表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚されたら草だった  作者: 徳島
第二章
46/136

第44話 弔い

 深谷は激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)のオオヒクイドリを除かなければならぬと決意した。野を越え山越え飛び去った怪鳥を追い、十里はなれた()の巨大な岩山郡にやって来た。


「どこだ、どこにいやがるっ!?」


 豊成は血眼になって怨敵を探した。沈みゆく夕日に岩山の黒い影が幾多も伸びている様は、剣山を思わせた。立ち並ぶ塔の数は五十を超え、その上空を多くのヒクイドリが悠々と行き交っていた。


「クソッ、シャンプーのとき頭ガシガシやるやつみたいな地形をしやがって!」


 人が必死で文学的に表現しようとしてるんだから雑な例えを挟むの止めて欲しい。


 この階層にはオオヒクイドリの巨体を支えられるほどの木はない。代わりに岩山の頂上へと止まり、羽を休めている。丁度いい大きさの石山が多いこの地域は、彼らの住処となっているようだ。


「どれがヤツか分かんねェ……よし、全部燃やすか」


 豊成は憎しみの余り、オープニングで主人公の故郷を滅ぼす悪役みたいな事を言いだした。


「森じゃないんだから無理でしょ、燃料が足りない。レベルも上がらないし」


 残念ながらこの世界では、森と森に生きる生き物たちを焼き尽くしても経験値は入らないらしい。まあ「焼き畑を制するものは異世界を制す」みたいな世界観になられても困るし、やむを得ないところだ。


「ただ、全殺しは賛成だ。この距離でも僕らが襲われる様子はない、ここに基地を構築しじっくりといこう」


 僕らはコンビニのトイレほどの穴を堀り、階段も設置して、大盾や置盾で天井を作った。畑仕事に必要だから、と森山くんに作ってもらったスコップやツルハシやクワが大活躍だ。面倒なはずの残土の処理も【インベントリ】のおかげで問題にならず、数時間で作業を終えることが出来た。


 穴の中に入ると椅子を取り出して腰掛け、夕食をとった。ボルケスタの屋台で買った肉野菜サンドに、王宮からガメてきた香辛料を振りかける。うん、アツアツで美味しい。パランカさんには申し訳ないけど、人目を気にせず王宮スパイスを使える分ダンジョン飯の方が美味いまである。僕らは舌鼓を打ちながら、オオヒクイドリ絶滅計画の詳細を練った。


「このまま夜まで待機して、オオヒクイドリが寝るのを待とう。あっちは鳥目だし、夜中なら僕らを探せないだろ」

「ってかよ、鳥目つっても大抵の鳥は普通に夜も見えるらしぞ」


 豊成が矢の出来をチェックしながら言った。早く言えよ! 


「無駄に穴とか掘っちゃったじゃないか!!」

「いや、夜目が利きにくいのは確からしいからな、作戦としては間違って無ェ。こっちは【視力強化】がある、クリスマスにはちと早ぇが七面鳥撃ちと洒落込むぜェ」


 僕らは交代で仮眠を取り、夜の帳が下りきったところで作戦を開始した。


「【集中】、【チャージ】……」


 豊成が穴から上半身だけ出して、弓を引き絞る。僕の役目は周囲の警戒だ。このあたりはオオヒクイドリの縄張りなのか、マッドブルもバトルドッグも姿を見ない。


「……フンッ!!」


 矢は糸を引いて飛んでいった……んだろうなあ、暗くてよく見えないな……。ただ、遠くでどさりと何かが落ちる音が聞こえたので、きちんと命中したんだろう。


「当たった?」

「あたぼうよォ。次行くぞ」


 豊成は続けて矢を放つ。


「当たった?」

「次行くぞ」


 ……お、今度は矢が突き立つ音。 だけど落下音も衝突音も聞こえず、代わりに大きな鳴き声が響いた。バサバサと羽ばたく音もする。


「クソッ、確かに頭ぶち抜いたのに、あれで死なねェのかよ!!」

「さすが30階層だね。さて、ここからどうなるか……いつでも逃げれる準備だけしといて」


 僕らは警戒を強め逆襲に備えたけど、ついぞヒクイドリは現れなかった。


「よしよし、大丈夫そうだね。どんどんいこう」


 そのまま僕らは狙撃を続け、再び朝日が大地を照らす頃には、岩山郡の地表はオオヒクイドリの血で真っ赤に染まっていた。



◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇



「ヤツがいなかった」


 豊成が木匙でスープを啜りながら言った。


 昨夜僕らが墜としたオオヒクイドリの数は30を数えた。全部で50ほどいたから、群れの半数以上だ。残りのうち10羽は豊成に矢を打ち込まれて逃げ出し、もう10羽は仲間の叫び声に危険を感じてどこかへ避難したようだった。


