第七話 再会しました
第七話 再会しました
さて、どう返事をしたものか。
僕の目の前に立つジェードに対し、まず初めに考えたことはそれだった。
確か、彼は僕と同じ時期にパーティ『金緑石の集い』に加入したが、戦闘訓練など師事するも人が違い、あまり交流する機会はなかった。
伝説の剣に選ばれたのは彼で、僕は選ばれなかった。
その結果がどうあっても覆らないのは理解している。
正直なところ『金緑石の集い』に在籍すらしていない僕にどうして威圧的な態度で接してくるのか理由がわからないというのが本音だった。
「やあ、ジェード。伝説の剣の儀以来だね」
とりあえず、無難に挨拶をしておくことにした。
だが、それがジェードの何か気に障ってしまったのだろうか。
彼は顔を怒りで真っ赤にして、僕をにらみつけてきた。
「――――っ! すかしやがって! これから俺はストーンゴーレムをぶっ潰してくるんだ! どけ!」
そういうとジェードは僕を押しのけ、ギルド支部の外へと出て行ってしまった。
「あ……ちょっと」
それはもしかして僕が倒したゴーレムなのでは?
そう思い支部を出たジェードを止めようと追いかけたが、彼の足取りは早く、僕がギルド支部から顔を出したときにはすでに人ごみにまぎれどこにいるのか判別ができない状態だった。
「……ラルド、ごめんなさい」
澄んだ声が僕の背後にかかった。
その声に聞き覚えのある僕は条件反射で背筋を伸ばした。
そこに立っていたのは透き通るような長い銀髪の女性だった。
スッと整った顔立ち、無駄の一切ない体躯、一部の隙もない宝石のような青い瞳。
彼女の名はリスタル。『金緑石の集い』の中でも水晶姫と呼ばれその絶大な戦闘力でパーティを支える上位メンバーの一人だ。
ちなみにあの人こと、僕の戦闘の先生でもあった人だ。
僕の脳裏に命の綱渡りだった日々がリフレインされ、歯ががちがちと震えそうになる。
「り、リスタル……さ、ん」
「……もう、パーティ外れたんだし、上下関係もないのだから、その、リスタルでいい」
そういう彼女を見ると長い銀髪を手でいじりなら、じっとこっちを見つめてくる。
なるほど、冒険者というものは上下関係が少なく横の関係が広いようだ。
そうとわかれば、これから冒険者になる僕も先輩冒険者の言には従っておくことにしよう。
僕は一度、恐怖を逃すようにゆっくり呼吸をした。
「そうなんだ。なら、リスタル、質問なんだけど、これからジェードと二人でストーンゴーレムを倒しにしくの?」
「……」
なぜか大きな瞳をぱちくりとさせてリスタルは固まっていた。
ほんのりと頬も赤みが増している気がする。どうしたのだろう体調でもわるいのだろうか。
「リスタル?」
「え、ええ。そうよ。なんでも近場の遺跡にストーンゴーレムが現れたって、町の見張りからの連絡が有ったみたいで」
「そのことなんだけど、リスタル。実は―――」
僕はリスタルに遺跡であったことを話した。
もちろん、ガネットや合成魔術のことは伏せ、遺跡で見つけた伝説の剣を使ってストーンゴーレムを撃退したと、少し話を変えたが。
「さすが、ラルド。それでやけに大切そうに鞄を背負っていたわけね」
「リスタル、あっさり信じすぎじゃ」
「……あなたがどれだけの修練をこなし、どれだけの腕前なのかは私が一番よく知っているわ。スキルがあったのならストーンゴーレム程度、勝てて当然」
「ははは……」
それは買いかぶりすぎではないだろうか。
戦闘の間だって、彼女の言葉が何度支えになったか。
僕一人ではまだまだだ。
そうだ彼女にお礼を言っておかないと。
「でも、ありがとう。リスタルが鍛えてくれたから僕は何とか生き延びれたよ」
「そ、そう……」
再びリスタルは目をぱちくりさせ、頬を赤らめ固まってしまった。
お礼のいうタイミングを間違え、驚かせてしまったのだろうか。
なんてフォローすればいいのか、僕はぐるぐる思考し、お互いに見合ったまま、しばらく沈黙が続いた。
「……そ、それじゃ。私そろそろいかないと」
パンと手をたたいて思い出したようにリスタルは飛び出していった。
あっけにとられた僕はぽつんとギルド支部に取り残された。
一体、あのオンオフはなんだったんだろうか?
僕が疑問符を浮かべている隙をついて、これまで聞きに徹していたメジストが僕の肩をがしりとつかんできた。
「ラルド、お前『金緑石の集い』にいただけでなく、水晶姫と知り合いだったんだな!
すげぇな! 今度、紹介してくれよ。あんな美人そうそうお近づきにはなれな――――あだっ!?」
「はやく! 冒険者登録するんでしょっ!」
そんなメジストは頬を膨らました同じパーティの魔術師の女性に杖で殴られた。
なるほどと、僕は二人の事情を理解した。