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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第一章
16/136

第16話 初陣 

 道の端に、古びた看板が刺さっていた。かすれた文字がかろうじて判読できる――「これより先『レネス・ガバ』」。


 ゴツゴツとした地面、湿った岩の匂い。光の届かない深淵が、新たな犠牲者を今か今かと待ち受けている。


 ダンジョンだ。


 ダンジョンだ、が……。


「なんというか……思ってたのとは違うね」

「そうだなァ。予想より整備されてるっつーか……」

「『官製ダンジョン』、といった趣だな」


 大学が見事に違和感を言葉にしてみせた。地面は人の足で削られすっかり道が出来ているし、壁には明かりの魔道具が設置されている。先を示す看板まで設置されいて、至れり尽くせりだ。


「ありゃ、思ったより怖がらないな」


 サルバンさはが意外そうに振り返ると、ライトの魔法をつけた。明るく照らし出されたダンジョンは、一層安全に見えた。


「もっと荒れているというか、汚いところを想像していました」

「ここは騎士団の訓練にも使われているからな、3層あたりまでは人の出入りも多いしこんな感じだぞ。4層以下はまた雰囲気が変わるんだが、そこはまあ、見てのお楽しみだ」


 少し進むと大きな空間に到着した。騎士団がキャンプを張っていて、テントや積み上げられた木箱が見えるし、何なら山小屋まである。他のパーティーも集まっているし、ここで再集合するみたいだ。


 7パーティー全てが集まるのを待って、指揮官が声を張り上げた。


「よし、全員集まったな。これよりダンジョンアタックを開始する。基本的には1層を回ってもらうが、余裕がありそうなら2層に降りても構わない。随伴の騎士の判断に任せる。3層は……一旦ここに戻って俺の許可を取ってくれ。4層より下に降りることは許さん。基本的にはダンジョンを自由に探索し、出会った魔物を倒してもらう。ノルマは1人1匹だ。もちろん、それ以上でも構わないぞ。このダンジョンは5層まで罠の存在が確認されていない。安心してもらっていい、と言いたいところだが、ダンジョンに絶対はない。突然道順が変わったり、階層が増えたりといった話が無いこともないからな。細心のの注意を払って、進んでほしい。まあ、このダンジョンは枯れているから大丈夫だとは思うが……。随員の騎士は全員治癒魔法が使えるし、ポーションも持たせてある。怪我や毒をもらったらすぐ回復してもらえ。1層の地図を全員に渡しておく。随行員は低層の地理を把握しているから大丈夫だろうが、はぐれたときに使ってくれ。目立つポイントや部屋には看板が置いてあるので照らし合わせるんだ。俺達本隊はこの広場にいる、何か合ったらなんとしてもここまで逃げてこい。以上だ、何かある者はいるか? よし、では各班出撃!!」


 長台詞を一気にまくし立てる隊長。全員が慌ただしく動き出すした。


「出発前に、作戦を決めるか。お前らはまだLv.1だろ? しばらくは俺がメインで戦ってもいい。低レベルのうちは1つ2つ上がるだけでも大違いだからな」


 サルバンさんが確認する。


「僕たちが手を出さなくてもレベルが上がるんですか?」

「基本は倒したやつだけだな、だが戦闘に参加した人間も成長する。パーティーを組むと経験値の分配が均等になるんだ。あ、もしかしてまだ聞いてないか?」


 サルバンがパーティーシステムを説明する。ざっくりいうと、経験値の共有機能だ。仲が深まればステータスの閲覧等他の機能も増えるらしい。うーん、ファンタジー。


「安全のために、最初はサルバンさんにレベルを上げてもらったほうがいいだろう。みんないいか?」

「あー、ごめん。僕と豊成は外してもらえるかな」


 僕は申し訳なさそうに切り出す。


「あ、別にみんなと組むのが嫌ってわけじゃないよ。経験値周りのシステムを検証したくてね」


 そういうことなら、と同意が取れたので4人でサルバンさんとパーティを組んでもらう。お互いの手を重ねリーダー役が念じると、他の人間に加入のメッセージが飛ぶらしい。

 面白そうなので僕も豊成と実験する。


「うおっ、キメェ! ……よし、これでどうだ?」

「いけたみたいだね」


 と言っても具体的な何かがあるわけではない、なんとなく豊成の存在を感じるくらいだ。この段階ではステータスはもちろん名前すら分からないな。


「お、キックはできた」

「追放? 僕の何が悪かったっていうんだ!?」


 お前とネット小説ごっこをやってる暇はないんだよ。


「全員準備はいいか? よし、じゃあ行くぞ」


 サルバンさんが号令をかける。


 広間からは4本の通路が奥に向かって伸びている。他のパーティーが思い思いの道を選んで入っていった。僕らも適当に左から3つ目の穴へと進んだ。


 


◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇




 ライトで照らされた穴の中を、僕たちは固まって進んだ。


 分岐を幾つか通り過ぎたところで、それに遭遇した。


 1mほどの体躯、ギラついた目、口からはボタボタとよだれを垂らし、棍棒を手にした小人型魔獣――ゴブリンだ。2体いる。


「よし、お前らはそこで見てろ」


 と僕らに命じたサルバンさんはスタスタとゴブリンに歩み寄ると、一刀のもとに片方を斬り伏せた。返す刀でもう一体。瞬きする間もない、圧勝だ。


「ま、こんなもんだな。ゴブリン程度なら今のお前たちでも問題ないだろう」


 サルヴァンさんは剣を仕舞いながら言う。これ、老師とおんなじパターンだな……。


 ゴブリンにも強い弱いはあるが、一階のものは小型が多いそうだ。アレなら100匹来ても楽勝だとか。確かに、あの戦いっぷりを見たら納得だ。


「おっと、止まれ。そこの部屋に何かいる……ゴブリンだな、1匹だけだ。はぐれか? あれならお前たちだけでやれるだろう、どうする?」


 大学が戦うことになった。


 ジリジリと接近する。が、大学に気付いたゴブリンが何も考えず特攻してくる。


「……フッ!!」


 長剣の横薙ぎが切っ先を引っ掛けるようにゴブリンの腹を裂く。それで終わった。


「……お疲れ」

「あ、ああ……」


 みんなに囲まれ労われている大学の手は震えていた。


「これが……」


 自分が命を刈り取ったゴブリンの死体を見下ろす。


「……思ってたより、くるな」

「……そうだな。見てるだけでもきつかったぜェ」

 

 僕らはまだマシだけど、女子2人は完全に怯えている。


「……戦闘自体は問題なかった。ゴブリン相手なら大丈夫だと思う。後はもう、慣れるしかない」


 大学は決意の表情でそい言うと、思い出したように剣を振るって血を払い、鞘へと納めた。


「どうする? 少し休むか?」

「……いえ、行きましょう」

「そうか。まあ水くらいは飲んどけ」

 

 僕もなんだかのどが渇いてしまった、支給された水筒を取り出し口を湿らせる。



 次に現れたゴブリンは2体。こいつら、どこにでもいるな。


「次は俺が行く」


 浜君が長剣を抜き、


「……もう一度いいか?」


 大学が聞いてくる。


「うん、満足の行くまでやってくるといいよ」


 順番待ちで時間ができると、いらないことを考えるかもしれない。慣れちゃうまでやってもらったほうがいいだろう。2人は並んで前に出た。


「俺が右を牽制する、隙をみて左を倒してくれ」

「任せろ」


 ゴブリンが獲物を見つけ、棍棒を振りかざして駆け出した。間合いに入ろうかというところで大学が飛び出し


「《スラッシュ》!!」


 とスキルを一閃。綺麗な袈裟斬りがガードした棍棒ごとゴブリンを真っ二つにした。牽制どころではない。


 浜君も。


「《バッシュ》!!」と長剣を振り下ろし、一撃で獲物を葬る。


 戦力的には過剰なようだ。問題は……


 真っ青になった浜君の背中を、野中さんが心配そうにさすっている。大学も水をあおった。うーん、やっぱりこの訓練、早かったのでは? 2人が立ち直るまで、結果的に小休止となった。


「どうする? 僕と豊成だけで行ってきてもきてもいいけど」

「そォだな。キツそうだしお前らは休んでてくれや」


 相手を間違わなければ、危険は少ないだろう。


「いや、大丈夫だ。俺も行こう」


 大学はそう行って立ち上がった。


「そうだ、勝手に決めるなっての。チームだろ、俺も行くぞ」

「私達も大丈夫だから……ね?」

「うん」

「みんな……」


 なんか最終回みたいな雰囲気になってるけど、まだ初戦だ。



「はっはっは、いい話じゃないか。じゃあお前らの友情に敬意を表してこのまま進もうか」


 と傍観していたサルバンさんが先導を再開した。


「まあ、無理したやつから死んでいくからな。それだけ覚えとけ」



◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◇



 せめてゴブリンの死体に近づくのは止めよう、ということで一つ前の分岐まで戻って別ルートを進んだ。


「いたぞ。ゴブリン1匹」

「穂積」


 最初はグー……よし!


