恋するストーカー気質な乙女たち。
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昔から顔の整った女性に好意を持たれる、よって自分の好きなタイプには好かれる事はない。
可愛い系から美人系からかっこいい系まで、色んな女性に好かれる生活を送る事、早17年。
私、実川水速自身の容姿は、美人系に該当するだろう、髪は長く背は170cmと女子にしては高い方。
可愛い系に好かれるのはまあ分かる。
けど自分と同系統の美人系と、髪をショートにすればもしかしたら同系統になるかもしれないかっこいい系、などから好かれるのは未だに謎だなと思う。
もちろんそこに好みのタイプというものが絡む以上、違う系統を好きになる人もいれば、同じ系統を好きになる人もいるという事は分かっている、理解しているけど自分は違う系統の子を好きになりがちなので、美人とかっこいい人にはあまり心が動かない。
なので美人さんに迫られている、今のこの状況には全く心が微動だにしないのだ。
「せーんぱあーいっ、なんで勝手に捨てちゃうの?それあたしにくれるって言ってたじゃあないですか!」
放課後の誰もいない教室で、自分よりは背が低い後輩に下から媚びた睨みつけを受けながら、手に持ったそれ、ストローの刺さった紙パックを奪われそうなったので、上に持ち上げて取られないようにしてからにっこり。と愛想笑う。
「いやそんなの言った覚えないんだけど?いつどこでどんな状況で、私は君にこれをあげるって言ったのかな?」
この子がこの学校に入学してからの3ヶ月間経つけど、まじでそんな餌を与えるような発言をした事はない。
どうなの?と圧を出して聞いてみると、むううーっ!頬を膨らませて拗ねた表情を作ってから反論する後輩。
「言いましたぁ!あたしの作った水速先輩型高性能AIアンドロイドちゃんが言ったから先輩が言ったのも同然なんですぅ!」
「なにそれ怖っ、あとなにその無駄なところに発揮されている才能は、頭良いのか悪いのか分からないよ。てかそんなの作ってる暇があるなら台本読み込んだりすれば?今度ドラマの仕事あるんでしょ?」
だからストローは諦めてはよお家に帰りなさいとあしらおうとしたら、目を見開いてバッ。と口元に手をあてている。
なにその反応?
「えっうそっ!先輩あたしがドラマ決まった事知ってるの⁉とうとう先輩あたしに興味がっ…!」
あ、なんかあたし感動しましたっ!みたいな雰囲気出し始めちゃっているところ申し訳ないけど、これしきの情報で君に興味を持ち始めていると勘違いされたら溜まったものではない。
「いやあれだけ大々的にテレビで宣伝してれば嫌でも目につくわ」
ドラマ云々の話で察する通り、この子は女優さんです。
風之内舞華今をときめく頭脳派女優、とテレビで流れていた。
正直学校でのこの子を見ていると頭脳派?ってなるけど、さっきのアンドロイド発明した発言があったので、そういう方向性の頭脳派かとついさっき判明した後輩が私の発言に対しえーっ?と不満気な声を出しがっくり。と肩を落とし、先輩のあほっ!女の喜ぶ事も言えないなんてもう知りませんっ!とぷりぷり。と怒ってますよアピールをしてから教室を出て行った。
「さて、なんで追いかけて来てくれないの!と戻ってこられる前にさっさと帰ろ」
紙パックをゴミ箱に捨てるのは諦めて、とっとと帰宅し、明日に備えてさっさと寝た。
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深夜3時、高校生だとバレないように露出度の高い大人っぽい格好を、そして女優風之内舞華だとバレないように帽子を深くかぶりサングラスをして変装をする。
静かな廊下を歩き、玄関で待機しているあたしの今世紀最大の自信作ちゃんに先輩の頬感を再現した頬にチュッ。とキスを落としお留守番のお願いをする。
「水速先輩型高性能AIアンドロイドちゃん、今日も先輩のところに行ってくるから良い子でお留守番しててねぇ」
「ウンイイコデマッテルヨ、ワタシノマイカ」
「違うわあなたじゃなくてあたしは本体の先輩の舞華なのよ」
「ソンナカナシイコトイワナイデ、コンナニモマイカガスキナノヨ」
「ふふっ当然でしょお、本体も作り物も舞華の事が好きなのは当たり前なのよ、っていつまでもお喋りしていられないわ。じゃあ本当に行ってくるわね」
「イッテラッシャイマイカ」
家を出て寒空の下歩く事30分で目的地に辿り着いた。
「ああーん先輩の家に行くのほんっとおに久しぶりすぎて舞華ちょうカンドー!」
母、父、先輩の3人家族が暮らす少し年季の入った一軒家の前に着いて早々涙が出そうになった。
先輩が認識してくれたドラマの他にも実は二本決まっている。
その為学校に行ける日も限られてるし、朝昼晩色々と忙しなかったし疲れたけれど、先輩の家にこうしてこれた今滅茶苦茶癒やされるている。
やだっ、先輩の家ってセラピー効果があるのかしらっ、まあ先輩が居なかったら癒やしもクソもないんだけどねえ。
「って舞華ったら泣いている場合じゃなかったあ、早くいつもの地点まで行かないとおっ」
ひょひょいっと、先輩の部屋がある二階のベランダまで軽く飛び越えて、前に先輩の鞄にこっそり忍ばせた、蟻型の超小型先輩部屋の鍵開けてくれるくんをスマホの操作で呼び起こして鍵を開けてもらう。
今日もありがとうねぇ蟻太郎。と心の中でお礼を言いながら先輩の部屋にお邪魔をする。
(ああっー!先輩の部屋久しぶりに来たけどぜんっぜんかわってなあい)
すやすやとベッドで眠る先輩を起こさないように、ゆっくりと静かに空気を吸い込む。
(はああーっ、先輩の空気、長年染み付いた先輩の匂い、たまらなあいっ!好きっ!)
