第九話 謎のスキルと超高度技術
第九話 謎のスキルと超高度技術
その後、『青紫の水晶』と食事を終えた僕は帰り道に報酬の半分を使って剣を二本買い、宿に戻った。
元々出ていく予定だったので、キレイにした部屋に、僕は改めて鞄の中身を床に広げた。
ゴーレムのコアと石材、【強化自然回復】が付いた木の棒、先ほど買った二本の鉄の剣、冒険者の登録カードなどを床に並べる。
最後にガネットを手に取り、手ごろな椅子に立てかけておいた。
「ようヤく、しゃべれル」
「ははは、だいぶ待たせちゃってごめん」
「しかたなシだ。今日はもう休ムのカ?」
さて、どうしようか。
遺跡の調査、ガネットの出会い、ゴーレムとの闘い、そして冒険者登録と、体はだいぶ疲れているはずなのに、興奮しているのかすぐに眠れそうにもない。
「ちょっと疲れているけど、合成魔術やってみようか」
「オい、いいナ! ヤろウ」
それならばと僕は荷物の一つであるゴーレムのコアを手に取った。
僕の攻撃で傷つき、中央にヒビが入った赤い水晶は、大きさは拳四つほどの大きさがある。
合成魔術にどれだけの素材が必要なのかまだ分からないが、ヤモンに店を紹介してもらう約束もあるので、僕はゴーレムのコアの傷ついた部分に剣を差し込んでコアを半分にした。
「ゴーレムのコアを使っテ合成を行うのカ?」
「うん、せっかくの珍しい素材だからね」
「それモそうダナ」
半分になったコアの大きさは初めて合成を行った石ころぐらいはあるので、おそらく量的には問題はないだろう。
僕は左手に先ほど買った剣を、右手に半分にしたゴーレムのコアを持ち、合成魔術を開始した。
分解、抽出、再構成―――。
合成魔術の工程を進めていくと、今回の僕の右手には白ではなく、青い水晶が構築されていた。
「色が違う?」
「青イ水晶だト!? ラルドお前何をしたんダ?」
「どういうことなの?」
「分からないから言ってイる!」
ガネットでもわからないのか、イメージを送ってみると白い水晶と同じように加工ができそうなので物は試しにと、僕は合成の工程を進めていくことにした。
加工、結合――――。
「……とりあえず合成自体は完了っと」
「どうなっタんだ?」
「今、確かめてみる」
僕は目に魔力を込めてゴーレムのコアを合成した剣を確認してみた。
――――――――――――――――
鉄の剣
モンスタースキル
【ゴーレム】【重量強化】【怪力】
――――――――――――――――
「モンスタースキル? ガネット何か知っている?」
「いや、聞いたことがナい、ようナ、あるようナ?」
「そっかー」
「今試してみるカ?」
ガネットの言葉に僕は、トドメを刺したときバラバラになったゴーレムの姿を思い出した。
(バラバラになった原因がこのモンスタースキルの効果が途切れた結果だとしたら?)
そう考えを巡らし、最悪の事態を想像する。
もしここでそのスキルを発動してしまったら、この宿屋にゴーレムが爆誕してしまうかもしれない。
ないとは言えないので、僕は首を横に振った。
「いや、それは明日にしよう。スキルの具体的な効果もわからないし、念のため、人気がない広いところを確保したほうがいいかも」
「それもそうか。アァ、でも未知のスキルかァ、気になるナ!」
「あははは、確かに」
それともう一つ、スキルについて試してみたいことが僕にはあった。
スキルには【岩石断ち】のように剣単体に効果があるものと、【強化自然治癒】のように体全体に効果があるものがある。
体全体に効果があるスキルがあるのだから、剣単体系のスキルも、もしかすると発動範囲を変更することができるかもしれない。
僕は空いた右手で、もう一本の普通の剣を握ってみた。
「ついでだし、ちょっと試してみよう」
【岩石断ち】の要領で僕は左手の剣に【重量増加】スキルの起動を指示する。
剣の回路が反応し、スキルを発動させようと稼働を開始する。
僕はその流れを感じ、体を伝わせ、右手の剣に効果を送る。
「ラルド! 何やってル! ヤメロ!」
「できた!」
右手の剣からずっしりとした重みを感じ、僕は左手のスキルが、右手で発動したことを確認した。
「それはマルチスキルという、超高度技術ダ! ラルド無事カ!」
「そんな大げさな……あれ――?」
ガネットがどうしてそんなに慌てているのか、首をかしげるとプチリと右腕から変な音が聞こえた。
「ガッ!? 痛ッ……!」
右腕に鋭い痛みが走る。
僕は反射的に剣を落とし、左手で右腕を抑える。
見るとべったりと血がついていた。
シャツの袖をめくってみると、縦に裂けるように右腕に大きな傷ができていた。
「さっきノ棒ダ!」
「う、うん」
僕は慌てて、広げた荷物の中から【強化自然治癒】の効果がある棒を手に取り、すぐさま【強化自然治癒】を発動する。
効果は的面で、若干の痒みと共に、魔法のように徐々に傷口がふさがっていった。
それを見て、僕は一息ついた。
なんだったんだ今の?
「その技術はマルチスキルと言って、体内にスキル回路を構成し、他の場所でスキルを発動させる高度な技術ダ」
「そうか既存の技術だったのか。知っているなら教えてよ」
「オ前が突然使うからだ」
そうだっただろうか?
いや、そうだったかもしれない。
「それは……ごめん」
僕はガネットに誤りを謝罪した。
「ラルド、この技術はまだ使うナ」
「どうしてさ」
「へたくそが使うと体が爆発すル」
「うそっ!?」
僕は冷や汗を流した。
知らず知らずとはいえ、好奇心に殺されるところだったわけだ。
次からはちゃんとガネットと相談することにしようと、僕は心に誓った。
傷口を見ればスキルの効果でほぼ血は止まり皮膚も繋がりつつあった。
これならばもうスキルを使う必要もないだろう。
そう安心するとドッと疲れが噴き出してきた僕はベッドで休むことにした。
明日から、この町で依頼をこなし、次の町へ向かうための支度金を稼がなければ。
目指す目的に思いをはせ、僕はゆっくりと眠ることにした。