「体育座りで見学してろ」

「チッ! サッサと終わらせろよ」


 危なくなるまでは手出し無用で、と言い残しゴブリンの前に進み出る。


 今日の獲物は少し大きめの盾にショートソード。防御に寄せたいのちだいじにコーデだ……よし、行くぞ!


 戦いの雰囲気に飲まれてはいけない。相手は所詮ゴブリン、1mあるかないかだ。僕より頭1つ小さい住吉さんの、さらに2つ分小さいんだ。こちとら栄養過多の現代っ子、体格的は圧倒しているし、ステータス的にも問題ないはず。だから


「ギェッ!!」


 ゴブリンの棍棒くらい、盾で余裕だ!!


「ギェ! ギエッ! ギエーッ!!」


 ゴブリンが狂ったように獲物を振るう。僕はそのことごとくを盾で受け止めた。

 

 反撃は考えない。まずは防御に専念し、殺意をもって振るわれる暴力に慣れるのが先決だ。

ガン、ガン、ガンと木製の棍棒が鉄の盾を叩く音が響く。さすが国が勇者様用に用意した盾だ、これくらいじゃびくともしない。


 10発は防いだだろうか、ゴブリンはすっかり息が上がっているようで、あからさまに振り下ろされる勢いにもキレがなくなってきた。そろそろ頃合いだろう、僕は相手の攻撃を正面で受け止めると、そのまま盾を構えて突進した。


「うぉおおお!」


 これまで亀のように固まっていた獲物の急な反撃にゴブリンは虚を突かれてくれたようで、僕のシールドバッシュ(残念ながらスキルではない)をまともに受け吹っ飛んだ。


「フッ!!」


 倒れたゴブリンに素早く駆け寄ると、まず右手を斬りつける。ゴブリンの悲鳴とともに右手

から棍棒が離れるのを確認すると、次は両足を切りつけ、最後に心臓へと刃を突き込んだ。剣の先でゴブリンがもがくのがわかる、これ、絶対今夜は夢に見るぞ……。


 地面に縫い留められたゴブリンの抵抗が完全に消えたのを確認し、僕は剣を引きぬいた。念のため首にもひと突きき、剣を払って血を落とす。


 完勝だな、荒れた呼吸を沈めながら武器をしまってみんなのところに戻る……なんだか雰囲気が微妙だ。俺、なんかやっちまいました?


「時間が掛かってすみませんでした」

「なんというか……すごい戦い方をするな」


 サルバンさんも少し引いていた。


「怪我を避けることを一番に考えたらああなりまして」

「なるほどな。力勝負で勝てる相手にしか通用しないだろうが、今はあれで十分だ」


 突いたらすぐ抜いたほうがいいぞ、との注意ももらう。なるほど、確かに。


「穂積サン、さすがっす! みんなドン引きっス!!」

「やかましい。きちんとした考えがあってのことだ」


 攻撃も防御も同時にこなすのは大変だ。最初は防御だけ、慣れたら攻撃の訓練に移る。ペダルのことは忘れ、サドルにまたがりバランスをとることだけ考える、自転車の理論だ。


「俺ァまた力に酔って相手をいたぶる趣味にでも目覚めたのかと思ったぜ」

「……」


 ……確かに、第三者視点からすればそう見えなくも、ない。


「いやいや、こっちも必死だったんだよ。初戦闘だ、普通に怖かったに決まってる」


 僕だって辛かった。こちとら争いを好まない貧弱な現代っ子だ、命をかけた切った張ったなんて寿命が縮むに決まってる。

 直前に住吉さんと比べたのもよくなかった、あれで一気に小型動物の虐待感が出てきてしまった。しかも人形だよ? いやー【ストレス耐性】持ちじゃなかったら今頃吐いてててもおかしくなかったね!



 30秒後、そこには穴ぐらのすみで胃液を絞り出す僕の姿があった。


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