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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第三章
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第82話 弟子入りII

「よし、次はあの左奥だ」


 ケイさんの指示に従い、豊成が弓を射る。放たれた矢は風を切って飛び、目標を素早く、そして正確に撃ち抜いた。


「次、右前の建物から出てきた一体……ふむ」


 豊成の新たな矢が、次の標的に突き立つ。


 僕らは湖を超え、草原地帯へと歩みを進めていた。今は小高い丘に建っているオークの集落を襲っているところだ。ケイ氏が僕らの実力を見るために攻撃を命令したのだ。


 堀は無いけど高い柵を巡らし、見張り用の櫓も2つ備わっている本格的な陣地。村というよりは簡単な砦と言ったほうがいいかもしれない。真正面から襲撃するには中々に困難な相手だ。


 だけど、スーパーエルフ・ケイさんにはそんな守りもあってなきが如しだった。


 まず、高い弾道の曲射で櫓の上にいた一体を撃ち抜く。視界の外、遙か上空から降ってきた矢に見張りは気付くことはできなかった。オークの首を貫いた矢はそのまま背後の柱へと刺さり、標的を磔にした。矢羽は分厚い贅肉によって隠され、傍からは柱に背を預けたまま見張りを続行しているように見える。恐ろしい技術と精度だ。


 次の櫓はもっと凄かった。元々居た見張りと梯子を上がってきた交代要員を、曲射と直射の一人時間差で1度に仕留めてみせたのだ。片方は柱に磔、もう片方は床へと縫い留められた。あれでは下からは異変を察知できないだろう。集落の監視体制は、あっという間に無力化されてしまった。


「あれ、出来る?」

「無理だな。こっちはブッ放し専用機、当てるのはともかく威力の調節はキツい。オークをきっちり仕留めつつ、後ろの柱から矢尻が飛び出さないように手加減してんだろォ? 何食ったらあんな事出来るようになるんだ? 草か?」


 しかも、その超絶技巧をかなり離れた木の上からやってのけているのだ。豊成が引き気味なのも仕方ない。


「まあよ、本格的な技術が一朝一夕で身につくとは思ってねェ。別に弓芸人に成りたいってわけでもねェしな。大まかな基礎を叩き込んでもらって、そっから先は使えそうなやつを取捨選択していくしかねェだろ」


 諦めは大切だ。優先順位を定め、捨てるところは捨てないと一番大事なものを取りこぼしてしまう。その判断基準になってもらうのも、ケイ氏へ大いに期待していることだった。


「見張りは始末した。暫くは気付かれないだろう」


 ケイ氏は軽やかに木の枝から飛び降りると、何事もなさそうに言った。あれくらいは当然という顔、師匠としてはこの上なく頼もしいね。


 そこからは、豊成の腕を確かめるための時間だ。ケイ氏が指示した目標を、指示した角度や撃ち方で狙っていく。何度か撃ち漏らしてケイ氏お得意のハイエナショットが炸裂したものの、全体的には十分な内容だったと思う。


 結局、オーク達は襲撃に気付くまでに半数を減らされ、門に押しかけて渋滞している間にもハリネズミにされ更に半減。生き残りのうち勇ある者達は僕らの刀の錆となり、臆病な者はケイ氏から死が届けられた。前回と全くおんなじ流れだけど有効なんだから仕方ない、不意打ちと射程距離は正義だ。


「どうします? 魔石とか必要なら回収していきますけど」

「あ、俺らァオーク肉食わないんで」

「私もオークは食べん。……そうだな、魔石だけ回収してくれ」


 そう言うとケイ氏はまた木の上に登っていった。僕はインベントリから大物解体用の肉切り包丁(斧)を取り出し、オークに振り下ろしていく。これ、楽だけど臭いが酷いんだよなあ。面倒でもナイフでセコセコやるべきだったか? 近距離戦で仕留めたオークのぶつ切りが終わる頃には、辺り一面血の臭いが充ちていた。


「ふむ、やっと来たか」


 ケイ氏の再登場とともに、穢れた血の領域に爽やかな一陣の風が吹き抜ける。エルフって、どこに居てもいい匂いがするの? 


