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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第二章
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第70話 反撃

「ぐっ!!」


 僕はザラザラとした石の床を転がって追撃から逃れると、すぐさまインベントリからヒクイドリの死体を取り出した。


「あ!?」


 赤髪がそのまま突っ込んだようで、ドシンと音を立てヒクイドリの身体が揺れた。僕はその隙にハイポーションを噛み潰し(・・・・)、流れ出た液体を飲み下す。


 【インベントリ】を獲得した僕たちはクラスを挙げて、両手を使わずポーションを利用する方法を模索した。残念ながら液体はそのままでは収納できない、何か容器が必要だ。【料理家】堀之内さんを中心に、餃子の皮、謎スライムゼリー、果物の皮などの容器が開発された。一番人気は寒天で、僕のお気に入りは薄い氷の箱だ。早くから王城脱出の可能性を考えていた僕らにとって、材料が水だけで自作可能な点は重要だった。


 それらにポーションを満たしてインベントリに入れておき、直接口の中に取り出して噛み砕き腹の中に収める。かくして『飲ポーション療法』、略して『飲ポ』が開発されたが、なぜかそのネーミングに女子陣から大いに不満の声が上がったりもした。なお、僕の「口の中じゃなく顎の上に取り出す感じ」というアドバイスから命名された『チン(顎)-ポーション療法』は只一人の賛同も得られず歴史の闇へと葬られた。


 やってて良かった飲ポ式、早速左の脇腹が熱くなってきた。体内の魔力が患部に集まっているのが分かる。大瀑布で刺された時と同じ感覚、傷が治っている証拠だ。あの時は川の水が入らないようポーションだけ飲み込むのに苦労したなあ。傷自体もあれほどじゃないし、毒も無いみたいで助かる。


 ついでに布ポーションも取り出して、傷に貼り付けておく。これはポーションに浸した布を患部に直接取り出して貼り付ける、インベントリ早着替えを応用した手法だ。ここでケチっても仕方ない、大盤振る舞いの場面だろう。


 ポーションは続けて飲むほど効果が減衰していく。ただし飲むのと患部に振りかけるのでは治療の機序が別らしく、同時に行っても低減は小さい。戦闘中は素早く飲んで余裕のある場面では傷にかけるか魔法を使う、これが回復の常識だそうだ。


 【インベントリ】のお陰で戦闘中でも両方の手段を取れるのは僕ら強みだ、これだけで継戦能力が大きく上がる。それに自前のポーションは一般に流通している物より高品質。こちとら【調薬】スキルのレベル上げで作った在庫が山ほどあるしなんなら魔法も使えるんだ、回復ゲーなら負けないぞ。


 とは言え、戦闘を引き伸ばしすぎてギルド員に乱入されても困る。ことここに至った以上はさっさと倒すのが一番なんだけど、相手の有利な環境を作られてしまっては迂闊には動けない。うーん、強化ポーションを使って短期決戦を挑むべきか?


 ポーションにおける効果の減衰は、マナポーションやステータスアップ系ポーションとの合せ飲みによっても起こる。だから強化ポーション類は使い所を誤ると、戦闘が長引くにつれジリ貧になってしまう。これだけ見てもそんな干渉無しで能力を上げられる堀之内さんの【料理】スキルがいかに強力か分かるし、僕もちょこちょこ練習してるんだけどなかなか獲得できないんだよあな。


 うん、ポーションは温存しておいて、もう少し様子を見よう。僕は追加でヒクイドリを2つ空中に取り出すと、着水に合わせて移動した。暗闇で相手の姿は見えないが、これで相手も物理的にこっちが見えないはずだ。さり気なくドアの前にも出して封鎖しておいて、問題はこの黒い霧だ。


「(【不知火】!)」


 部屋が暗いなら、明りをつければいいじゃない。僕は暗闇に光源を投げ込んだ。ガハハ、どうだ明るくなっ――てないな。辺りを照らすはずの光はもやに阻まれ広がらず、すぐ闇に飲まれて消えてしまった。まずい、このままじゃ夜目の利かないこっちは一方的にタコ殴りにされてしまう。何か手段は――


「おわっ!?」 


 身体をひねり、闇から突き出された刃をギリギリで躱す。床で一回転している間に、短剣は黒い霧の中へと消えていった。【不知火】を打ち込んでみるけど、赤髪の姿は見えない。背中から冷や汗が吹き出す。今の攻撃、足元の水音がなければ完全にやられていたぞ……。


 追加で水桶を出し、床にぶちまけておく。やっぱり明かり無しじゃ無理だ。かと言って【不知火】を連発するのはMP的にきつい。


(魔法がダメなら物理だな!)


 僕は油壷を取り出してヒクイドリにぶちまけると、【不知火】で火をつけた。


 あっという間に、炎の小山が出現する。霧に吸収されて光は広がらないけど、サイズがでかいので十分な光源だ。地下なので酸欠が怖いけど、もう2、3個燃やしとくか?


「チッ! めんどくせえ!!」


 赤く燃える炎の中から青白い光が伸びたかと思うと、ヒクイドリを粉々に吹き飛ばした。はい、そりゃそうですね。細切れになった肉片が着水し、じゅうじゅうと音を立てた。


 だけど、今の攻撃スキルの方が【不知火】よりもMP消費が激しいはずだ。それに油まみれの残骸のいくつかは、水に浸かってもまだ炎を保って足元で揺れている。このまま光源を増やしていくのもありかな? 炎上なら大得意だぞ、バンバン燃やしてくか!


