第四十七話 一撃
第四十七話 一撃
僕とファイは場所を変えて訓練場にやってきていた。
ここは冒険者がスキルや魔術修練を行ったり、区画を分けた場所では街の一般の人も運動に使うやや広めの公園のようなスペースだ。
そんな中、僕は貸し出されている木刀を右手に持ち、彼に一度でも攻撃を当てることが出来たら訓練を付けてもらうという約束の下、ファイと対峙することになった。
だが……。
「甘い!」
「ぐぅ……」
ファイの動きをとらえきれず、僕は腕に木刀を撃ち込まれ、激痛のあまり僕は握った木刀を手放してしまった。
これで挑戦から三度目失敗。それでも僕はあきらめきれず木刀を拾いなおす。
木刀にはもちろん伝説の剣のようなスキルなんてついていない。
お互いにスキルなしの戦いになるので、多少は戦えるのではないかと思ったが、僕の見積もりはことごとく覆されていた。
ファイの消えるような移動方法や、相手の機先の感知は伝説の剣のスキルでもなんでもなく、己の修練で獲得した技術だったのだ。
息を飲む。どれだけの訓練を積んでこの動きを体得したのだろうか。
「もう一度お願いします」
「……いいでしょう」
僕は木刀を拾いなおしてファイに向かい構えなおす。
手は軽く下げ、半身で相手に向かう。足は軽く置き、すぐに移動や回避をできるように力を抜く。
ファイを注視――したと、思った瞬間、彼がすぐさま僕の視界から消える。
死角からの攻撃が来ると理解して僕はとっさに警戒を高める。
三度攻撃を受けた経験から、僕はとっさに後ろにステップを刻み、ファイの攻撃を予期し右手の木刀を振りかぶる。
後ろに下がることで視野が広がり、右の死角にファイがいたことを確認するや否や、僕は木刀を振るった
木刀が最速でファイをとらえる軌跡を描く。
「それではダメですな」
「へっ!?」
ゴリっと、抉るようにあばらのあたりに痛みが走る。
予想していなかった箇所にダメージを受け僕はむせ返り、二歩三歩と後ろに体を引いた。
同時に何が起こったのかは理解した。
単純に僕の振り下ろしに合わせてファイが最短距離で突きを放ったのだ。
いや、放ったというよりそこに置かれていた木刀へ僕が動かされたのほうが正しいのかもしれない。
「……もう一度お願いします」
「いや、今日はこのあたりにしましょう。明日の午後、またお越しください。お付き合いいたしましょう」
構えを解いたファイを見て、僕は膝をつく。
どうやら思いのほか体力を消耗してしまっていたようだ。
でも、明日も挑戦できるということは多少は見込みがあるということなのかもしれない。
それはそれで嬉しいことだが――それでは、時間が足りないかもしれない。
リスタルを救う上で英雄級の剣を持つディアンに対抗する実力をつける時間が。
一日でも一時間でも一分でも一秒でもその時間が惜しい。
二度三度、息をつく。
真剣だったら僕は少なくても四回は死んでいる。
これがリスタルの先生の実力。
僕にとっては越えなければならない壁の高さ。
それは到底今の僕では太刀打ちをすることができない厚みを感じるものだった。
(いや、一つ。試していないことがある――)
だからと言って、そこで投げ出すつもりはなかった。
僕はもう一度木刀を構える。
「……お時間はとらせません。もう一度お願いします」
「何かお考えがあるようだ。いいでしょう」
僕の顔を見て、ファイがもう一度剣を構える。
(受けに回ってはいけない。かといって攻撃に意識を置くわけではなく――)
僕は踏み込みいっきに距離を詰め、先ほどと同じ風に右手で木刀を振るう――。
「それではダメだといったはず―――!」
「こんの―――!!」
(相手の攻撃をさばき、強引に隙を作りだす!!)
僕は空いている左手を大きく胸元で払わせた。
ほとんど勘だ。でもおそらくファイならばここに!
「!!」
こつりと固い手ごたえが左手に当たる。
それをそのまま払いのけ、僕は右手を振り下ろした。
彼は僕が二刀流であることを知らない。
二刀流では攻撃の手数を増やすだけでなく攻防をそれぞれの手で行うことも必要とされてくる。
それを空いた左手で疑似的に再現したのだ。
自身の木刀がはじかれ、隙ができたファイの肩を僕の木刀が捉える。
鈍い手ごたえ。
それは指先だけかもしれない。でも確実にファイという実力者に僕の剣が届いた瞬間だった。
「……見事です。もう少し時間がいるかと思いましたが、さすがお嬢様が育てただけはある」
「ありがとうございます」
一歩引き、木刀を受けた肩を抑えたファイが楽しいものを見るように僕を見てきた。
おそらく僕との戦いを通してリスタルの成長ぶりも図っていたのだろう。
僕としては師匠であるリスタルの評価を下げることがなかったのでほっと息を吐いた。
「いいでしょう。明日の午後から指導をいたしましょう」
「お願いします。それとリスタルのこと頼みます」
「邸内での彼女は命に代えてもお守りしますとも。それが私の仕事ですから」
そうして、ファイとの約束を取り付けた僕はリスタルの結婚式に備え始めることにした。