久しぶりの空気を存分に味わいつくした後、お目当ての本体のところまで忍び足で近寄り寝息を立てた先輩の寝顔を覗き込む。
(いやあーんっ!先輩の寝顔まじやばっ!絶世の美女やんけっ!)
はわわっ、と先輩の光り輝く寝顔をたっぷり堪能する事30分弱。
時間も4時とそろそろ先輩のご両親が起きてくる時間なので、名残惜しい気持ちを残し、最後にゴミ箱の中にある先輩がくれなかったストローを取り外し、上に他のゴミを被せてから先輩の部屋をあとにする。
前に鞄に忍ばせたミミズ型の超小型鍵閉めてくれるくんを操作して鍵の閉まる音を確認する。
「またあとでね、せ ん ぱ い」
チュッ。と投げキッスをしてから軽々と地面まで着地をする。
*
「いってきまーす」
家の敷地から出てきたあの子の後ろ姿を、歩きスマホのフリをしてこっそり眺める。
二つ結びにした長い髪、くりくりとした目の周りにある黒縁眼鏡、膝下スカートから黒いソックスの間から見える白い足。
そんな真面目地味子の典型的な容姿をしたうちのクラスで委員長をしている女の子、私にとっては極上に可愛い女の子峰長春。
(ああーっ今日も可愛い、好きっ)
今日も好き好き光線をひっそり送りながら、いつも通り一定の距離を保って登校をする。
2年生になって同じクラスになったその日に存在を始めて認識した瞬間、私は峰長さんに一目惚れをした。
理由は好みのタイプだったから。
しかも自分の理想に一番近いタイプだ、惚れないわけがない、なんなら峰長さんが理想的すぎてもうこれが最後の恋かもしれないと本気で思っていることから、正直今まで好きになったどんな子よりも、本気度がかなり高い、プチストーキングするくらいには本気。
だけど悲しい事に私は知っている、顔の整った人相手にしか恋されない私は峰長さんに好かれる事はまずない、むしろ苦手と認識されるタイプであるであろう、告白なんてしようものなら玉砕する結末しか考えられない。
最後の恋で玉砕は絶対に嫌だ断固阻止する。
そんなこんな考えている内に駅についた、峰長さんはいつも一番前の車両に乗る、私は少し離れた3両目に乗る。
本当は一緒の車両に乗りたいけれど、ストーキングも程々にというしここは我慢をするというか、学校のある地域の駅についたら友達と合流するので、ここで離れておかないと友達そっちのけでストーキングしそうになるから、我慢せざるを得ないのである。
ガタンゴトン。と揺れる事15分。
峰長さんの車両の方を見ないようにして電車を降りて、改札を出て友人の姿を見つけ「おはよう」と声をかける。
「おはよう水速、今日も美人ね」
「ありがとうそんな皐月は今日も美少女だね」
彼女は隣のクラスの友人赤坂皐月、ロングウェーブの髪型がよく似合う小柄な美少女だ。
そんな美少女は毎日今日も美人だね。という朝の挨拶をしてくるので、いつもと同じ返しをしてさあ歩こうと思った時、皐月の溜息が下から聞こえた。
「今日も美少女だね、か。はあ、美少女やめたい」
あれ?なんかいつもと違うな?
「ん?やめたいの?じゃあ放課後整形しに行く?」
らしくない皐月を見て、軽い冗談のつもりでそんな提案をしたけど、
「そうね、整形、いいかもしれないわね」
あ、これガチの溜息だったわ。
「うんごめん冗談だから本気で捉えないで皐月。とりあえず歩きながら話そう?」
「ええそうね歩きましょう」
そして歩きながらなんとなく皐月が口を開くまで待っている事3分。
ぽつり。と話し始めた皐月。
「最近私ね、誰かにストーカー行為をされているような気がするの」
と言われ一瞬ドキリ。としてしまった。
何分自分が峰長さんにストーキングしているからね、思わずビビってしまったけれど、友人がストーカーされているかもしれないと聞いて心配の方が勝ったのですぐに話を聞く姿勢に戻した。
「そうかストーカーか、気付くって事はなにか変な事でもあったのかな?」
「変な事、そうね毎日下駄箱に得体のしれないドブ色のお菓子と、いつの間に撮られていたのか分からない写真が入っている事が変な事に当てはまるのなら、それが変な事なのかもしれないわね」
「うん、十分変な事だしストーカーだね」
というかドブ色のお菓子ってなに?それ本当にお菓子なの?
