第五話 脱出のち戦闘
第五話 脱出のち戦闘
「割とあっさり出れたね」
「アァ、実に、千年ぶりに外に出タ」
二時間後、僕たちは無事に外に出ていた。
それを可能にしたのは、僕の剣についた岩のもろい部分を見抜くスキル【石穿ち】と、岩石に特攻効果を持つ【岩石断ち】の効果だ。
貴重な遺跡を破壊するのは心苦しかったが、命には変えられないと、スキルに任せて破砕、粉砕、気合と根性で最短距離を掘り進めた結果、僕とガネットは見事に遺跡を脱出することに成功した。
「だけど、あの不自然な崩落はなんだったんだろう」
「千年アの部屋にいたが、あレだけ揺れたのは初めてだゾ」
「本当?」
ガネットの言葉に、僕はぞくりと嫌な予感を感じた。
その予感にかられ、あたりを見渡し、最後に遺跡のほうへと振り返る。
そこにいたのは拳を振り下ろし遺跡を破壊したままの態勢で静かに固まっている石の巨人。
「ラルド、アレはナんだ?」
「……おそらく、ゴーレムじゃないかな」
最悪ではないが限りなく最悪に近いモンスター。
僕はごくりと唾をのんだ。
ゴーレムはその巨体と怪力により複数人で連携をして討伐することを推奨されている討伐難度が高いモンスターだ。
『まずは相手の状態の確認』
真っ白になりかけた頭にパーティで修練を積んでいた時の言葉がよみがえる。
僕はその言葉に促されるように相手を確認した。
材質は石、つまりストーンゴーレムだ。
身長は僕の二倍から三倍いったところか、今は離れているので近づくとさらに大きく見えるかもしれない。
外観は、人を簡易的に模しており、連なる石材のせいか巨大な建築物と見間違えてしまいそうだ。
僕の聴いた話ではこの遺跡にこんな魔物は出ないはず、いったいどうして、いや、それよりも――――。
「……もしかしてこちらを見てる?」
「見てるナ」
悪いことに僕とゴーレムの視線が合ってしまった。四角い頭に目なんてついてはいないが、どうしてだろうか視線がこちらに向ていることは明確に感じ取れた。
ゆっくりと拳を持ち上げたゴーレムは遺跡の壁を紙でもどかすようにかき分け、こちらに迫ろうとしてくる。
「あいつ動くゾ。こっちに来ル」
「うん、とにかく遺跡から離れよう」
僕は急いで遺跡から離れ、そばの開けた場所まで移動し、ゴーレムを迎え撃つことにした。
手持ちの武器は岩を破壊することに特化した僕の剣だ。
(スキルがある今の僕ならば倒せるはずだ)
ゴーレムはゆっくりと拳を引き抜き、一歩一歩こちらに近づいてくる。
近づいてくるゴーレムはやはり先ほどの推測よりも大きかったようで、あっという間に僕たちに追いついた。
『ゴーレムの動きは緩慢に見えてその一つ一つが人間の3倍近い稼働。だから動きが遅いと錯覚しないように気をつけて戦わないといけない』
僕に戦闘を教えてくれた彼女の言葉がよみがえる。
僕は剣を構え、スキル【石穿ち】を発現させる。
ゴーレムの材質は石だ。このスキルを使うことでゴーレムのもろい部分が数か所、光の線となり見通すことが可能となる。
「まサか戦う気かラルド」
「大丈夫、なんとかできる」
『人間型のゴーレムは、基本は人間と同じ動きをする。拳をふるうとき肩を引き、蹴りを繰り出すときは体をひねる。そこを突く』
あの時の言葉が僕に勇気をくれた。
ゴーレムが弓を引くように肩を引き、全身の重さを乗せ拳をこちらに突き出してくる。
恐れてはいけない。
相手の動きを予測し、僕は横に飛ぶ。
轟音が響き、地面が揺れる。
『まずは素早く相手の攻撃能力を削ぐ』
僕は転がり、すかさず態勢を整え、地面に突き刺さったゴーレムの腕をにらみつける
やつの腕に光の線が走っているのを確認し、僕はすかさず飛び込んだ。
「いっけぇぇ!!」
拳が引かれる前に僕はゴーレムの腕に斬撃を浴びせた。
同時にスキル【岩石断ち】を発動させ、剣を強化する。
