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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第二章
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第52話 プレゼント

 岩山の上で羽をつくろっていたオオヒクイドリの頭部が、豊成の矢をまっすぐに受けて弾け飛んだ。


「うわ……」


 薬を調合しながら横目で見ていた僕は、思わずすりこぎを取り落としそうになる。


「いやいや、威力高すぎない?」

「風魔法掛けたら射程距離が伸びてな、おかげで【スナイピング】が乗りまくりよォ」

「ふっふっふ、僕の教えの成果だね」


 ディーが手柄を誇るように笑う。


「【集中】【チャージ】【スナイピング】【視力強化】【風魔法】でしょ? 狙撃手としてはかなりのものだよね。エルフでもこれだけスキルが揃ってるのは稀だよ」

「こちとら勇者様だからなァ!」


 新必殺技の威力に気分を良くした豊成は


「ウヒョー! 皆殺しだぜエエエエェェェェ!!!!」


 喜々として矢をつがえては放った。経験値稼ぎbotの性能が向上し、僕もご満悦だ。レベル上げをオートパイロットに任せ、僕は【誓約】と【錬金】の作業を続けた。


 オオヒクイドリのコロニーを潰して回り、34階層へと到達。だが、順調な道のりはそこまでだった。



◇◇◇◇ ◇◇◇◇



「飽きた!!」


 ディーが不満の声を上げた。軟弱なエルフのストレスが、ついに爆発したのだ。


「……なんだオメェ、レベル上げは初めてか?」

「このくらいで音を上げてちゃ、カンストなんて夢のまた夢だぞ」

「カン、スト……?」

 

 僕らは無言で手を動かしたが、ディーはへの字口だった。


「いいか若造」


 豊成が背中で語る。「僕、人間に若造扱いされたの初めてだよ……」


「レベル上げってのはなァ、レベルを上げちゃあいけねェんだ」

「?」

「心を無にして、指先だけ動かすんだよ」

「はぁ……」


 また一本、矢が岩山へと飛び立った。


「オメェも慣れりゃあ、画面を見ずに手首の感覚だけでやれるようになる」


 豊成は顔をこちらに向けたまま矢を放ち、矢はあらぬ方向に飛んでいった。


「うん? よく分からないけどね。君たちはやることがあるかもしれないけどさ、僕は完全に手持ち無沙汰だよ」

「おいおい、やることならあるだろォ」

「そうそう」

「え?」

「とっても大事な、ディーしか出来ない役目」


 僕らはディーの目を真っ直ぐに見据えた。


「エルフのよォ、知識を漏洩するっていう大事な役目がよォ!」


 ディーも僕らの目を真っ直ぐに見た。完全に呆れ果てた目だ。


「いいじゃねェか、減るもんじゃなし」

「先っちょだけ、先っちょだけだから!」

「ええ、無理だから……先っちょって何?」

「違うんですよ、ディーさんには日常の何気ない話をしていただいて、僕たちがそこから何かを勝手に推測しちゃうだけなんですよ」

「いや、漏洩って言ってたでしょ……」

「ポロリもあるよ」

「よく分からないけど多分無いよ!」


 説得の言葉を重ねたが、なかなか首を振らない。強情なエルフだぜ。



 仕方がないので、ディーに付き合って接近戦の訓練を始めることにした。


「普通に戦ったんじゃつまらないだろ、賭けをしよう」

「へえ、いいね」

「僕が勝ったら……喋ってもらうぞ、エルフの秘伝!」

「ふーん、じゃあ僕が勝ったらそっちの世界の話でもしてもらおうかな」


 掛かったな、バカめ!!


 120要求して20を妥協、した振りをして100を通すこの見事な交渉術。見事に騙されてくれたようだ。エルフ、恐るるに足らず!!


「へげぇっ!!」


 僕は大地を転がった。もう何度地面を舐めただろう、すっかり土の味を覚えてしまって、気分は荒野階層ソムリエだ。


「おっと、もう終わりかい?」


 ディーが薄ら笑いでくるくると剣を回す。


「馬鹿を言え。最後に笑うのはこの僕だ」


 負けは認めなければ負けじゃない。最悪引き分けと言い張れば負けじゃない。


 僕はゆっくりと立ち上がると、土を払って短剣を構えた。


「こんないい実験台がいるんだ、とことん付き合ってもらうさ」


 僕が温めている新技、全部試させてもらうよ!!


「行くぞ! 一の剣『マイ・ファースト・スぐぶおっ!!」

 

 ペロッ、これは土の味!!


「おいふざけるなよ! 技名の途中で攻撃するやつがあるか!!」


 僕は飛び起きてノーマナー行為を糾弾した。


「いやいや、あんなトロい初動じゃ出掛かり潰されて終わりだよ」

「そ、そこはアレよ。事前にいい感じの伏線を張って、相手の動きを止めとくんだよ」

「じゃあ張ってみなよ、伏線」


 くっそー! このクソエルフ、絶対ぎゃふんと言わせたる!!


「よし、もう一本だ! 次は絶対にオラァ!!!!」

「これは伏線じゃなくてただの騙し討ちだよ……」


 おっ、岩山に近いとすこししょっぱいんだな。岩塩か?



