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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第二章
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第64話 一揆


「……おお、あれが西の森一揆の集団か」


 豊成が精一杯伸びをして、氾濫(スタンピード)の軍勢を観測する。うーん、僕の視力じゃ全然見えないな。


 打ち鳴らされる鐘の音をバックに城壁の上はにわかに慌ただしくなり、伝令や物資を担いだ冒険者たちが駆け回っている。城門のほうでは、二人がかりでバリスタが運び込まれていた。


「東側から持ってきたのかな?」

「一発くらい討たせてくんねェかな」


 続いてドタドタと足音を立て、長物を担いだ冒険者達が現れた。射手を守るための人員らしく、城壁の上に散っていく。


「おお、ほんとにいたな。お前らが弓隊に合流したって聞いたからよ、じゃあ護衛でもしてやるかって」


 うちに配置されたのは、なんとパランカさんだった。


「ありがとうございます。パランカさんなら心強い」

「虫くらいなら今の俺でもどうにかなるだろ、期待しとけ」

「もういい年なんだからよォ、無理されても困るけどな」

「馬鹿野郎、いざって時に年齢が問題になるかよ」


 予定外の追加メンバーに正直動きづらくはなったけど、知人が配属されただけでも幸運だろう。パランカさんはいい人だ、最悪の場合は口裏を合わせてもらおう。


「あ、ディー。知ってるかもしれないけど、こちら『転がる首亭』の主人で自称元星1つ半冒険者のパランカさん」

「自称は余計だ。パランカだ、よろしくな」

「こっちは最近つるんでるディー、星1つ冒険者です」

「ディーです。お名前はかねがね」


 パランカさんが何やら疑いの目を向けてくるけど、変なことは話してないですよ。飯がまずいっていう公知の事実で盛り上がっただけです。


「お前らいつの間に弓なんて使い始めたんだ」

「ここ最近ですね。ディーに教わって」

「2人とも、なかなか筋がいいですよ」

「おっさんこそ槍使えんのかよ」

「星1つ半をなめんなよ。本職は剣だが虫を追い払うくらいはできる」


 パランカさんは槍を振り回してみせると、胸壁から顔を出し


「いるな……カブト、ハチ、トンボか」


 魔物の様子を確認した。


「よく見えますね」

「あれだろ、最近は遠くのほうがよく見えるんだろォ」

「まだそこまでじゃねえ!」


 飛行速度の早い鳥系のモンスターは既に到着している。今飛んできているのは遅い魔物たち、例えば子供くらいの大きさがあるクソデカカブトムシだとか、クソデカトンボだとか、クソデカハチとかだ。


「ベテランとして、魔物の解説とかしてくださいよ」

「そうだな、トンボは問題ない。攻撃手段が噛みつきだけだ、顔面と首を守ってりゃ死なねえよ。ただし威力はあるぞ。あいつら肉食だからな、ハチなんかよく食われてる」


 なんかもうヤバそうなんだけど。


「トンボは羽がデカイくせに柔らかいからな、明確な弱点だ。そこだけ狙っておけばいい。抱きついてからの噛みつきを狙ってくることもあるが、そん時は落ち着いて片手で相手の顔を抑えて、もう片方で羽を(むし)るんだ」


「カブトは勢いをつけた突進で角で刺されるのが一番怖いが、避けるのは難しくないし、貫通力自体も大してない。どっちかと言うと、前衛が角で投げ飛ばされて陣形が崩れるのが厄介なんだ。ここは城壁の上だからな、落とされるのだけは気をつけた方がいいぞ」


「……ただ、カブトは大分疲れてるな。あいつらはトンボやハチと違って長く飛べねえ、ここまで来てもバテバテだろうよ」


「ハチは厄介だ、ちょこまかと動き回るし数で押してくるからな。だが本当にヤバいのは首を噛まれた時くらいだ。毒消しもってりゃ最悪刺させたところを捕まえて、首を()じ切ればいい」


「トンボもそうだが、守るべきは顔と首と、あと指だな。腕なんかは防具で受けられるし、少々かじられてもポーションがある。今ならギルドにいい治癒術師も揃ってるし、ちぎれなきゃどうにかなるぞ」


