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第四十八話 対峙した者【side 領主クリス】

第四十八話 対峙した者【side 領主クリス】


 ニキスの領主クリスは苦悩を抱えていた。

 ディアンとリスタルとの婚約を認めること。

 その決定は断腸の思いであった。


――――。


 数週間前、旧友のオブシディの息子ということもあり、クリスは自分を頼ってきたディアンをもてなすことにした。

 『金緑石の集い』が解散し、リーダーが新人に代わったことはかねがね聞いていたが、別にクリスにとってはそんなことは関係なかった。

 それ以上にクリスがオブシディに受けた恩は大きく、ディアン個人への出資なども考えていたぐらいである。


 だが、ディアンと対面したクリスは目を疑った。


 クリスが知っているディアンという男は、父に劣等感を持ち感情的なところもあるが、非凡な才の片鱗を魅せる男であった。

 やや伝説の剣に依存している部分もあるが、それでも『金緑石の集い』というこの王国では随一のパーティを率いまとめるだけの力があり、いずれはオブシディをも超えるかもしれないと期待さえしていた。


 だが彼は変わってしまっていた。


 自身の館で対面した彼は自信にみなぎらせた笑みを浮かべ、こちらに向けた明確な殺意を隠そうともしない。

 それは力で全てを支配する魔物の長の様であった。


「リスタルとの婚姻を認めろ」

「……それは、どういうつもりで」

「いいから、俺に指図するな」


 見たこともない紅い剣に手をかけるディアンに呼応し、クリスも自身の剣に手をかける。

 彼の剣もまた伝説の剣であり、他者の剣を触れることなくスキルを看破する『鑑定:スキル』という珍しいスキルを持っていた。

 そして間髪入れずにスキルを発動したクリスはディアンの持つ剣の性能を把握し、その性能に恐怖した。


 クリスは瞬時にこの男に対してリスタルの婚姻を認めなかった場合、どう動くのか試算した。

 おそらくは破壊の限りを尽くし街に壊滅的なダメージを与えるだろうとおおよその想像が固まる。


 ならば排除するのはどうだろうかと検討するが、

 ニキスにおける最大戦力であるファイを向かわせてもおそらく良くて相打ち、それ以外の人物で有れば何もすることなく殺されるだろう。そう予感させるほど、ディアンの持つ剣の性能はほかの伝説の剣を凌駕していた。


「……分かった。おそらく娘もこの街に訪れるはずだ。その時、話をまとめよう」

「ははっ! ひゃはは!! いいぞいいぞ! リスタルが来るまで丁重にもてなしてもらおうじゃないか」

「……ああ、わかった」


 クリスは娘と街の平穏を天秤にかけた。

 自身で対応できることならば自分で行う。

 邪悪に染まったと思われるこの男に立ち向かうだけの気概はクリスにもあった。


 だが、それをしたところでどうなるというのか。

 自身の犬死だけならまだいい。

 だが、いたずらにディアンを刺激した場合、それ以上のことをしでかすかもしれない。


 ならば、娘を人柱にし、この街で封殺する。


 そう判断したクリスはディアンをもてなすことにした。


(娘には恨みを買うだろうが……おそらく理解してくれるはずだ)


――――。


 そうしてクリスは帰ってきた娘がいる部屋の前に立っていた。


 なんと罵られるだろうか、それともオブシディとの約束を持ち出し、言いくるめるべきだろうか。


(いや、まずは誠意をもって話すべきだ。リスタルも領主の娘という立場を自覚しているはず――)


 痛む胃をごまかしクリスは扉を開いた。


 そこには3人の使用人と、純白のドレスを着たリスタルの姿があった。


 結婚式に着る衣装を合わせていたのだろう。

 父親ながら、このようなタイミングでないと娘に逃げられてしまうかもと弱腰になった結果、クリスはこの時を見計らっていた。


 汚れ一つない白いドレスは意匠を凝らしたレースで飾られ、ふわりと彼女を彩る。

 透き通るような銀の髪を引き立てるような金の髪飾りは適格に彼女を魅力を引き立て、父親の忖度を除いても整った芸術品の様であった。


「あー、リスタルに話がある。すまないが」


 そう聞くや否や、使用人たちは事情を察し、頭を下げ部屋から出ていく。

 使用人の動きを確認し、リスタルは少し動きづらそうにドレスの裾を持ち、クリスのほうを向いた。

 クリスは娘からの罵倒や軽蔑を覚悟したが、まっすぐとこちらを見る娘の目からは恨みなど一切感じなかった。


「お父様……事情はファイから伺いました」


 その目は冷徹さから『水晶姫』などと呼ばれていたとは到底思えない穏やかな目をしていた。

 そんな娘の様子にクリスは本心がポロリと零れ落ちた。


「すまない。こうする以上の手が私には思いつかなかった」


 クリスの言葉にリスタルは「大丈夫です」と首を振り静かにふり言葉を続けた。

 

「彼が何とかしてくれます。ラルドはそれができる人だから」

「そうか、信頼できる人と出会うことができたのか」

「はい」


 その人物をこの騒動に巻き込んでしまったことを悔やむべきかクリスは複雑な心境を胸にしまい、今はただ微笑むことにした。

 領主ではなく娘の成長を喜ぶべき親として。


 だが、領主としてのクリスはつい思考してしまう。


(ラルド、現『金緑石の集い』のリーダーか、どのような人物か興味はあるが、ディアンを刺激するわけにもいかない)


 娘が信頼を置く人物ならば悪い人間ではないのだろう。

 だが、もし本当に、この状況を解決に持ち込むのならば、正しいだけでは足りない。


(娘もそれがわかっているはず。いや、リスタルは英雄級の剣の恐ろしさをまだ知らない。)


 ラルドという人物がこの事態を何とかするために動いているのだろう。

 だがそれが無理な時は、ファイから提案された計画を飲み、彼を犠牲に街を守るべきだろう。

 

 愚かな領主と罵られようと、冒険者をないがしろにしたことで信用を落とされようと、この街を守ることを第一に考える。

 それが領主としての使命であった。

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