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第五十三話 治療とお返し

第五十三話 治療とお返し


 ディアンとの戦いは幕を閉じた。

 僕はというと、あのあと冒険者ギルドに担ぎ込まれ緊急治療、即入院という有様だ。

 後日、見舞いに来たファイからは、領主の判断で僕が罪に問われるということはないという話を聞かされた。

 どうにもディアンが持っていた剣に危険性があり、それを未然に防ぎ、尽力して街を守ったくれたということで話を調整しているらしい。

 

 絶妙なところで真実が混ざっているため、真実味がすごい。

 やや持ち上げかたにやりすぎ感は否めないが、ダモンドに向かうための準備ができるわけだし、僕としては都合がいいのでその話に乗っかることにした。


「しかし、なんか新しい街に来るたびに大けが負ってるな僕……」


 ディアンの騒動から三日後、僕は絶対安静だといわれ、未だベッドに横たわっていた。

 おまけに両手両足を縛り付けられるというおまけ付きだ。

 自己診断では両手の骨にひびが入ったぐらいかなと思っそていたのだが、それだけではなく、肋骨のほぼすべてにひびが入り、蹴りを食らった部分はバッキバキ、僕を見た医者からは「なんで動かせたの? 死なないの?」と首を傾げられたぐらいであった。

 【自然回復強化+】を使えばさほど問題なく回復できると思ったのだが、これまでの無茶もあり、スキルを使わず時間をかけて体力と共に回復したほうがいいと診断され、今に至る。


 僕としてはがネットに拾ってきてもらった赤い水晶を早く検証してみたいのだが……二度脱走した折、リスタルとカーネリアに物理的に縛り付けられてしまった。


 モルガナとの戦いの折、スキル【サイレントウォーカー】の水晶と一緒に外に出してしまった赤い水晶。

 見たこともない色ということもあり、どういうものなのか、検討がつかない。


 気になる。

 本当に気になる。


 そう思っているのは僕だけではなかった。


「おのレ、りスタルぅ……おのレェカーネリアぁー」


 僕のそばには椅子に縛り付けられている剣状態のガネット。

 彼女も僕の協力者であったが、幼女ゴーレムガネットちゃんはリスタルに滅多切りにされ、あげくゴーレム化できる剣を取り上げられてしまっていた。

 だが、まだまだ彼女の心は折れていないようで、今も動いていないのにじたばたしているように見える。

 1000年以上床下に放置されていた実績のある剣は三日程度の放置ではへこたれないらしい。


 僕としては賑やかな隣人(?)と退屈しのぎに話ができるのでだいぶ助かっている。

 結果オーライといったところだ。


 部屋にはそんな僕とガネットの二人だけ。

 だとするなら、あの話を聞いてみるのもいいかもしれない。


「ところでさ、ガネット。ラズワードが言っていたんだけど、伝説の剣が元は人だったって本当?」

「ム? そうなのカ? そういえばそんな覚えがあるような無いようナ」

「はっきりしないな……」


 とぼけているのか、本当に忘れているのか表情が無い分読みづらい。

 ただ、もしとぼけていたとするならば理由がわからない。

 そもそも人間を乗っ取ることが伝説の剣の製造目的ならば、僕が遺跡でガネットを拾ったときにあっさりと乗っ取られているはずだ。

 けれどもガネットはそれはしなかった。


 ラズワードに伝説の剣の話を聞いた時に深く動揺しなかったのはガネットのそういう行動があったからだろう。


「そういわれてもナ。仮にラズワードのいうことが本当だとシて、ほかの冒険者が伝説の剣に体を乗っ取られタ話、ラルドは聞いたことあるのカ?」

「うーん、ないなぁ。案外、ガネットと同じように全ての剣が記憶を失っているのかも」

「あり得ル。500年超えたあたりから本当に何も思い出せなくなるし、考えられなくなるからナ。長生きなんてするものではなイ」

「それはちょっと新触感な解釈だね」


 500年以上生きる想像をしてみようとするが、正直言って想像がつかない。

 だが実体験であろうその言葉の重さはよくわかった。


「誰カ、当時のことを覚えていルものがいればいいのだガ」

「それ、ガネットが言う?」

「……付いテいない耳が痛イ。しかし、赤い水晶カー、気になるなァ」


 記憶が無いのを追及されたくないのか、ガネットが露骨に話に話を変えてきた。

 赤い水晶――これまで僕が合成魔術で見てきたものは白いガラスのような水晶とモンスタースキルが付与される青い水晶。あとリスタルの剣の白濁した水晶。

 ガネットであったスキル【オリジン】も白い水晶であったし、赤い水晶というのは一体何なのだろうか。

 