 パランカさんは滔々(とうとう)と語り、僕らはドン引きだった。


「『大丈夫』の基準が死ぬかどうかなんだけど」

「戦い方も全体的に蛮族っぽいし、星1つ半冒険者ってみんなこうなのかァ?」

「やっぱり、命をかけてる人たちはネジが飛んじゃってるんだね」

「こうやって命を粗雑に扱ってるから、料理が上手くならねェんだな」

「飯は関係ないだろ、飯は!」


 いやー、どうかなー。


「もうちょっとこう、人類向けのやつは無いんですか?」

「オレ達まだ人間辞めたく無ェからよォ」

「冒険者ならこれくらい当たり前だろ? ハチやトンボはまだマシだぞ。一番ヤバイのはクワガタだ、腕や足はもちろん胴体もちょん切ってくるからな。西の森にはいないから助かるぜ」

「正直、星1つ半舐めてたッス!」

「僕たちには無理ッス!」


 僕らの戦闘スタイル、狙撃と地形ハメだもん。


「ハチに刺させてから倒すのは、割りとスタンダードなんだよね。蜂蜜回収を専門にしてる冒険者なんかは、ウッドゴーレムなんかを突っ込ませてるよ」

「なるほどなァ。今から丸太でも調達……は流石に無理か?」

「大丈夫、パランカさんがその身を穴だらけにしてハチを引き付けてくれるッス! 僕たちは射撃頑張るッス!」

「大丈夫ッス! 毒消しなら支給されたッス!!」


 ガチ目に頼りにしてるッス!


「つっても、ハチとか弓でどうにか何のかァ? 動きが細かいし数が多すぎる。あれ潰してたら矢がいくらあっても足りねェぞ」

「ああ、そこは大丈夫だ。見てろ」


 パランカさんが指さした先、城門の向こう側でなにやら煙が上がった。すると魔物の群れからハチ達が飛び出し、猛然と煙に突っ込む。


「オオモリミツバチが好む、蜜の臭いの香を炊いてるんだ。後は――」


 甘い香りに誘われて煙に群がったハチを、巨大な炎が焼き尽くした。


「おわぁ、えげつな……」

「食い物で釣って一網打尽なんてよォ、その発想自体が恐ろしいぜ」

「僕、最近どこかで見た覚えがあるんだけどなあ……」


 ディーがどこか遠くを見ている。 


「一番ヤバいハチはギルドが焼いてくれた。あとはしっかり数を減らすだけだ」


 パランカさんが胸壁から身を乗り出して、城門側を確認した。


「勘違いするなよ、虫は本番じゃねえ。大事なのはこの後の本体で、今は城壁の上を確保できればいいんだ。デカくても所詮は虫だ、きちんと建物の中に避難してれば市民に危険は無い。少々は撃ち漏らしてもいいくらいの気分で、自分の身の安全を最優先するんだ」


 パランカさんが真剣な目で言う。


「虫を乗り切ればあとは上から射ってるだけでいいからな、地上の連中に比べりゃ天国みたいなもんよ。たまに油断してトロルの投石を食らうやつもいるが」

「全然安全じゃないじゃないですか!」

「ははは、胸壁にきちんと隠れてれば大丈夫だ。虫相手に練習をしておけ」


 そういえば超豪速球の持ち主、三眼鬼さんもいらっしゃる予定なのか。うーん、普通に危険なのでは?


「まあお前ら星半は射つだけ射ったら避難してもいいぞ。本体相手に働けないと困るからな」

「いえ、やりますよ」


 僕は弓を手に取り、木箱から立ち上がった。


「カブトとトンボ、どっちを狙ったほうがいいんですか?」

「カブトだな。あっちの方が地上に降りると面倒だ。だが弓は通りにくいぞ、無理ならトンボでいい」

「よっしゃ、いっちょやってみっかァ」


 豊成も立ち上がり、矢筒を背負った。


 魔物の群れは、僕にもはっきり見えるほどに大きくなっていた。ブンブンと幾つも重なった羽音が、次第に大きくなっていった。


 一つ大きく息を吸い、長く吐く。カイロを懐にしまうと、握りこぶしを作って気合を入れた。



 よし、決戦だ!


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