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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第一章
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第6話 クラス会議

「みんな、疲れているところを集まってもらってすまない。だがこの異常事態だ、早急に情報の共有が必要だと思う。ぜひ、協力してほしい」


 集まったクラスメイトの前で、大学は頭を下げた。


 面談を終えた僕たちが次に案内されたのは、食堂やお風呂、談話室に個室が揃った生活用の区画だった。そのまま入浴して食事の後就寝の予定だったが、話し合いの場が欲しいと引率のローブにお願いして、時間をもらったのだ。


「と、話し合いを始める前に一つやって欲しい事がある。全員インベントリというスキルを手に入れたと思うが、これは自分の持ち物を自由に出し入れできる、四次元ポケットみたいなものだ。こんなふうにイメージするだけで使用できる」


 大学はそう言うと、どこからか取り出したスマホを頭上に掲げ、消したり出したりした。


「自分でもまだ信じられないが、俺たちが不思議な力を得たのは間違いないと思う。そしてこのインベントリなんだが、どうも収納している間は時間が止まっているらしい。中に入れてるこれの時計が進んでない」


 ネットがあれば時刻合わせが行われるんだろうけど、ここには繋がるサーバなんてない。インベントリに入れてるだけ時刻が遅れていくはずだ。


「この世界についてはまだ分からないことばかりだが、これの存在は俺達の切り札になるかもしれない。通信は無理でも、録画、録音だけで強力だ。だが充電が望めない現状、今残っている電池でやりくりするしか無い。インベントリに入れておけば、少なくとも電池の減少を止められる。出来れば今ここで、これを収納しておいてほしい」


 大学に促され、みんながインベントリを起動する。全員、問題なく使えているようだ。


「ありがとう。あれについては、できるだけ情報を出さないようにして欲しいが、勿論みんなの安全が最優先だ。それと一応確認しておくが、誰かこの世界で使えそうな充電機を持っていないか?」


「おう、実はある」


 そう言って挙手したのは中村君だった。中村大学と名字が被っているため大学じゃない方の中村、転じて高校、専門、幼稚園などと好き勝手呼ばれているナイスガイで、本人は怨霊っぽくて格好いいのでぜひ大学院まで進学したいらしいが、そうか、彼は登山部だ。


「俺のスマ――あれのカバーはソーラーパネルがついてる。太陽とケーブルがあれば充電はできると思う」


 中村くんの発言に、おお、と小さいながらも歓声が上がるが


「だがよォ、ここは地下っぽいし、先方は俺達を表に出してくれそうには無ェぞ」


 と心無い人間が水を差した。「えっ、地下なの?」と新たな不安も広がっている。


「それは思ってた。窓とか一つもなかったし」

「グルグル歩かされたじゃん、あれ場所を特定されないためだろ?」

「ガチの軟禁じゃん……」

「太陽光じゃなくて蛍光灯でも発電できるんじゃなかったっけ?」

「ろうそく以外に明かりの器具? もあるっぽいよね」

「あたしケーブルならある」


 今後の報告に期待、ということでひとまず落ち着いた。スマ――あれの充電が可能かどうかはなかなかの分岐点になりそうなので、ぜひ頑張っていただきたいところだ。


「 さて、前置きが長くて悪いが本題に入る前にもう一つ。みんなもこの世界の言葉が使えるようになっていると思う。先程確認したが、日本語はこの世界では通じないようだ。つまり今みたいに俺たちだけで会話をするときは、日本語を使えば情報漏洩のリスクをぐっと下げることができると思う。もちろん、あちらが本当に理解してないかは分からないが」


「ちょっといい? それについてだけどね、ステータスの【大陸語】を意識しながらオフになれって念じると、スキルを停止できるみたいなんだよね。もちろん、オンにもできる」


 横沢さんの発言通りに試してみると、おお、確かに【大陸語】の文字が灰色になった。


「この大陸語、正確にはクラスト大陸語って言うらしいんだけど、面談のときに適当な本を一冊見せてもらったんだよね。あ、私の職業が【司書】だったから、その関連でね。大陸語スキルがあれば問題なく読めたし、スキルをオフにしたら、まあ、見たことのない言語だったよ」


 大の本好きで図書委員でもあった横沢さんなら職業【司書】も納得だ。彼女が見たこと無いなら、うちの誰も知らないだろう。


「正直、このスキルってのがどういう理屈で動いてるのかわからない。日本語を話してるつもりでも大陸語の影響が出るかもしれないし、身内だけの会話は【大陸語】をオフにしといたほうがいいかもね」


