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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第一章
23/136

第23話 昼食

「と言う感じなんですよ」


 僕は無言で頭を(はた)かれた。体罰! 体罰反対!!


 あれから僕たちは逃げ帰るように、っていうか実際逃げ帰ったんだけど、キャンプ地まで戻ってきた。どうせ午前中に帰還するつもりだったし、これは予定通りの撤退だ。うん、そういうことにしよう。転進! 転進!!


「いや、違うんですよ」


 昼食まで手持ち無沙汰になったので、サルバんさんに相談がてら報告に行ったら怒られてしまった。真面目にキレ気味だ。僕は弁明した。


「俺、言ったよな? 3層までだって」

「たしかに4層は見てきましたけど、入ってはないですよ。こう、階段のとこから覗いただけです」


 サルバンさんは半目で眉をひそめる。うん、全然信じてない顔だこれ。


「4階層からは魔物もガラッと変わる、レベル5以下は侵入禁止だ」


 よし、まずはレベル5まで超速だな。僕は全力でのレベル上げを決意した。


「そうなんですか? なんかバカでかいイノシシが出てきたのですぐ逃げ帰ったんですよね」

「何? ヒュージボアが出たのか。そいつはついてないな」

「あとクソでかい熊」

「何っ! ”(ヌシ)”が出たのか!? こりゃ討伐隊を組む必要があるか……」


 やっぱりあの2体はフィールド徘徊型のイレギュラー個体らしい。大抵は4層の奥深くを荒らし回っていて、入り口付近に出るのは珍しいそうだ。


「お前らの能力なら雑魚は大丈夫だろうがな、たまにああいったでかいのが出るんだ。森林階層の事故は大抵が油断してて大型にドカン、まさにお前らだよ」


 運が良かったと自覚しろよ、サルバんさんは言ったけど僕もそう思う。階段がなかったら分からなかった。いや、階段があるから行ったんだけど。



 という話をしたら、戻ってきた大学たちに大層呆れられた。


「お前たちを野放しにしたのは失敗だったか……」


 そんな、ペットのワンちゃんみたいな。


 大学達は1、2階で魔物を倒して回り、無事全員のレベルを2まで上げることに成功していた。実に堅実だ。


 大学は真面目だけど、()()()()をしないほど厳格じゃない。その辺は野球部に影響が出ることを嫌う浜君の方が潔癖なくらいだ。

 誘ったら4層来てくれないかな、浜君は野中さんいるし無理だろうなあ。僕も小森さんに声かける自信ないしなあ、パーティーに誘う以上全員を無事に帰す義務が言い出しっぺにはある。うーん、総力戦はあきらめて豊成とヒットアンドウェイが正解か?


「おい、分かってんだろうな」


 ハハハ、重々承知しておりますとも。



 ナイスタイミングで始まった配給をサルバンさんから逃げるように受け取ると、僕らは8人で車座になり昼食にした。


「染谷皐月。えーと、赤石に深谷? ヨロシク」


 G組の召喚に巻き込まれてた生徒は2人。1人はF組の野中さんで、残る1人がC組の【騎士】染谷さんだ。

 染谷さんと横沢さん、それとここにはいないけど米さんの3人は図書委員だった。染谷さんは特に米さんと仲がよく、うちのクラスで一緒にいたのをよく見ている。教科書を借りに来て召喚に遭ってしまったらしい。


「召喚なんて最低。でも八穂(はつほ)を1人にするよかマシ」

 

 米さんは、今回の訓練で一番ショックを受けたうちの一人だろう。猫屋敷で暮らす大の猫愛好者で、カバンやパスケースにも猫グッズ満載。与えられたクラスも【テイマー】で、だれもがそれを微笑ましく見ていたものだ。そんな動物好きの彼女が自分の手で暴力的に生命を奪わざるを得なかったショックは、察するに余りある。

 染谷さんはそんな米さんを守るためにも、早くレベルを上げたかったらしい。


「すまないね、追い出した形になって」


 横沢さんもそう謝るけど


「いやいや、この形式を提案したの僕だからね、何の問題もないよ。それに2人のほうが動きやすい面もあるし」


 僕の偽らざる本心だ。


「(むしろ利用したみたいで申し訳ねェよなァ)」


 変なことを言うんじゃない。利用したみたいじゃなくて普通に利用したんだ。


 僕は姿勢を低くすると声を潜め


「(ここだけの話、【植物鑑定】も上がった)」


 セルバンさんに聞こえないように報告した。さすがに生徒と一緒に食事は取れないようで、向こうの方で話し込んでいる。


 4層は未知の植物の宝庫だ、片っ端から【植物鑑定】していくだけで面白いほどスキルが育っているのが自分でも分かった。錬金術素材の薬草の分も合わせて、僕の【植物鑑定】は晴れてLv.2となった。


 【植物観点】Lv.1では、知らない植物を対象にしてもぼんやりとした情報がぼんやりと分かるだけだ。「なんか松っぽいな」とか「なんか熱帯に生えてそうだな」みたいな感じだけど、たまに「なんか地下に実がなってそうだな」なんて役に立つ情報が出ることもある。

 これが「薬草入門」なんかで勉強したやつだと、きちんと名前や簡単な生態、効能なんかが分かるようになるから面白い。暇を見つけては鑑定していたけど、さすがに同じ素材ばかり試してもレベルは上がらなかった。

 その点第4階層はまさに出るわ出るわの新種の宝庫、出演の機会を永遠に奪われた新キャラたちが有無を言わさず大量投入されるやけくそになった打ち切りマンガの如き様相だ。植物と畳は新しい方がいい、畳も植物だしね。

