぇ」

「白タイツちゃん向こうで泣いてたぞ!!??」

「知らねぇ」

「『これだからタイツの履き方一つもしらない田舎者は……』ってみんなにクスクス笑われっぞ!!」

「どうせ異文化なんだ、これくらいのアレンジは許されるだろ」

「確かに」



 僕たちは異世界派に鞍替えした。


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