「あー、私の職業【侍】なんだけど、前例が何人かいるらしいのね。ちょんまげ結ってたらしいからかなり昔の人だとは思うけど、日本人なのは間違いないと思う」


 そう言う若松さんは、なるほど剣道部員だったか。


「あ、俺聞いた。大体150年間隔で召喚してて、俺達は5代目らしいぞ」

「てことは今回が2020年、前回が1870年で、ええと……1720年、1570年、1420年か。1870年というと……大政奉還が1867だから明治維新直後?」

「全部日本、というか地球からなのか?」

「1720年って江戸時代?」

「吉宗の辺りだからど真ん中だな」

「桶狭間が1560年だっけ」

「1392年南北朝統一だから、初代は室町時代か」

「話し言葉なら江戸時代の人とも意思疎通くらいはできるって聞いた気が」

「前回の人たちの記録が残ってるなら危ないかもな……」

「そうなると書き文字が一番安全か? カタコトの英語でも混ぜて」

「全部インベントリ? に突っ込めば、文書は隠蔽できるか」

「なんなら今盗聴されてる可能性も十分にあるよね」

「そもそも言語系のスキルがあったら読解されない?」

「それでも今は危険を承知で情報交換するべきだと思う」

「そうね。もうこの時点で知らなかった情報ポンポン出てきてるし」


 緊張がほぐれてきたのか、みんなの発言も活発になる。


「やはり警戒は必要だな。今は理解しなくても、解読が進む恐れもある。ただ、表立って日本語を使うのも警戒感を出しすぎて良くないだろう。その辺は上手く使い分けてほしい」


 大学は話をまとめると、


「というわけで、本題に入りたいと思う。まず決めたいのは、俺たちの目的だ」


 そう言ってみんなを見回した。


「言われた通り魔物を倒してもいいし、武力で名を上げたり文化を広めたりもいいだろう。だが、俺としては元の世界に帰りたい」


 大学の演説に、誰も真剣に耳を傾けている。


「異世界についてまだ実感が湧いてないのもあるが、この世界でやっていくビジョンが浮かばないし、やっていける自身も湧かない。家族だって向こうにいるし、やり残したこともある。正直、安全面での不安も大きい」

「おう、帰れるならさっさと帰りたいぜ。俺はまだ甲子園諦めちゃねーぞ」


 浜君の言葉には重みがあった。彼が朝から晩まで練習してたのは、クラスメイトなら誰でも知っている。


 あちこちからも「帰りたい……」「私も……」と弱々しい声が聞こえた。それはそうだろう、正直浮かれてしまってる僕だって、今すぐ帰れるボタンがあったら100万連打する。異世界は遠きにありて思ふもの、現実では多少チートを積まれたくらいじゃ割に合わない。


「それに、彼女も残してるしな」


 突然の爆弾発言に、談話室は騒然となった。


「は? 彼女?」

「大学、裏切ってたのかよ!?」

「付き合ったのか、俺以外のやつと……」

「全然知らなかったんだけど」

「初めて言ったからな」


 してやったり顔の大学は、しかしすぐに真剣な表情に戻ると言った。


「全員揃って、みんなで元の世界に帰る。これを目標としたい」


 その提案に、反対の声は上がらなかった。


「帰る方法も聞いてある。俺たちの召喚には膨大な魔力が必要だったし、帰還にも同じくらいの魔力が必要だろうという話だった」

「そして、その魔力を補充するのに魔石というものが必要らしい。魔石は魔物の体内にある結晶だそうだが、つまり入手するためには魔物を倒すしか無い。どのみち魔物と戦わなくてはならないみたいだ」

「うまく誘導されている気もするが、目標が一致している間は向こうも強硬手段に出ないだろう。まあ、詳しくは後々考えればいい。こちらの世界に残りたい人もいるかもしれないが、できれば帰還に協力してほしい。どうだろうか」


 おお、もうそこまで情報を集めたのか。これが事実なら、友好的な関係のまま帰還に漕ぎつけられるかもしれない。


「私は賛成かな」

「僕も、帰りたいし……」

「戻れる可能性があるなら試したい」

「うん」

 

 みんなも具体的な話が出たことで、前向きになったようだ。


「いいけどよ、言い出しっぺがリーダーやってくれよ」

「まあ大学しかいないよね」

「俺は異世界転生? というのに詳しくないが大丈夫だろうか?」

「まあ詳しいやつは何人かいるし」

「リーダーシップのが大事でしょ」


「……分かった。この34人の代表を引き受けよう。至らぬところも多いだろうが、どうか力を貸してほしい」


 大学はそう言うと改めて頭を下げた。


「じゃあ女子は千草ちゃんね」

「わ、私もこういうの全然……」

「いーの、いーの」

「千草しかいないでしょ」

「むしろ変な先入観なくていいよ」

「う、うん……」


 こうして僕たちの勝利条件は無事決定し、リーダーも選出された。両名とも元々クラス委員だ、納得の人事である。


「よし、ではリーダーとしての仕事をさせてもらおう」


 早速大学が眼鏡を押し上げて言った。


「というわけで小屋敷、頼めるか?」

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