 僕らは無人となった岩山郡へと侵入し、魔石や素材を回収がてら首実検をして回った。だけど、マッドブルのボスを連れ去ったあの大物の姿を見つけることは出来なかった。地下基地へと引き上げて、地図を広げ朝飯がてら今日の予定を考える。


「帰ってくるのを待つ?」

「時間の無駄だな。見ろ、ここから階段とは逆側にもう1つ岩山地帯がある。潰しに行こう」

「こっちに避難してるかもね、じゃあそれでいこうか。レベルも上がったし、移動時間を考えてもけっこう稼げてる」

「お前は穴掘っただけだろ、これでギャラが同じなんだからやってらんねェぜ」

「寝て待ってるだけで兎が転んで経験値が入り続けるガンダーラ、どこかに無いかな」


 食事を済ませると屋根にしていた盾を回収して移動、目的の岩山郡に行き同じような地下室を掘った。


「昼間でも大丈夫だろォ、明け方も襲われなかったし」

「一匹だけならどうにかなるかな。二匹来たら逃げよう」


 豊成がスキルを乗せて矢を放つ。おお、明るいからばっちり見えるぞ。眉間を撃ち抜かれた小型のオオヒクイドリが、岩山の上から転がり落ちた。


 そのまま順調に撃ち殺していって、4羽目。


「お、耐えた。まだ生きてるね」

「クソ、もう一発くれてやンよ」

「いや、ちょっと様子を見よう」


 最警戒で待機してたけど、オオヒクイドリは復讐にこない。そもそも僕らに気づいてないみたいだ。


「……これ、”発見”してしまったのでは?」

「よっしゃ、ナーフされる前に稼ぎまくるぜェ!」


 鳥の視力はいいらしいから、距離的には僕らを捉えることが出来るはず。【埋没】や【迷彩】を突破出来ていないのだろう。さらに、今回は木の後ろに基地を設置した。向こうからは見えにくくなってるはずだし、【草場隠れ】も乗る。岩山郡はオオヒクイドリのテリトリーだ、他の魔物は近寄らないから周囲も安全。完全に一方的な撃ちっ放しだ。


「死ねっ死ねェ~」


 豊成は端から獲物を墜としてっていった。


 でもこれ、自分の姿を隠せて、かつ数百メートル先の対象を一撃で仕留められる超遠距離高火力スナイパー前提のハメ技だ。豊成でも王宮武器があってギリギリ、普通の冒険者ではちょっと無理だろう。

 遠距離攻撃のない前衛は役立たずだし、弓や魔法だって飛び回られては当てづらい。撃ち漏らせば後衛が狙われ、追い詰めたと思ったら逃げられる。うーん、普通にクソモンスターでは? 正攻法でこのコロニーを攻略しようと思ったら、大規模魔法前提のレイド戦だなあ。


 半数を倒し3割に逃げられあとは2割を残すのみ、となったところで東の空から高速で飛来するものがあった。豆粒ほどの黒点がみるみる大きくなり、段々と鳥の姿を形作る。片足だけでマッドブルをぶら下げている、かなりの大物――


「ヤツだ!!!!」


 豊成が穴から身を乗り出して叫んだ。ほかの鳥に比べ明らかに一回り大きいあのサイズ、確かにアイツだろう。


「……よし、やるぞ」


 目標が一番高い岩山のてっぺんに捕まったのを確認し、豊成が弓をつがえる。僕は夜逃げの準備を始めた。椅子や机を収納し周囲を確認、よし、ほかに敵はいないな。ヤバくなったら他人を装って見逃してもらおう。


