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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第一章
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第2話 現状確認

 いやいやいやいや。


 異世界なんて、そんなまさか。



 思わず眉間にしわが寄る。



 百歩譲って存在を認めたとしても、こんなネット小説みたいな展開なんて。



 でも、僕の心情とは裏腹に、明晰夢有識者としての直感は訴えていた。


 この痛みは本物だ、と。



 いつもの夢の中では、自分の肉体は粘土で作ったアバターみたいな感覚だ。刺されようが殴られようが痛覚などはなかったし、寒さや暑さを感じたこともなかった。本物なのは恐怖だけで、何度ベッドから飛び起きるはめになったか分からなかった。


 僕は黙り込むしかなかった。


「正直今も半信半疑だがよ。マジじゃないならどうせ夢だ、何やったって問題にはならねえ。とりあえずはこれが現実だと考えて動くべきだと俺ァ思うがね」


 豊成が後頭部をさすりながら言った。

 コイツの切り替えの速さと称する飽きっぽさとか節操の無さには思うところがないでもないけど、こういうときには助かるものだなあ、僕は思った。


「……そうだな、一番大事なのは初動だ。豊成、異世界召喚モノは?」

「多少嗜む程度だ」


 同じくらいか、役に立たない奴だ。


「まあいいさ。これが異世界なら、最初にやることは一つだ」

 

 僕達は頷き合うと、軽く息を吸って


「ステータスオープン!!」

「? 豊成君、何を言ってるのかな?」


 僕は可愛らしく小首を傾げた。


「テ、テメェ図ったな!!??」

「君が何を言っているのか全く分からないな」

「俺が起きる前に試してたのか!?」

「おいおい、言いがかりはよしてくれたまえよ」


 豊成が顔を真っ赤にして口角泡を飛ばす。眼鏡姿が一見知的なのに、中身はユーモラスで笑いの絶えない、明るくアットホームな男だ。


 しかしこれではっきりしたな、いわゆる「ステータスオープン」は使えない。


「……俺ァあんまり詳しくないんだけどよ、この手のジャンルでステータスが無いのはリアル志向が強い、つまりろくでもないイベントが目白押しってことだ。ネタに走ってる場合じゃねェぞ」


 豊成は顔をしかめると、言葉を続けた。


「僕もヤンキー口調を直したほうがいいかな」

「馬鹿にしてるようにしか聞こえないから止めよう」


 どんなジャンルにぶち込まれてもどうせ僕らはお笑い担当だよ。


「とりあえずは作戦会議だな。全く、誰かさんが貴重な準備の時間をお笑いに走って無駄にしちまったからよォ」

「ぐっ、別に何もしなかったわけじゃない。みんなも起こしたし情報収集もした」


 僕たちはコソコソと部屋の隅へ移動した。


「ローブの集団がなぜ僕等を放置してるのか分からないけど、あいつらが動き出す前に方針を決めておきたい」

「俺ァ昨日お前に付き合って完徹して、朝登校してそのまま寝た。ホームルーム前から記憶が無ェ。その後も早く起きたお前のほうが詳しいだろ」

「僕もほとんど同じだな。一限が始まってすぐ寝て、気がついたらここだ。僕が起きてからお前を起こすまで二分ほど、特に状況は動いてない。っていうか昨日寝落ちしてなかったか?」

「ドロップが渋過ぎたから放置してソシャゲのデイリー回してたぜ」


 おいふざるなよ、こいつにだけは先を越されてなるまいと必死で粘ってた僕が馬鹿みたいじゃないか!!



「時間は……9時39分。2時限目が始まる直前だな」


 豊成が後ろを向いてコソコソとスマホを取り出した。僕もローブの集団にバレないよう隠れて時刻を確認した。


「時間がずれてるとかはなさそうだね。そして電波は入ってない」

「今の日本でアンテナ1本も立たないなんてあり得ねェだろ。こりゃいよいよだな」


 たしかに、そんな場所は異世界とばあちゃん家の裏山くらいだろう。思わぬところで状況証拠が積み上がってしまった。


「召喚されたのは1限終わった後の休憩時間らしいぞ。ピカーっと光ったってさ」

「へェ。ならガス爆発かなんかで全滅エンドからの転生、みたいな最悪のパターンは避けられたって訳か」

「多少なりとも帰還への希望がもてるタイプではあるね」

「神殿風の部屋、床にでかい魔法陣、その中央に祭壇。何か器が乗ってるな、生贄か?  床に座ったままじゃ見えねェな」

「祭壇向こうのローブの集団の、さらに向こうに扉が一つ、窓は一つもなし。灯りは壁と祭壇の蝋燭だけ」

「あー、この圧迫感はそれか。実は地下で、この召喚はバレたらマズかったりしてなァ」

「邪教の類じゃないか」

「喚ばれたのはうちのクラスか。あのローブどもはなぜ動かねェんだ? まだ儀式の途中? 検疫か何かか?」

「なるほど。召喚にはリスクがあって、ここにいるのは実行犯。お偉い方は安全なところに避難してて、今は成功の連絡を受けてこちらに向かっている途中とか」

「責任者待ちか、ならあんまり時間は無ェかもな。クラス全員で情報を共有するべきか?」 

「そうだね、大した情報も得られそうにないし、みんなで集まったほうがいいかも」


 幸いなことに、うちにはクラスメイトから絶対的な信頼を寄せられるリーダーのナイスガイ、中村大学先生がいらっしゃる。文武両道、頭脳明晰、溢れるカリスマ、迸るリーダーシップ。どこに出しても恥ずかしくない、模範的な優等生だ。なんなら我がクラスが召喚されたのは勇者候補の大学がいたから説まである。言いながら改めて思ったけどとんでもないスペックだな、もうあいつのあだ名「なろう」でいいのでは……? なんにせよ、内部分裂やバトロワの危機は避けられそうでありがたい。


「問題はよォ、大学のヤツがこういうの詳しく無ェってことだ」


 彼は真人間過ぎて、異世界がどうのといったオタク系コンテンツに強くはなかったはずだ。有名児童文学あたりを例に出れば説明自体はできそうだが……。


「気が進まないけど、場合によっては僕らが音頭を取る必要があるかもね」

「無責任な口だけ軍師様の夢だけ見ててェな、俺達はまだ16だからよォー」

「全員起きたみたいだし、とりあえず大学のところに集まって――っと、時間切れみたいだ」

 

 祭壇向こうの重そうな金属扉が、音を立てて開かれている。光が差し込む中現れたのは、三人の騎士だった。

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