第六話 帰路、出会い、冒険者ギルド
第六話 帰路、出会い、冒険者ギルド
半日ほど帰り道を進むと、カチャカチャという金属音を鳴らしながらに遺跡に向かう冒険者の一団に僕は出会った。
金属防具で固めた戦士、軽装備の大剣使い、それに後衛の弓使い、魔術師のよく聞く一般的なパーティ編成の集団だ。
「なんだかモノモノしいナ」
「確かにあの遺跡にいくにしてはちょっと大げさな感じだね」
見れば、身のこなしや互いの距離の取り方、周囲を常に警戒している隙の無い素振りからもベテランの風格が漂う冒険者たちだ。
あの遺跡の危険度に比べれば、彼らのレベルは高すぎるくらいだ。
なにが目的なのだろうか?
「おおい、この先の遺跡でストーンゴーレムが出たって聞いたが、お前さん無事だったか?」
リーダーだろうか、戦闘の金属防具で身を固めた男が僕に気が付き、手をあげ、声をかけてきた。
なるほど、この一団はストーンゴーレム討伐のためにやってきていたのか。
あのゴーレムに4人がかりは少しおおげさな気もするが、さすがベテラン冒険者、万全の体制で挑むということなのだろう。
そう納得していると、大剣使いの男が近づいてきて何やら確認するようにじっくりこちらを眺めてきた。
「なんだよピンピンしてるなお前、ストーンゴーレムがでたんだろ? うまく逃げたじゃねぇか」
「あ、それなら僕が倒しましたよ」
「は!? ストーンゴーレムを一人でか!?」
「ええ」
何が面白かったのか僕の話を聞いた大剣使いの男がゲラゲラと笑った。
「面白い冗談だな坊主。見たところパーティにも入っていないお前がどうやってランクCのストーンゴーレムを倒せるっていうんだ」
「やめろよ、ヤモン」
ここから遺跡まで半日程度、複数人で歩くとなれば一日近くかかる。
遺跡を探せば砂にならなかったゴーレムの残骸を拾えるかもしれないが、ほとんどが石なので、彼らは損をしてしまうかもしれない。
そう考えた僕はここで教えたほうが親切かもしれないと鞄からゴーレムのコアを見せてみせた。
「どうぞ、これが証明です」
「お、おおい!? まじかよ!!」
ヤモンと呼ばれた男は固まった。
悪いことでもしてしまったのだろうか。
それともこういう討伐の証を見せることは、なにか冒険者のマナー違反なのだろうか。
「あの、なにか悪いことでもしてしまったのでしょうか?」
「そんなことはない。それよりも君、よく無事で」
「無事って、そんな大げさな。確かに僕はフォレストウルフ群れに手こずる程度の腕ですけど」
僕のセリフに固まるリーダー格の男。
なんだろう、何をいってしまったのだろうか。
「……もしかして知らないのか?」
「何をですか?」
「フォレストウルフは群れをなすと単身での攻略難易度はストーンゴーレムと同等かそれ以上だぞ! それを一人で!?」
「は、はい!?」
無論、そんなことは教わっていない。
ふと思い出す特訓の日々。魔術の修練、戦闘の修練、魔物と闘うための知識、……あ、そういう冒険者のお約束は教えてもらっていないや。
そう思いいたるとドッと冷や汗が流れてきた。
知らなかったとは言え、なんていう無茶をしていたんだ僕は。
「とにかく大事が無くてよかった。俺はメジスト、こいつらと一緒に『青紫の水晶』ってパーティをやってんだ。良かったら一緒に街まで帰らないか? どうやってストーンゴーレムを倒したのかとか話を聞かせてほしい」
「ぜひ、お願いします」
僕の了承を確認し、メジストは待たせていたパーティメンバーたちと話をまとめるため、戻っていった。
それを見計らってか、静かにしていたガネットが小さな声でつぶやいてきた。
「……ワタリに船だナ」
「それどういう意味」
「もしかしてこの言葉もなくなってしまったのカ!」
「ところで、どうして黙っていたのさ」
「なゼだか、私ノ存在は必要以上に広めてはいけない気がするんだ。それにラルドの反応を見るに、合成の魔術の存在もしばらくは秘密にしていてくれ」
ガネットも千年たった世界がどのようなものかわからないのだろう。
少し慎重すぎるとは思うが、彼がいなければ遺跡から脱出することもゴーレムを倒すこともできなかったのだ。
僕はガネットの意見を尊重することにした。
「わかった。約束するよ」
「オ前は人が良いナ。ラルド」
「あはは、そうかな?」
そういうことは初めていわれたので僕は少し気恥ずかしくなった。
町に戻るまでの間、僕は冒険者パーティ『青紫の水晶』のリーダー、メジストと話をしていた。
主な話題は遺跡前後の僕のいきさつだ。
どうやらメジストはストーンゴーレムやフォレストウルフを倒した僕に興味があるみたいだった。
僕はガネットとの約束通り、ガネットや合成術のことは隠しつつ、遺跡での出来事を話すことにした。
「じゃあ、ラルドは『金緑石の集い』にいたのか!」