「風もないのにサラサラのミディアムヘアが揺れてる」

「歯ァ見せて笑ったら十字に光りそうだな」


 異世界、多分エルフ用のエフェクトエンジンとか積んでるね。


 そんなケイ氏の涼やかな目が向けられた先には、もうもうと砂煙が上がっていた。何か巨大な影がこちらに向かっている。頭部から尻尾の先まで、上面を岩石のような硬い皮膚に覆われた大トカゲ。確か、ストーンリザード……いや、それにしては大きすぎる。あれはロックリザードか!?


「追試だ。2人で当たって構わん、弓だけで倒せ」


 幾度か木の上から魔力を感じたし何かしてたのは知ってたけど、風魔法で臭いを届けて魔物をおびき寄せたのか!?


「ゲアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!」


 雄叫びに大地を震わせながら猛然と迫り来る巨大トカゲ、かなりの迫力だ。だけど、相手が悪かった。


「僕らをビビらせようと思ったら二足歩行で姿を大きく見せて、超高熱のブレスでも吐いてくれないと」

「背中は硬そうだが、それだけだな」

「これだけ距離があれば余裕でしょ?」

「楽勝ォ!!」


 出会い頭の戦闘ならともかく、このシチュエーションなら僕らの圧倒的有利。豊成にスキルを全部の乗せして発射するだけの猶予を与えた時点で、ロックリザードの命運は決まっていた。もちろん僕は、万が一に備えて逃げ出す準備万端だ。


「オラよォッ!!!!」


 豊成の放った矢はほぼ直進、ロックリザードの目に飛び込むとそのまま内部へと消えた。


「ゲャヤアアアアァァァァァァァ!!!!」


 ロックリザードが痛みのあまり、巨体をローリングさせてのたうち回る。寝返りをうつたびに大地が揺れ、大小の石が弾かれ辺りへと撒き散らされた。おお、これはド迫力、やれば出来るじゃないか。


 オオトカゲは暴れに暴れた。まだこれだけ動けるとは驚きだけど、正直なところ勝負は最初の一撃で終わってしまっただろう。豊成は次の矢を番えると、狙いすまして逆の目も打ち抜く。両目と頭部を破壊されたロックリザードは、そう間を置くこともなく沈黙した。


◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇


「弓を握って3ヶ月でこれか。分かっていたことだが、勇者とは恐ろしいものだな」


 ケイ氏が岩大トカゲの死体を改めながら言い、その頭部を一撃で切断した。


「両目から侵入した矢が脳を破壊しているな、見事だ」

「……ウッス」


 とお褒めの言葉を掛けられた豊成だけど、今の一太刀が鋭すぎて腰が引け気味だ。ケイ氏がもう一度剣を振るうと、ロックリザードの胴がゆっくりとずれて二つに分かれた。滑らかな断面からは、丁度魔石が覗いている。


「お前たちが人間だったのは幸いだ。もっと長命の種であれば、手駒を総動員してエルフが狩りに乗り出していてもおかしくはない」


 ケイ氏は僕らに魔石を投げてよこすと、恐ろしいことを言い出した。


「里の中でも話に上ることがある。これまでに幾度も行われてきた召喚だが、現れた勇者は決まって人間だ。これがエルフや魔族、そうでなくてもドワーフやリルプトほどの寿命があれば問題は更に大きかっただろう」


 最も、人間は人間でその好色さと多産により厄介なのだが、とケイさんは加えた。


「お前たちを鍛えるのはいい。お前たちがその力を振るい、元の世界に還るならそれが一番だ。だが、帰還に失敗し、この世界に残るなら……」


 ケイ氏が言葉を溜め、僕らと目を合わせる。


「この世界に生き、この世界に仇なすなら。その時、私が現れるだろう」


 次の瞬間、ケイ氏の後ろに横たわっていたロックリザードが崩れ去った。大型のバンほどもあった死体が握りこぶし大の肉片へと細切りにされ、原型を留めることなく大地へ広がっていく。一瞬、なんて言葉でも長すぎる。ナイフを抜いたことすら分からなかった。僕らを見据える、ケイ氏の視線は真剣だった。


「師匠は、弟子が振るう力に責任を持たなければならない。弟子は師匠に自分の命を預け、師匠は必要であれば弟子をその手で殺す。私に技を教わるとはそういうことだ」


 ケイ氏が、その眼光を一層強めた。


「さて、お前達はどうする?」


 僕らはそこで、真にケイ氏の弟子となった。

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