◇◇◇◇ ◇◇◇◇



「へー、年末のお祝い」

「12月25日が当日なんだけど、前日の夜にパーティーとかプレゼント交換とかやるからそっちのほうが盛り上がっちゃうっていう」

「というわけで、ちょっと早いけどよ。メリークリスマス! イェー!」

「いえー!」

「イェー?」


 僕らはカップを合わせた。飛び散ったワインの雫が焚き火に飛び込み、じゅっと音を立てて蒸発した。


 36階層まで平定して、本日は早めの店じまいだ。賭けの景品として、クリスマスを教えることにしたのだ。僕らは焚き火を起こして、異世界チキンを焼いた。


「本家では七面鳥ってのを食べるんだけど、まあオオヒクイドリでいいでしょ」

「あれ、パサパサして微妙なんだよな。うん、七面鳥より美味ェ~」

「と言っても昨日の残りだけどね。やっぱり【インベントリ】便利だなあ。【空間魔法】だけじゃ時間を止められないんだよね」

「へえ、【時間魔法】とかあるの?」

「パワーアップして【時空魔法】とかになるんじゃねェ?」

「あっ……いやーどうだろうねえー」


 ディーは目をそらして鳥肉にかぶりついた。

 このエルフやっぱあれだな、懐に入ってボロが出るのを待つのが一番だな。僕らは畳み掛けた。


「へえ、【時間魔法】とかあるの?」

「パワーアップして【時空魔法】とかになるじゃねェ?」

「さあ、2人ともスープも食べてよ!」

「へえ、【時間スープ】とかあるの?」

「パワーアップして【時空シチュー】とかになるじゃねェ?」

「ならないよ!!」


 料理を平らげると、パーティーはいよいよ佳境だ。


「さーて、お待ちかねのプレゼント交換だよ~」

「俺たちからはコレだァ!」


 豊成がインベントリから取り出したのは、黄金色に輝くアイツだった。


「へえ……これは何? ゼリーかな?」

「残念。これはスライムスープだ」


 僕がお皿を指ではじくと、上に乗ったそれはプルプルと震えた。


「僕らの世界ではね、火山の付近で硫黄を食べる黄色いスライムが穫れるんだ。それを三日三晩流水にさらし、塩をまぶして天日で干して水分を飛ばした後すり鉢ですり潰した粉末をふるいにかけたものをクミンと一緒に中火で炒めてはちみつとターメリックとコリアンダーとガラムマサラを入れて煮込むとこんな感じになるんだよ」

「絶対嘘だよね?」

「ど、どうしたの? ディーちゃん。私の言葉を疑うなんて、ママ悲しいわ」

「僕、なんとなく君たちの扱い方が分かってきた気がするよ……」


 おっと、いたいけなエルフの心に、疑いの雲をわかせてしまったようだ。


「これはな、プリンっていう食い物だ。まあデザートだな」


 豊成がスプーンをつけてディーに手渡す。


「見たこと無い食べ物だね……」


 ディーはスプーンを差し入れて感触を楽しんだ後、口に運びかけて僕らの方をじっと見た。こんなに疑い深い子に育っちゃって……。僕は仕方なく自分用のプリンを取り出し食べてみせた。


「ふーん……この匂い、ミルクと卵、砂糖かな」


 プリンを口の中で転がしながら、ディーが呟く。ヤバい、プリンのレシピと交換で情報を引き出そうと考えてたのに、2秒で正解に辿り着かれてる!


「……! おお、なるほど、これはいいね! ふーん……カラメル……」


 ただ、計算通りにディーは興味を持ったようで、皿の上に残されたプリンを細かく刻んでは口に運んでいる。ここは攻め時だ! 僕は援軍を呼び出した。


「後はこんなものもある」


 僕が取り出したのはアイスクリームだ。


「これはアイスクリームと言ってね、僕たちの世界では

「ふーん、ミルクと卵と砂糖…牛かな?」


 ディーが人の話も聞かず、その白い宝石にスプーンを入れる。


「オウオウ、兄ちゃんよう。まさかとは思うが、タダで食おうと思ってんじゃないだろうなァ」

「出すもん出してもらおうか、オァア?」

「はは、プレゼント交換だろう?」


 ちょっとジャンプしてみろや、オァア?


「そうだねえ、ホズミには僕が採取したチャングン草、トヨナリには短弓を教えてあげよう」

「チャングン草ってあれ? 相手の呪文を阻害する毒を作れるやつ?」

「そうそう」


 え、いいの?


「貴重なやつじゃなかったっけ?」

「うん。でも僕には必要ないからね。たまたま見つけたやつ」


 異世界のデザートなんて里の長老でも食べたことないと思うしね、それだけの価値はあるよ、とディーはスプーンを動かした。思いのほか大物が釣れてしまったようだ。くそっ、これならもっとふっかければよかったか……!!


 ディーはプリンを平らげると、物欲しそうにこちらを見た。だがプリンの在庫はあと20ほど、残り日数を考えるとギリギリの在庫数だ。お前たちに食わせるプリンは無い!!


「あ、そうそう。大婆様は甘いものがお好きだからね、このプリン? を出してあげると喜ぶと思うよ。お返しも期待できるんじゃないかな」


 俺たちはババアのサンタになることを決意した。


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[良い点] ババアのサンタになるで笑ったw
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