「気になるよねぇ。もしかするとモルガナが生み出されたことに関係する何かかもしれないし」

「そうだロ! そうだロ! だったら早くこの拘束を抜け出すのダ、ラルド!」

「よし、やるか! ガネット!!」


 手首、足首をベッドの各足に縛り付けられてもそれがどうしたというのだ。

 気合でベッドの足を破壊すればいける。

 手元に合成した剣が無いからスキルは使えないが、それがどうした。僕はやるぞ!


「――何をやるのかしら」


 部屋に入ってきたあきれ声。

 唯一動かせる首を動かし、僕は冷や汗を流しながら声の主を見た。


「か、カーネリア!」

「い、急ゲ! ラルド! カーネリア一人ならまだ何とかなる」

「うおおおおおお!!」


 全力でベッドを破壊しようと腹筋に力を入れ全身の力を使いベッドの足、ミシミシと腕と上半身が痛みを上げる。

 だが、その痛みの成果として、徐々に体が持ち上がり始める。


(しめた、ベッドの足が少しずつ壊れてきた。この調子なら)


「リスタル~。ラルドが逃げ出そうとしている」

「げえっ!?」

「カーネリアァお前ぇエエエ!?」


 軽い足音と冷気が部屋に入ってくる。

 それは見たものを震え上がらせるに十分な圧力であった。


「何をしているの」


 銀髪蒼眼リスタルは無表情かつ一切の隙の無い冷たい視線で僕を突き刺してきた。

 全身にダメージ、骨はボロボロ、両手両足を縛られている。

 どう考えてもリスタルに勝ち目を見いだせない僕は素直に敗北を認めた。


「……すみません」


 僕はただただ小さくなることしかできなかった。


 これは当分実験はできなさそうだ。


「まったく……そうそう、リスタルから聞いて確認したかったんだけど、あんた私の剣で相手の伝説の剣を折ったってて本当?」


 カーネリアの言葉に3日前の死闘が蘇る。

 ディアンの渾身の一撃、それをなんとか凌ごうと防御する僕。

 かち合う刃、そして折れた英雄級の剣。


 あれを折ったというと少し語弊がある気がする。

 訂正した方が良いかもしれない。


「僕が折ったというよりかは、ディアンの攻撃を防ごうとしたら向こうの剣が勝手に折れたが正解だよ」

「ねえ、ラぁルドぉ〜♪」


 ツカツカとカーネリアは僕のベッドに近寄りその脇に腰掛けた。

 びっくりするぐらいの猫撫で声だ。

 思わず鳥肌が一斉に泡立ち、恐怖心が警笛を鳴らす。


 だが悲しいがな、ベッドに縛り付けられている僕は逃げることが出来ない。

 がしりと、僕の左肩を掴んだでカーネリアは魔物も逃げ出しそうな物凄い表情を浮かべた。


 抵抗できない時点でかなり心細いのにこれは怖い。

 本当に怖い。


 僕の肩を掴んだカーネリアは徐々に掴む力を上げていく。


「謙遜はいいの。私の剣があのクソ伝説の剣に勝ったのね」

「クソというか現状最強の……いたた! 痛っ! か、肩! ちょ、力強い」

「勝ったのね。そして折ったのね」


 この質問の仕方「はい」って言ったら両方はい扱いにされてしまうのではないか。

 そう考えた後、自分の肩が粉々にされる未来が脳裏によぎった。


 僕は、折れた。折られる前に。


「はい、そうです。カーネリアさんの言う通りです」


 僕の言葉にカーネリアは一瞬ポカンと浮かべ、次の瞬間には湧き上がる震えを抑えるように両肩を抱いた。

 こぼれ出る笑い声はちょっと怖かったが、僕の肩を破壊しようとしていた手が離れてくれたので、僕は胸をなでおろした。

 危うくダモンドへ向けての出発が長引いてしまうところだった。


「くふ、ふふふ。来たわ。来たわ来たわ来たわ! 伝説の剣を破壊した! そんな箔がつけば売れるわ。絶対に売れるわ」


 笑いが止まらないとはこういう状態なのだろう。

 

 打ち切ることになったとはいえ、スポンサー契約のお礼ができたようで、僕は一つ肩の荷が降りたように息を一つ吐いた。

 

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