 僕は足取りも軽く火だるまのヒクイドリを量産して回り


「うおわっ!?」


 赤髪のスキルに貫かれそうになって油臭い地面を転がった。もしかして、これだけ簡単に壁を抜かれるなら視界が塞がれる分邪魔なだけでは……?


 やっぱり戦闘経験が足りないな、行き当たりばったりでは思わぬ落とし穴に嵌ってしまう。だけど体を張った世界を明るくする運動のお陰で、結構な範囲で足元が見通せるようになった。油と死体と煙のお陰で鼻が曲がりそうだが、少なくとも不意打ちは防げそうだ。相手に有利な環境はひとまず潰せたし、このままオープンな展開に持ち込むべきか?

 

「……だからよォ」


 悩む僕と対称的に、赤髪の決断は早かった。奇襲を諦めたのか、ばしゃばしゃと水音を立て闇の中からゆっくりと姿を見せた。


「だからオマエラはムカつくってんだよォ!!」


 怒りを全面に表し、真正面から突撃してくる。早いっ!!


 突き、払い、また突いて、もう一つ突いてくる。全身がバネみたいな、跳ね回るような躍動感。繰り出される刃を必死で躱し、弾く。


 早い、早いけど――見えないほどじゃない。


 ディー先生との訓練でしこたま転がされた成果が出ているようだ。赤髪の攻撃はスピードがあるけど、ディーやサルバンさんのノーモーション系、見えない系じゃない。予備動作に反応できればなんとかなる、超高速テレフォン系だ。それに足の怪我もまだ完全じゃないのか、どうもキレに欠ける気がする。足元の水も邪魔そうでなによりだ。全てを防ぎきれはしないけど多少の切り傷なら覚悟の上、これなら十分にやれる!


「クソッ! なんだよ、この訳の分からねェ能力(ちから)は! 俺たちがどれだけの訓練を積んできたと思ってんだ!!」

「そっちが勝手に喚んだんだろ!」


 赤髪は叫ぶが、僕らは完全に被害者だ。調子に乗っている部分があるのは否定しないけれど、逆ギレされても困る。


「そうだよ! こっちが喚んだんだから、こっちの言うことを聞いてりゃいいんだよォ!!」

「ぐっ!」


 僕を仕留めきれない赤髪は冷静さを欠いたのか、どんどんと攻撃が雑になっている。一撃一撃は重くなったけど、その分剣筋が単調になり返って防ぎ易い。しかし、ここで力負けしていないのも完全に勇者ステータスのおかげだし、お怒りはご(もっと)もではある。


「それを、それをォ!!」


 赤髪は短剣を大きく振りかぶっては、怒りのままに叩きつけてきた。肩を上下させて息も荒いけど、お構いなしの連続攻撃。小学生男児のガン泣き両手グルグルチャージアタックの様相だ。僕はできるだけ冷静に、それを受け続けた。


「ウオオォォ!! 死ねぇぇぇえええ!!!!」


 ついにイライラが頂点に達した赤髪は、高くに掲げた刃を気合一閃振り下ろした。ひときわモーションの大きい、乱舞のフィニッシュブロー。僕はそれをしっかりと短剣で受け止め――瞬間、赤髪の左手が閃いた。


 遊んでいたはずの手にはいつの間にかナイフが握られ、そこから武器スキルが飛んでくる。狙うは僕の左胸、必殺の一撃。


 だけど


(それを待ってたよ!!)


 しっかりとタイミングを合わせて右にサイドステップ、左腕に大盾を取り出して放たれた刺突を逸らす。さすがに狙いが見え見えだ!!


 すぐさま大盾を収納、すれ違うように赤髪の右側へと回り込むと


「ガッ!!??」


 次の瞬間、赤髪の脇腹には太い矢が生えていた。


 【鍛冶師】森山君謹製のクロスボウによる、ノーモーションゼロ距離射撃だ。インベントリから取り出して、引き金一つでこの威力。戦闘なんてできそうにない女子陣の身を守るため、みんなで必死に素材を集めたっけ。農民の僕たちも優先的におこぼれに預かって後ろめたい思いもしたけど、おかげで大助かりだよ!


「うおおおぉぉぉ!!」


 在庫があれば連射もできる。僕はクロスボウを取り出しては引き金を引き、取り出しては引き、試作品まで持ち出して次々にぶっ放した。これは武器庫の分!!


 クロスボウは何度も目標を貫き、だけど赤髪は戦士だった。


「アアアアァァァァ!!!!!」

「ぐっ!?」


 腹に刺さるボルトに構いもせずに一歩踏み出すと、武器スキルを飛ばしてきたのだ。不意を突かれた僕はそれを躱しきれず、肩を掠めるように一撃を受けて転がった。


 「クソッ!」

 

 すぐさまポーションで回復する。あのまま受けに回ると押し切られると判断して、被弾覚悟で相打ちを狙ってきたんだろう。やっぱり現場の人間の覚悟は違う。

 

「ガアアアッ!!」


 痛みに顔を歪めた赤髪は叫び声を上げながらクロスボウの矢を引き抜くと、腰のポーションに手を伸ばした。させるかっ!!


「【水蛟】!!」


 足元から伸びた水の槍が、瓶を握った手に迫る。が、赤髪はそれを避けることもせず


「もう許さねェぞ……」


 と冷めた目で静かに吐き捨てた。これは発狂モード入っちゃったか?



先転(スロウバック)


 身構える僕の眼の前でそう呟いた赤髪の体が突如膨れ上がり


「――がっ!?」


 僕は肩口から大きく切り裂かれた。



 


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