てか最近毎日って言ってたよね?なんで今の今まで相談しなかったのこの子。
もっと早い段階というか、一回目の時点で相談してほしかったな。
疎いというか鈍いというか、危機管理能力が希薄な友人の頭を撫で更に詳しく聞いていくのであった。
*
(ずるいっ!赤坂さんの頭を撫でるなんてっ、私だって赤坂さんを撫でくりまわしたいのにっ!)
涙目になりながら、キッ。と実川さんの事を睨みつける。
私、峰長春は赤坂皐月さんの事を愛している。
148cmと小さい体にそぐわないたわわなデカイ乳、大きくてキラキラとしたパッチリお目々にバッサバッサ生えている長い睫毛、美しすぎるロリ巨乳美少女の赤坂さんの事を私は世界で一番愛している。
分かっているの。
私みたいな地味な女、赤坂さんの隣にいつもいる実川さんみたいな高身長でモデル級のスタイルを持った美人さんの方が赤坂さんにお似合いだって分かっているの、でもそれでもやっぱり愛しているのっ赤坂さんっ!
私が何故こんなにも好きを通り越して赤坂さんを愛しているのかというと、見た目が滅茶苦茶ドタイプだからである。
私は昔から女の人のおっぱいが好き。
しかも大きいおっぱいが大大大好きである。
高校入学して初めて赤坂さんおっぱいを見た時は、テンションが上がりすぎて死ぬかと思いました。
もちろんおっぱいだけではない、低身長なところも好き、美少女顔も大好き。
でも一番は、成績が下から数えた方が早いところ!
ロリ巨乳美少女も好きだけど、私は頭の悪い人間も愛している。
毎日毎日、私の部屋のゴミ箱から取り出したゴミをふんだんに入れたゴミ入りお菓子を入れても、色んなアングルから無断で撮った写真を入れても、特になにも気にする事なくいつも通りの日常を続けているの赤坂さんってば。
流石に下駄箱から出した後すぐ近くのゴミ箱に捨ててはいたけれども、でもそれにしたって動じなさすぎるの赤坂さんはっ!
悲鳴もあげず、怯えず、気持ち悪がらず、怒りさえもしない。
下駄箱で一晩寝かしたゴミ菓子が入っていてかなり臭い筈なのに真顔で「んー、なんなのかしらこれ?嫌がらせ?」と呟くだけで誰にも相談せずに、淡々と毎日を過ごしているの赤坂さんはっ!
嫌がらせかもって思っているのにも関わらず何もしない、感じない赤坂さんは最高に鈍くて最高に頭が悪くて、だから私も毎日毎日赤坂さんが帰った後に、飽きもせずに同じ物を入れているの。
そんなやきもきとした日々を過ごしていたけれど、今日は違うの。
赤坂さんが私という名のストーカーの存在に気づき始めたみたいなの!
あの鈍くて鈍くてどうしようもない赤坂さんが実川さんに相談したの!
すごいよ赤坂さんっ、進歩一歩進歩だよ赤坂さん!
そのままの勢いで鈍坂さんを卒業するの赤坂さん!
「そしていつか、私に気がついてね?」
うっとり。とした視線を送りながらルンルン気分で学校までの残りの距離を赤坂さんの後ろで歩く。
ーーープツンッ。
はああーっ、大きなため息をついてパソコンに流れている映像を切る。
「んー、私の作ったAIプログラム、なんで皆ストーカーになっちゃうんだろう」
私の名前は遠野美琴。
趣味で作ったAIプログラムを使って、NPCが意思を持って自由に動く世界観のゲームもどきを作成した。
もどきなのは、全然こちら側からは操作できず、ただただNPC達の動向を眺めているだけしか出来ないのでもどきなのだ。
「あーあ、やっぱり私が作ったから私と似たような感じの感性になっちゃうのかなぁ…、いっそ誰かに協力をあおごうか…そうだ!だったらあの子に手伝ってもらって新しいプログラムを作っちゃおうかな!」
そうと決まればさっそく!と自室を出てあの子部屋に向かい着いてすぐに扉を開ける。
「ねえねえお願いがあるんだけど、今から新しいプログラムの作成に協力してくれない?だいじょーぶ!分からないところは教えてあげるから!」
「」
ジャラッ。と彼女に繋いだ鎖の音を返事と捉え、彼女の前にパソコンを置いて指示を出す。
私の話すことを怯えた目で聞いて、おそるおそると震える指でキーを押す彼女を愛しい目で見る。
ああ、彼女の手を加えたプログラムをあの世界に取り入れたら、どんな感じになるのか今からとても楽しみだ。
end