薄い氷を砕くような手ごたえの後、僕の剣はゴーレムの腕を切り裂いていた。
(いける! このスキルならこのゴーレムに勝てる。)
片方の腕を失いゴーレムはバランスを崩した。
『次にゴーレムの弱点はコアを破壊するため、体勢を崩す』
畳みかけるなら今だと判断した僕は接近を試みる。
狙うのは足だ。
駆け抜けると同時に先ほどの要領でスキルを発動、示された線をなぞるように斬撃を繰り出しゴーレムの足を断つ。
片腕、片足を失い、完全にバランスを崩したゴーレムはその巨体を地面に横たえた。
『そして、チャンスを作り上げたら、確実に仕留める』
「これで、どうだ!」
振り返り様に大上段からゴーレムの胴体をたたき割るように剣を振り下ろす。
バキンと何かが割れる手ごたえとともにゴーレムの胴体は大きく抉れ、僕の剣はゴーレムの心臓部である赤いコアを深く傷つけていた。
コアに重大なダメージを負ったゴーレムは各関節が外れ、体のパーツがバラバラに散らばっていく。
そして青い光粒がが煙のように昇っていき、ゴーレムは完全に動かなくなった。
「……倒せた」
「オぉ、やったナ!」
さすがスキルといったところだろうか。
ただ――。
「剣が折れてしまった……」
「マア、新しい武器を買えば良いダけだろう」
最後の一撃に耐えきれず僕の剣はは刀身が折れてしまった。
剣の代金も馬鹿にならないんだよなぁと僕は泣く泣く足しになればと持ち帰れそうなゴーレムの残骸を拾い集め、傷ついたコアを回収し、街に戻ることにした。
「スキルは……もう使えないみたいだ」
「スキルフラグメントの回路が壊レたんだ仕方なイ」
いくら強力なスキルがあったとしても、刀身が折れてしまえばそこまでのようで、一度スキルが使えるか確認したが発動することはなかった。
「帰り道はガネットに頼るしかないか」
「ヤメロ、私は繊細ダ。お前の一振りで折れる可能性がある」
確かに僕はまだまだ未熟だ。
ゴーレムを倒せたのだって、スキルと、僕を鍛えてくれたあの人のおかげだし。
「じゃあ、どうすればいいのさ」
「とりあえず、手ごろな木の枝を合成すればいいんジャないか?」
「んー。じゃあこれと、これで―――」
周囲を見るとちょうど手ごろな棒状の枝があったので、僕はそれを二つ手に取り、合成魔術を行うことにした。
分解、抽出、再構成、加工、結合――――。
集中し、丁寧に、それでもできるところは素早く。
「できた」
「チョット待テ、ラルドお前、工程速度が速くなってるゾ!」
「ちょっとコツをつかんできたのかも。さてと」
どれどれと、僕はできた木の枝のスキルを確認してみることにした。
――――――――――――――――
木の枝
スキル
【強化自然治癒】【風の声】【鑑定:毒】【風の太刀】
――――――――――――――――
「だはっ!?」
全国の伝説の剣の使い手が絶対に欲しいといわれるレアスキル【強化自然治癒】を手に入れました。
僕は一度、深呼吸して震える自分を沈めた。
「と、とにかく、こ、これで帰り道も安泰だだだ」
「声ガ震えているゾ」
それは震えるだろう。
手に入れた伝説の剣に【強化自然治癒】が付いていたために、翌日所有者の冒険者が死体になって見つかり、剣がなくなっていただなんて酒場でしょっちゅう聞かされる話だ。
【強化自然治癒】は文字通り、自身の回復力を高めるスキル。切り傷を受ければあっさり治り、骨折でさえも一週間で完治、おまけに病に対しても自力回復できるものであれば大体効果があるとされている。
ありていに言えば、英雄のように戦い続けることができる脅威のスキルだ。
「……下手に捨てられないし、とにかく町まで戻ろうか」
「千年後の町ナミかー。ちょっと楽しみだナ」
「記憶が無いんじゃ?」
「イヤイヤ、おぼろゲには覚えているんだゾ」
けらけらと笑いながら、僕はゴーレムの残骸とコアの入った鞄を担ぎ、伝説の能力を宿した棒を片手に帰り道につくことにした。