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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第一章
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第18話 キャンプ

「マジ? だからこんな雰囲気なのか……」


 田中君のスプーンを動かす手が止まる。


 僕らが帰還してからしばらくして、田中君のパーティーも帰ってきた。多くの戦果を上げ意気揚々と戻ってきた彼らは、間が悪すぎて白い目を向けられることになった。なるほど、僕らもああいうふうに映ってたのか……。


 全員の帰還が確認されたところで、昼食の時間となった。パンとハム、チーズ、それに温かいスープが支給される。食堂で作ったのを運んできたのだろう、いつも食べていのと同じパンなのに全然味がしないな。異世界に来て、一番マズい飯だ。


「うちはバカかアホか鬼畜しかいなかったからな、誰も気にしてなかった。いや、言われてみれば和田はちょっと気分悪そうだったな……もしかして、無理をさせてたのか?」


 田中君は【冒険者】、いかにもな職業ということでパーティーリーダーの一人となった。メンバーは3バカの残りの建石君と種里君に、アホの浦君、みんな大好き舞戸君、そして和田君だ。確かに、このメンツなら一番ショックを受けそうなのは彼だな。リーダーとして周りが見えてなかったのを恥じているのだろう、難しい顔をしてスープをすくっている。


「やっぱり何かを殺すってのはショックだよ、特にゴブリンなんて小柄な人間みたいなもんだからね。まあ吐いたりしてなければ大丈夫だとは思うけど」

「……」


 向こう戻るわ、と田中くんはパーティーの所へ移動していった。彼の班は申し訳無さそうに、静かに昼食を取っている。舞戸君は安定の一人飯だ。



 キャンプ地の雰囲気は最悪だった。



 女性陣による2パーティーは結構強引に戦闘を強要されたらしい。泣き出している子もいたし、それを止められなかったと責任を感じている女子も少なくなかった。昼食に手を付けずにいる姿もちらほら見えるけど、食欲がわかないのも無理はないだろう。小森さんや野中さんがフォローに回っているし、僕も何か力に……


「やあ、お互い大変だったね! 僕もショックでゲロ吐いちゃったよ、男の子なのにね!」


 ……いや、止めておこう。


 気分を落ち着かせるお茶とか、錬金術で作れないかな。




◇◇◇◇ ◇◇◇◇




「よし、食べながら聞け。今回の探索では大きな怪我もなく、全員ノルマを達成することができた。よくやったぞ。危なげない戦いだったと聞いている、お前たちの能力ならよほどのことがない限り3階層までは大丈夫だろう。よって、ここからパーティー毎の自由探索とする。随行員の言うことをよく聞いて、各人頑張ってほしい」



 山小屋から出てきた隊長は、広場の中央まで来ると新たな指令を下した。


「続行? マジかよオイ」


 豊成がどこからともなく取り出した爪楊枝で歯をしごきながら言う。


「これで終わりかと思っていたが……」

 

 大学も眉をひそめた。


「この状況をどう見てるんだろうね」


 これまでも似たような状況に陥ってたからリカバーの見込みがあるのか、何にもかんがえてないだけなのか、はたまた――どうせ隷属させるんだから気にしていないのか。


「さて、どうする?」


 大学がパーティーのみんなを見回す。


「悪い、俺たちはパスだ」

「……ごめんなさい」


 浜君とこは残るらしい。


「いや、無理をしても仕方ない。自由参加だ、万全でないなら残るべきだろう」

「ごめん、私も残るね。ショックを受けてる子が結構いるみたいで……」

「いやいや、そっちのが大事な仕事だよ。むしろ大変な役目をさせてごめんね」


 小森さんもアウト。こればっかりは代わってあげられない。


「すまないが、俺も残らせてもらう。この状況でみんなを残して行けない」


 そして大学も居残りを宣言した。リーダーだし、当然の選択だろう。


「あとは僕と豊成だけか。どうする?」

「他が残るのに俺らだけってのもよォ」

「いや、俺たちのことは気にするな。それに、レベル上げを優先するメンバーも必要だろう」

「……そうだね」

「それより、大丈夫なのか?」


 大学が声を潜める。あれだけ醜態を晒したんだし、心配されるのも仕方ない。

 田中君のところも小屋敷君のところも出発の準備を始めていた。


「問題ないよ。あれは、なんというか不幸な事故みたいなものだから。いざとなったらサルバンさんもいるし、大丈夫でしょ」

「じゃ、ちょっくらカンストしてくらァ」


 僕らはパーティーメンバーの期待を背に受けて出発した。




◇◇◇◇ ◇◇◇◇ 




「これから作戦会議で同行できないんだ、すまんな」


 僕は早速身の危険を感じていた。


「まあ、1階はお前らなら問題ないだろう。2階も……大丈夫だろうな、出てくるモンスターは変わらない。3階は止めておけ、魔物はともかく距離が遠いとなにかあったときに問題だ。おお、2階の地図も渡しておく。いいか、無理はするなよ」



