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召喚されたら草だった  作者: 徳島
第一章
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第10話 戦闘訓練 

 食堂やお風呂のフロアから階段を下った先に、訓練場はあった。天井が上階の倍は高く、広さも学校のグランドくらいはある。そのサイズ感に度肝を抜かれたが、戦闘訓練をわざわざ屋内でやるあたり、地下説が一段と説得力を増した。


 戦闘訓練の教官として現れたのは、えらくフランクな騎士だった。



 生徒の自主性を重んじるタイプの体育教師といった感じで、変に勇者様勇者様と持ち上げられるよりはやりやすい。かと言って指導が手抜きというわけではなく、僕たちは胸当ての付け方から剣の握り方、足の開く幅まで丁寧に教えてもらった。


 非戦闘系のグループはチェックを受けながら素振りや基本的な型の練習を繰り返す。人生においてはもっと危険な凶器(草刈り機、丸ノコ等)を持ったことはあるけど、ただ戦うための武器を手にしたのはこれが初めてかもしれない。刃の潰された木剣といえど、これだけの重さと硬さがあれば十分な凶器だ。これをスライムとかゴブリンとか、人間相手に振り下ろすのか……。


 戦闘系の人たちは実際に剣を打ち合ったり、攻撃スキルの講習を受けたりしているし


「喰らえ、《蒼雷(ブルーブリッツ)》!!」


 早速必殺技の名前を考えてるやつらも出てきた。

 

 【モンク】建石君の拳から、蒼色の波動が飛び出す。建石君はお笑いユニット「3バカ『た』」の切り込み隊長を務めるナイスガイで、少林寺拳法の経験者だから突きを放つ出す姿も様になっている。かっこいい名前付けてもただの基礎スキルなんだけど、ぐっ、正直うらやましい……。

 

「迸る赤、《灼紅の至閃(レッド・エース)》!!」


 ちょっと気取り過ぎですね、60点。


「我が槍を見よ、《鋭絶(フレア・ガルフ)》!!」


 浦俊英(自分の名前)じゃねえか。


「いくぜェ、奥絶《天陽大君(キング・オブ・サン)》!!!!」


 お前は攻撃スキル無いだろ。



 最後の締めとして行われた乱取りは、やはり戦闘系クラスの独壇場だった。


 まず基礎ステータスが違う。我ら農奴のステータスは10前後だが、武士階級の皆様方はSTRの初期値が平気で20を越えてたりする。さらに剣術スキルだの槍術スキルだのを持ち、おまけに《バッシュ》やら《ピアシング》やら攻撃スキルまで使ってくるのだ。勝てる要素がない。


 ちなみに撃吸収能力も防刃性能も一級品だと判明した白タイツさんが僕たちの身体を大いに守ってくれたおかげで、怪我人は出なかった。もう足を向けて寝られない、ただ差し込むのみである。上半身用のタイツも用意されていたので着用したが、危なかった、あれでフードが付いてたら完全に不審者だった。


 そして、僕らをさんざん転がしたその戦闘組ですら、教官には赤子の手をひねるようにあしらわれていた。生徒たちの技を一通り受けてから、優しく剣先と敗北を突きつける接待プレイ。すごいな、教官の体格はそんなに大きくないのに力勝負でもはっきりと差がある。

