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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第二章
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第73話 決着II

「じゃあな、勇者様」


 振り返った赤髪は僕を一瞥していやらしい笑みを浮かべ、そのまま勝ち誇った顔で地下室のドアを開け――飛来した矢に腹を貫かれた。


「……あ?」


 赤髪は自分の腹に突如生えた矢尻に思考が追いつかず、


「あ?」


 豊成も自分の矢が赤髪に突き立った事実に戸惑っていた。


「やべぇ、関係ない人射っちまった!!」


 自身の暴挙に混乱する豊成。赤髪が腹を押さえたまま、ふらりとよろめくように豊成へ近づいた。


「豊成、やれっ!!」

「あぁ!?」

「チッ!!」


 豊成は訳も分からぬまま手にした弓をボウガンと交換し、早撃ちで放った。赤髪は超反応で身体を(ひね)り、射線から逃れる。そのまま豊成の首に手を伸ばし、後ろから水の槍に足を貫かれた。


「ガッ……!?」


 へへへ、床に倒れててもこれくらいはできるぞ。豊成はさっと飛び退いて赤髪から距離を取り、新しいボウガンを取り出した。


「おおおおぉぉぉぉっ!!!!」


 ドスドスドス、と連続して赤髪の身体に矢が、槍が突き立つ。


 前から後ろからの攻撃を全身に受けた赤髪は、びくりと仰け反るように跳ねて歩みを止めた。


「……っ」

 

 ぱくぱくと口を動かし何かを言おうとしたみたいだけど、変わりに吐き出されたのは真っ赤な血だった。しばらくは持ちこたえていた身体が、やがて真っ赤な石畳にどうと倒れ込んだ。


「……ハアッ、ハアッ……」


 床に這いつくばってスキル撃ってただけなのに、精も根も尽き果ててしまった。HPもMPも危険領域だ。僕は肩を上下させ必死で息を吸った。赤髪は、もう動かなかった。


 これで、本当に終わったのか……?


 いや、相手が相手だけに全く安心できない。さっさと戦線に復帰しないと、僕はポーションを追加で投入した。


「お、おい。射ってよかったのか?」


 豊成はまだ混乱しているようだ。いつの間にかお座り珠緒さんも出現していた。


「そいつ、見覚えあるだろ」

「……あ? もしかして大瀑布のときのヤツか?」

「そ、あのクソ野郎」


 赤髪の額に刺さった矢は頭蓋骨を抜け、完全に貫通している。僕の【水蛟(みずち)】も、赤髪の胸にしっかりと穴を開けていた。これじゃどっちが実行犯か分からないな……正直助かるけど。


「おい、不用意に近づくな」


 僕は赤髪の顔面を(あらた)めようとする豊成を制した。


「コイツの得意技は【死んだふり】だ」

「マジかよ、危ねぇな」

「さっきはひどい目にあった」


 僕はようやく動くようになった両足に鞭を打って立ち上がると、手槍を取り出して赤髪をつついた。反応は無い。無いが――もう騙されないぞ。結局は初見殺し、タネが割れてればなんてことない。それに、お前のそれは僕たちには相性最悪だ。


「インベントリを使う。それで入らなければ【死んだふり】だ」

「なるほどなぁ」


 大盾に隠れながら、ゆっくりと赤髪へと接近する。息をしている様子もないが、楽観は禁物だ。


「僕がやる。豊成は怪しい動きが見られたらすぐ射ってくれ」


 警戒しながらベルトの後ろ側を掴んで赤髪を持ち上げた。これは――


――入らない!!


「【死んだふり】だ!!」


 ドスドスドス、と連続して赤髪の身体に矢が、槍が突き立つ。


 赤髪の身体が反動で跳ね、血が飛び散った。ちょっと良心が(とが)めるけど、手を緩めるわけにはいかない。とは言え、いくらなんでもここまでやれば大丈夫か……?


「【死んだふり】、ヤベーな。脳天ぶち抜かれて、まだ息があるのかよ」

「相手を欺くというよりはむしろ生存系のスキルなのかもね」


 僕は警戒を続けながらベルトの後ろ側を掴み、赤髪を持ち上げた。これは――入らない!!