 豊成は目を閉じて、


「南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現――


 と大仰な願掛けを始め


――宇都宮、那須の湯泉大明神……やべえ、ここ異世界だからご利益無ェじゃねェか!!!!」


 冷静にセルフ突っ込みしていた。いいから早く撃てよ。


「……願はくは、あの扇の真ん中、射させてたばせたまへ」


 お、強行した。


「これを射損ずるものならば、SNSアカウント消し、ソシャゲ引退して、人に二度、面を向かふべからず」


 これ絶対引退しないやつじゃん。


「いま一度、本国へ迎へんとおぼしめさば、この矢、はづさせたまふな」


 豊成は無事那須与一なりきりごっこを終え、いよいよ矢を放った。


「ひょうふっ!!!!」


 それは口で言うやつじゃねーだろ。


 豊成と、マッドブルのボスと、その他いろんな大明神の思いを乗せ放たれた矢は荒野に長く音を響かせて飛び、目標の顔面ど真ん中から3センチくらい離れたところに突き立った。


「シャコラァ!!!!」


 豊成はむん! とガッツポーズした。デストラーデだ。が、


「……ア?」

「普通に生きてるね」

  

 標的は矢が刺さったままの頭を怒りで振り回した。周囲のオオヒクイドリが驚いて飛び去る。残心とか弓の心とかをおざなりにするからこうなるんだよ。


「チッ、まあいい。次で最後だ」


 豊成は素早く次弾を放つと、見事に2本目も頭部に当てて――


「!? 見られた!!!!」

「ア?」


 直撃する寸前、あいつは間違いなく僕たちを見た!!


「来るぞ、逃げる準備をしろ!!」


 と僕が叫ぶ間にボスは岩山から飛び立ち、猛スピードで迫って来る。


「中だっ!!」


 僕は豊成の体をつかんで基地内へと避難し


「キエエエエエェェェェェェェ!!!!!!」


 耳をつんざく奇声が響きわたると、ドオンと大きな音とともに地面が揺れた。


「オアァ!?」

「くそっ、どうする?」


 ドオン、ドオンと基地が叩かれる。このまま防ぎきれるか? 屋根を剥がされると面倒なことになる、脱出したほうがいいか? そんな僕の逡巡も


「? なんだァこの音は?」

「……まさか」

「キエエエェェェェァァァァァァァ!!!!!!」


 ドドド、と盾代わりにしてた木が根っこごと音を立てて抜かれ、無駄になってしまった。


「逃げる!!」


 僕は丸裸にされた基地を飛び出しすと


「【木の葉隠れ】!!」


 凶鳥の顔面に飛び散った葉をぶつけて時間稼ぎし、荒野を爆走した。ペッペッ、砂が口に入っちゃった。


「キエエエエエェェェェェェェ!!!!!!」


 嫌がらせを受けたオオヒクイドリは奇声を上げてお怒り表明、僕を追ってきた。チラチラと後ろを振り返りながらとにかく走る。気分は大飛球を追っかける外野手だ。


「このままじゃキツイか……!」


 僕は進路を変更し、岩山郡へと向かった。あそこに入り込めばチャージは受けまい。残りの住人たちに襲われるかとも思ったけど、後ろから迫るボスの怒気にあてられ次々と逃げてくれた。うんうん、怖いよね。僕も背中で怒りのオーラをビンビン感じてるよ。


 巨大鳥は僕を逃さんとばかりに猛然と迫ってくる。くそっ、タイミング的にはギリギリだな。何かもう一手は……もう何でもいい! 僕はインベントリからオークやらマッドブルやらの死体を投げ出すが、相手は目もくれない。ヤバい、間に合わないぞこれ! 南無八幡大菩薩、我が国の神明、日光の権現!!


「キエエエエェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!」


 ボスヒクイドリは姿勢を変えて急降下、もはや神頼みするしかなくなった僕の背中を切り裂かんと自慢の爪を広げ、その瞬間横っ面から脳天をぶち抜かれて力を失い墜落、土煙を上げて地表を滑り石山にぶつかって止まった。うおお、助かった!? 前方不注意だった僕も石山にぶつかって止まった。あー、今回はマジで死ぬかと思った。


(おせ)ーよ」


 振り返った僕に穴から突き出た右腕が親指を立てて応え、そのまま沈んでいって見えなくなり、かと思うと次の瞬間フルフェイスのヘルムを掲げた。楽しそっすね。下らないネタを披露してた豊成が光り物に引かれて寄ってきたヒクイドリ達に襲われていたけど、全然助ける気にはならなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