 僕たち全員の相手をした教官は、息一つ上げなかった。多少なりとも相手になっていたのは、大学と若松さんの剣道部チームと建石君だけだった。


 散々地面と仲良くなって、その日の訓練は終わった。



「どうだ、お前たち」


 地面にへたり込む生徒たちの間を、教官がアフターフォローに巡回する。


「はい、やっぱり近接戦闘では彼らと力の差が歴然ですね」

「まだ初日だ、そんなに早く決めつけることはないさ。剣が駄目なら槍でも弓でもいいし、長さや重さだって千差万別だ。いろいろ試して良さそうなものを見つけることだな」

「そうですね……前に出なくたってできることはあるかもしれません。ありがとうございます」

「そうそう、その意気だ。なんだかんだ言ってもお前たちは……おっとこれは言っちゃいけないんだったな」


 僕らが勇者であることは、非公開情報とされた。魔族からの襲撃を防ぐためという説明だった。いよいよもって怪しいが、納得できる理由ではある。


「本当に僕らは強くなれるんでしょうか?」


 僕の問いに、教官はあごをかきながら答える。


「武器スキルが無くても、訓練によって獲得することができる。最初から持ってる奴らに対抗するのは大変だが、それを乗り越えた例も多いんだ。今日は一般的な武器を使ってもらったが、どうしても合う合わないはある。あそこの武器庫はお前達なら持ち出し自由だからな、後で見てみるといい。何に使うのか見当もつかないものがあったりして、見てるだけでも面白いぞ」


 これはいいことを聞いた。


「武器庫ですか? すごいですね、地下なのにこんな広い訓練場に加えそんなものまで」

「ここの設備は土魔法が得意だった昔の勇者様が一生かけて築いた自慢の地下施設だからな。それに……これもダメだったか? まあそのうち分かるぜ」


 僕らは意味深に笑う教官に礼を言うと、連れ立って武器庫に向かった。



「うーん、短剣、剣、槍、弓、盾……お、ランスもあるのか」

「騎乗の訓練もやるのかねェ」


 武器庫には多種多様な武器が並べられており、中を見て回るだけで大満足だった。基本的なロングソード類はもちろん、バスタードソードやククリナイフっぽい短剣から鉤爪、ブーメラン、果ては使い道のよくわからないオブジェまでよりどりみどりだ。小学生が大好きな観光名所のお土産キーホルダー風ドラゴン装飾過剰ソードもあった。誰が使うんだこれ……。


「これだけあると目移りしちゃうね」

「まあ俺たちゃスキル無しだからな、火力は諦めて牽制や後衛の防御に回るしか無ェか」


 大鎌とかロマンがあるけど、さすがに手が出ないな。


 長考の結果、僕はスタンダードな片手剣と手持ちの盾を、豊成は片手剣と大きな盾を選んだ。中衛なら槍かな、とも思ったけどまずは盾になれることを優先した結果だ。みんなも思い思いの武器をたがつすがめつしている。【鍛冶士】の森山君も気になる武器を手にとっては、屋敷君から説明を受けていた。


 また、サブウエポンとして僕は短剣を、豊成は弓を選択した。

 レベルの上昇等で武器スキルが発生すれば、俺達の正体が疑われるもしれない。その時、短剣や弓を使っていればこれは職業の影響でなく訓練の賜物だ、と言い張ることができるだろう。僕は盾をメインにしつつ、武器はとっかえひっかえして武器スキルのレベルアップを抑制するつもりだ。豊成は近接武器なら大丈夫だろう、銃スキルが生えてきたら言い訳もできないが……。


「お、おいっ! おいっ!!!!」


 僕らの背中にその悲鳴にも似た声が届いたのは、そろそろ飯時だし切り上げて帰ろうかと出口へ向かっていたタイミングだった。


 急ぎ足で向かった僕たちを待っていたのは、持ち出し禁止と書かれて高所に展示されていた「黄金」だった。


「ま、まさか……」

「こんな……」



 金色に輝く、全身タイツだった。



 フードも付いていた。



 僕たちは震える足で衣装を見上げた。その一着は、男たちにとって一国の王座にも等しかった。


 森山君に【武具鑑定】をお願いしたところ、白タイツより数段上のランクと判定された。僕らの間に再び衝撃が走った。アレを上回るとか、い、一体どんな着心地なんだ……これ以上のフィット感とか、もう毛穴パックじゃないか……。



 その後、更衣室で名残惜しくも白タイツに別れを告げると、どこか打ちひしがれた気持ちを抱えたまま僕たちは連れ風呂へと向かった。


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