 ドスドスドス、と連続して赤髪の身体に矢が、槍が突き立つ。


 ――入らない! ドスドスドス。


 ――入らない! ドスドスドス。


 ――入らな――


「さすがにおかしくねぇか?」


 僕らは滅茶苦茶になってしまった赤髪の半死体を見下ろした。これじゃ狼じゃなくてハリネズミだ。


「オレが収納するからよ、サポートしてくれや」


 足側に回った豊成が赤髪を釣り上げる。


「……確かに入らねぇな」

「だろ?」

「だがよ、これはコイツが入らねぇってよりは……」


 豊成は赤髪の全身を見回した。


「この鞄に弾かれてるな」


 そう言ってベルトに掛けられたポーチを指差す。


「なんかヤバいもんでも入ってんじゃねぇの?」

「インベントリに入らない物……アンチマジック的な物質とか?」


 結界発生装置とか、ああ、生物が入ってる可能性もあるか。あのサイズならネズミとか、それこそ妖精さんとか――


「あ、マジックバッグか」

「あー、なるほどな」

「ちょっと下ろしてくれ」


 こいつは隠密、マジックバッグがあれば仕事はすこぶるはかどるだろう。僕は鞄を取り外すと、ベルトを掴む。


「あ、いけた」


 赤髪はすんなりとインベントリへ収納された。


「……」

「……」


 知らぬこととはいえ、結果的に死体を辱めることとなり大変遺憾に思います。


 僕は水遁で床の血を洗い落とし、証拠を隠滅した。よし、何もなかった。


 ……あれだけの強敵も、最後はあっけないもんだな。僕はすっかり綺麗になった石畳を見下ろした。


「制御室も酷いことになってるんだ、掃除を手伝ってよ」

「……おいおい、また派手にやったな」


 赤髪が暴れまわったせいで、部屋の中はもうぐちゃぐちゃ。制御装置が無事なのが不思議なくらいだ。


 僕らはヒクイドリの残骸や木箱の破片をかき集め、【洪水(フラッディング)】で床掃除をし、都合の悪そうなものは全部インベントリに突っ込んでキレイキレイした。


「で、赤髪がいたってことはよ。ここが当たりだったのか?」

「他がどうかは分からないけどね」

「お前が西門に向かって珠ちゃんが南に行ったからな、こっちは北門を見に行ったんだよ。『弁当の配達でーす』って中に入ったら怪しい奴と思われて難儀したぜ」

「そういう思い付きの設定はすぐバレるから止めたほうがいいよ」


 もっと考えを持って行動してほしい。


「帰りに珠ちゃんと合流してよ、先導されてるうちにここへ着いてな。ムカつくやつがいるから射てって態度だったんで、まーたお前が怒らせたのかと思って珠ちゃんに代わっておしおきのつもりが、知らない人間だったんで肝を冷やしたぜ」


 おい、僕の腹も射つつもりだったのかよ。


 こいつ、段々と異世界脳が進行しているな。腹の穴の一つくらい、ポーションですぐ塞がると思うようになってる。


「しかし、本当に城門を狙ってくるとはな。正直考えすぎだと思ったけどよ、これはいよいよだぜ」

「確証が取れちゃったね。王国は悪」

「最初から帝国を名乗ってくれてりゃこっちも手間が省けたんだがよォ」


 愚痴り合いながら手を動かす。赤髪から大した情報は抜けなかったけど、もう確定とみていいだろう。


 王国は、邪悪な意思と手段を持って召喚を行った。


 並行して他国に破壊工作を行い、大惨事を引き起こそうとした。そもそもの発端である砦の陥落への関与も濃厚、喚び出された勇者の使い道もお察しと言うものだ。


 楽観論はもう終わりだ、みんなを助けに行かなくちゃいけない。


 幸運にも相手の作戦を一つ潰せたけど、残された時間は少ないだろう。赤髪にはついに勝てなかったけど、王国にはあのクラスがゴロゴロしてるはずだし、明確に上のサルバンさんなんかもいる。今のままではあそこに戻っても何も出来ない。とにかくレベルを上げて、レベルを上げて、レベルを上げるしかない。


 まあそれはそれとして、今は今やるべきことをやらないと。


「こんなものかな、床はそのうち乾くでしょ」

「よし、さっさと帰ろうぜぇ。まだ氾濫(スタンピード)は続いてるんだろ」

「ここを守っても外をやられちゃ意味がないからね」


 もう一度部屋を見回して最終確認すると、僕らは足速に薄暗い地下室を後にした。

  


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