 残念なことに、2レベルになった【植物鑑定】に劇的な進化は起こらなかった。なんとなくの範囲が広がったり、情報が少し詳しくなったくらいだ。ただ、ある程度までレベルが上がると未知の植物に対しても有効な情報が得られそうな雰囲気はある。そこまでいけば実質鑑定だろう、ぜひ育成していきたい。


「成果があったならよかったけどね。【騎士】の皐月はともかく私はおんぶにだっこだったからねえ」


 【司書】横沢さんのスキルは【情報収集】【写本】【整頓】【冷静】だ、なかなか戦闘には活かしづらい。レベルを上げたら何かいいスキルでも使えるようにならないかねえ、と横沢さんは苦笑いでスープをすすった。



◇◇◇◇ ◇◇◇◇



【ヘライ菜】

 食用の野菜。主に北部で栽培される。葉茎菜類。



【サイコジ】

 食用の野菜。葉は生薬としても用いられる。果菜類。



「んー……」


 僕は【植物知識】で具材を調べながら食事をすすめた。

 どれもこれも見たことのある奴等ばかりだけど、微妙に情報量が増えてたりするな。そしてこの謎にシャキシャキした赤いの、反応がないってことはやっぱり肉なのか……。

 深く考えすぎるのも良くない、僕は無心でそれにフォークを突き立てた。


【ロッカ草】

 寒冷地に分布する多年草。肉と一緒に煮ると臭みを消してくれる。


 お、先輩(パイセン)じゃん、チーッス。

 


 ガチャガチャと鎧がこすれる音が、キャンプ地へと近づいてきた。田中君のパーティーが意気揚々と引き上げてきたようだ。体調が心配された和田君も、問題なく同行しているようでよかった。


「おっ、赤石。調子はどうよ! 俺たちは今3層から帰って来……4層!?」


 田中君、話の早い男だ。


「僕、またなんかやっちゃいましたか?」

「やっちゃんただよ、アカイシ。次は絶対俺も付いていくからな」


 通りすがりのサルバんさんが僕に釘を刺す。


 まじかよ。やっちゃってるじゃん……。


 サルバンさんはそのまま山小屋へ報告に行ってしまった。田中君達とも合流して食事を続ける。


「レベル3まであげたの? どう?」

「スキルは増えてねえな。ステータスが上がっただけ」

「ふーん、チャンスはレベル5かな? あ、参考までに豊成のステータスね」


 僕はメモを手渡す。



--------------------------------------------------------------------

【Name】深谷豊成

【LV】2    (+1)


【HP】110/110 (+10)

【MP】 35/35  (+5)


【STR】14 (+2)

【VIT】9  (+1)

【AGL】9  (+1)

【DEX】16 (+2)

【INT】9  (+1)

【MEN】13 (+2)

【LUK】12 (+2)


--------------------------------------------------------------------



「2のまま? じゃあレベルは勝ったな。っていうかよくこんな低さで4層に行ったな……」


 田中くんがステータス表を見ながら呆れる。


「完全にその場のノリだよ。騎士さんにも怒られたし、正直反省している」

「まあうちは他にも怖~いお目付け役がいるからな」


 建石君の発言を受け、みんなが一人飯中の舞戸君に目を向けた。あ、睨み返されたぞ。イエ~イ、舞戸君見てる~?


「舞戸がいるなら安心だな」


 大学からも太鼓判をおされる。舞戸くんが3馬鹿パーティーにいるのは、まさに監督役として期待されたからだ。しっかり彼らの手綱を握っているようで安心……ん? 大学、もしかしてお前――


「ふーん、大体俺らの成長率と同じくらいか?」

「俺の【土魔法】が上昇値合計……12だからそうだな」

「これが農民のステータス?」

「確かに農民っぽい」

「やっぱ非戦闘職はHP低いな」

「攻撃スキルないとステータスだけで戦うことになるんだろ、きついな」

「あ、よかったらレベルアップのデータ取りたいんだけど」


 豊成のデータを肴に田中君達が盛り上がっている。横沢さんはみんなのステータスの記録を始めた。


「攻撃スキルってやっぱり強いの?」

「まあダンチだなあ」

「え、【インベントリ】レベル上がってんの?」


 ランチミーティングでの情報交換は、なかなかに有意義だった。



 食事を終えた僕たちは、午後の探索の準備を始めた。武具を手入れし、水を補充し、トイレを済ませる。


「よし、腹も膨れたし貴重な情報も得られたし、鬼のいぬ間にさっさと行こう」

「誰が何だって?」


 鬼、普通にいた。


「お前ら、そんなに俺と行くのが嫌か?」

「いや、違うんです。話の流れ的につい……」

「アニキ、勉強させてもらいやす!!」


 僕らは必死に追従した。


 どうやら第4階層へ騎士団を調査に派遣することが決定したらしい。希望者はそれに同行してもいいようで、田中君とこも小屋敷君とこも全員参加だ。


「俺たちはどうする?」

「興味はあるが、残るやつもいたほうがいいだろ。俺はこっちでレベル上げしておく」


 大学は参加、浜君と野中さん、横沢さん、染谷さんは居残りとなった。別の女子を補充するらしい。


「おお、これは伝説の『ハーレムパーティー』ではありませんか! 勇者ハマ、お主もすみに置けませんなあ」


 浜君は豊成からその事実を告げられマジで嫌そうな顔をしたので笑った。


「お前らは強制参加な」


 はい。

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