伝説の剣に選ばれず、パーティを追い出されたことを話したときだった。
メジストは目を見開き僕のいたパーティの名前を叫んだ。
「ええ、見習いでしたけど」
「こんな逸材を追い出すなんてどんだけ層が厚いんだよあのパーティ……」
聞けば有名パーティだったらしく、冒険者の中では知らないものはいないとのことだった。
僕としては単純に各地を転戦するパーティだと聞いていたので、自分のやりたいことに一番近いパーティに入れてもらったつもりだったのだが……なるほど通りで見習いの僕にも厳しい訓練が多かったわけだ。
「噂じゃ、あそこはスキル至上主義らしいからなぁ。しかしもったいないにも程がないか」
「そうなんですか?」
その話に、僕は、戦闘技術を師事してくれたあの人のことを思い出していた。
フォレストウルフも、ストーンゴーレムも、正直あの人と比べると恐ろしさが足りなかったというか……恐らくスキルなしでも僕以上のことはできるはずだ。
そういう思うと、あの人はあのギルドの中では特殊な存在だったのかもしれない。
「ラルド、良かったら俺たちのパーティに来ないか?」
町の入り口についたころ、メジストはそう僕をパーティに誘ってくれた。
彼らのパーティである『青紫の水晶』はこの町を拠点として周囲の魔物駆除を主に活動しているパーティだ。
彼曰く、最近この町の近辺の魔物の活動が活発化しており、数が増え、強力な魔物の出現頻度も増加しているらしい。
ここで僕が加われば二チームに分けて、依頼を効率よく達成できるだろうとのことだった。
とても魅力的な提案だし、過大気味だが、自分を評価してもらえたこともうれしいとは思う。
でも――。
「すみません……」
「そっか、ラルドは探索系が志望なのか。だから金緑石の集いに」
「はい」
ガネットとの約束もある。しばらくは一人で行動したほうがいいのかもしれない。
それにメジストが言う通り、僕の最終目標はダモンド。
つまるところこの町を出て人類未踏の領域の探索をすることが目標なのだ。
「でも、冒険者登録はするんだろ? 良かったら手伝うぞ」
冒険者登録とはその名の通り、冒険者ギルドに冒険者として認めてもらうことである。
正式な冒険者として認めてもらえれば、一定の身分が保証され、各町にあるギルドの支部で依頼を受けられるようになるのと、公認の買取所で、魔物の素材の買い取りしてもらえるようになる。
一応、公認の買取所以外でも素材の売り買いはできるが、よほどの流行りものでもない限り、安値で買いたたかれることが多いのが現状だ。
冒険者登録は、各地で冒険者の活動をしていくためには必須といっても過言ではないだろう。
もちろん僕だって登録はしたいが……。
「伝説の剣がない今の僕でも登録していいものなんでしょうか?」
「スキルなしで冒険者やってるやつなんて山ほどいるぜ。もし何か言われてもそのストーンゴーレムのコアを見せれば誰も否定はしないさ」
「そうですか、でしたらお願いします」
「おう。それじゃギルド支部に直行するかー。俺たちも依頼の報告に行かないといけなしな」
「もしかして、どのみち僕が行かないとややこしいことになりませんか?」
「おお、そういえば。すっかり忘れてた。ラルドにはすまんがもうちょっと付き合ってくれ」
「おいおい、しっかりしてくれよなリーダー」
大剣使いのヤモンに軽くツッコミをいれられ、メジストはおどけて見せた。
その様子に明るい笑い声を漏らしながら、僕と『青紫の水晶』の面々は町の入り口からメジストたちの案内で冒険者ギルドの支部にやってきていた。
ギルドの中はかなり広く、食事処と一体化しているようだった。ただ普通のレストランと違うところは、入り口からも見やすい場所に大きな掲示板。やたらと紙が貼り付けられいて、おそらくあの紙一枚、一枚が何かしらの依頼なのだろう。
聞いた話の通りだ。あとは掲示板のそばにカウンター、依頼の処理をしてくれるのだろうギルド員があちらこちらに駆け回りながら、書類を処理し冒険者とやりとりしている。
「よう、メジスト。お早いお帰りじゃんか! ストーンゴーレム相手に逃げ帰ってきたのかよ」
「言ってろ。先客が先にしとめちまったんだよ」
食事処のテーブルから酒をかっくらっている冒険者がメジストと軽口であいさつを交わす。
お互い笑っているところから別に敵対しているというわけではないのだろう。
独特な雰囲気だ。これが冒険者の世界かと、僕はついつい興味に駆られてあちこちを見渡していた。
だから、店の奥、正面の扉から出てきたあの男に気が付くのに少し時間を要してしまった。
「おうおう、なんだ剣を抜けなかったラルドじゃねぇか!」
正面の扉、あとで聞いたが、VIP待遇の上位パーティにしか使うことが許されていない部屋からでてきてのは、先日僕の代わりに伝説の剣を抜いた男、ジェードだった。