「結局俺らだけかァ?」

「2人はちょっと少ないかもね」

「他ん所も待機者は出てるだろ、合流するか?」

「うーん、でも正直チャンスなんだよね」

「マァな」


 僕らは独立して動くことに強烈なインセンティブがある。サルバンさんがお供に付けられるくらいだ、2人だけでレベル上げの機会なんて次はいつになる分からない。ここはプッシュの一手だろう。


「実際、ゴブリンくらいなら問題ないだろ?」

「いざとなりゃ走って逃げればいいしな」

「よし、安全策でいこう。問題が発生しても対応しやすい、1階の近場を中心に回る」

「妥当なとこだな。今度は一番左の穴にしようぜェ」


 僕たちは再びダンジョンへと足を踏み入れた。




◇◇◇◇ ◇◇◇◇ 




「……ここが、第2層……」



 僕たちは、階段を下りた先の景色を眺めた。



 はい。


 正直、調子に乗ってしまいました。



 いや、理由はある。豊成が選んだ左の道は田中君たちがアタックしたルートだったのだ。全く敵がいない。仕方がないのでずんずん進み、やっと出てきた魔物たちを倒して回っていたら、2層への階段まですぐそこのところまで来てしまったのだ。だから、その、ちょいと顔でも見に行こうかなんてなるのは仕方なかったんだ。


「……」

「……」

「……なんかよォ、アレだな」

「……アレだね」

「全然代わり映えがしねェな」

「そうだね」


 階段を降りると、そこは別世界だった。なんてことは微塵もなく、1層の延長線上としてのダンジョンが続いているだけだった。かろうじて人の痕跡が薄いかな? くらいだ。僕は地図を取り出した。


「他のパーティーが選ばなそうな道で……とりあえずここまで行って……こうかな?」

「魔物がいなかった分俺らが最速か? まあかち合っても音で分かるか」


 ダンジョン内は静かなものだ。その分、鎧の擦れる音や靴底が地面を叩く音がよく響き、緊張感を増幅させた。


 周囲の道を頭に叩き込み、地図を仕舞って出発する。僕らが順調にすすめているのも、荷物が少ないのが大きいだろう。本当、インベントリ様々だ。



◇◇◇◇ ◇◇◇◇ 


 

「この先、ゴブリン2匹」


 曲がり角から顔を引っ込めて報告する。


「かなり距離があるよ。どうする?」

「いいんじゃねェ? やろうぜ」


 豊成はそう言って、インベントリから弓を取り出した。僕は耳を澄まして、周囲に接近者がいないのを確認する。ゴブリンまでは3,40mか? 丁度訓練場と同じくらいの距離だ。豊成はあそこではわざと下手くそに外していたが、【芋】の本気を見るいい機会だ。


「よし、気づかれてねェな。【迷彩】効いてんのかねえェ」


 曲がり角から半分だけ身体を出した豊成が、弓をつがえる。


「フッ!!」


 速すぎて矢は追えなかった。かわりに手前のゴブリンが仰向けに吹き飛び、僕らに命中を知らせた。


「もう……一丁!!」


 奥側のゴブリンも、哀れ顔面のど真ん中に矢を受ける。貫通してたみたいだし、即死だろう。多分、仲間が撃たれたのを理解する時間もなかったはずだ。


「どうだ?」

「おお……アレだ、FPSのオートエイムみてェなもんだな。身体に補正がかかるっつうか、正解を教えられてる感じだ。こら楽でいいねェ」

「銃は期待できないし、弓がいけるなら助かるね。よし、もう少し検証しよう」


 この直線は60mほどある。僕らは壁に的を掛け簡易的な射撃場を作って実験した。40mなら問題なく狙える。それより遠いと狙うのに時間がかかるようになるが、その時間さえ取れれば十分に射程距離だった。


「一定距離を超えると別モードに入る感じだなァ。狙撃システムでも適応されてんのか?」


 ちなみに、寝っ転がって打とうとしたけど普通に弓を引けなかった。豊成は諦めず寝かせ撃ちの練習を始めたが、使い所が無さすぎる。



 僕らは簡易射撃場を撤収し進んだ。

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