第四十五話 表明
第四十五話 表明
窓からは橙の光が差し込んでくる。
日が沈み、一日は終わりを告げようとしていた。
カーネリアが去った後、僕はベッドに身を投げ出した。
これまでを振り返り、少しの心残りを振り払う。
「これで良かったのかな」
これが正しいのだと頭ではわかっている。
ただそれが本当に正解なのかと心が訴えてくる。
その自問自答に答えを出すには僕はまだ何もかもが足りていなかった。
経験も、知識も、もしかすると覚悟さえまだたりていないのかもしれない。
「悩んデ、いるのカ?」
「ガネット……いや、ううん、僕が決めたことだし。カーネリアには迷惑をかけられないよ」
自問自答する僕に剣状態で立てかけていたガネットが声をかけてくる。
悩んでいるといえばその通りではある。
この街に来る一日前からは想像もつかない速度で事態が進んでいるのだ。
ディアンが英雄級の剣を手に入れ、リスタルと婚姻を結ぼうとしている。
リスタルの話では領主の父はリスタルにここに留まってほしいという願望と、英雄級の剣を手元に置いておきたいと思っているのだろう。
僕はリスタルを奪い、犯罪者となってでも人類未踏の地を進もうとしている。
だからカーネリアとは別れた。迷惑はかけられない。
そして、リスタルの意思をもう一度確認し、彼女の同意が取れるのなら、僕は彼女を連れて人類未踏の地を進むことになる。
補給もできない、戻ることも許されない。
「それでも、行きたいよな。ダモンド」
自問自答の答えの行きつく先は結局そこだった。
「本当の遺跡バカだナ、お前は」
「ははは、でも一人で行きたいわけじゃないんだ。リスタルにさ、ここまでできるようになったのだと、見てほしい、とも思う」
「ホうホウ……」
「まあ、まだ確実に行けるってわけじゃないのだけどね。情報も少ないし」
それでも前に進み続けないといけない。
僕が僕であるためにも――。
(あ……でも――)
ふと一つ考えが浮かび上がった。
それは現実味を帯びないが、それでも可能ならば最善の結果を手に入れられる方法。
カーネリアは機会があるのなら迷わずつかみ取れといった。
これがその機会なのかはわからないが、迷うことはないのかもしれない。
そう思いつくや否や僕は明日の話の流れをシミュレートしていく。
ファイとの対応、リスタルとの話。それらを想像し、答えを探していく。
(さて、それじゃあ――)
そうしてひとしきり考えたところで、軽く夕食を食べ、運動をし、この日の僕は眠ることにした。
そして翌朝――。
ファイへの返事を伝えるため、僕は昨日通された家へと向かった。
「それでお返事を聞かせていただきますか?」
昨日、この老人と言葉を交わした応接間、僕とリスタル、そしてファイが椅子に座っている。
重々しく口を開いたファイは、返答次第ではここで戦いを始めかねない圧力を放っていた。
「僕の気持ちは決まりました。でも、その前にリスタルと話をさせてほしい」
「……かしこまりました。5分ほどお待ちしましょう」
ファイが静かに椅子を立ち、部屋から出ていく。
ここからは僕のわがままだ。
もしリスタルが断るのならば、『その時はファイのいう通り』にしよう。
「リスタル、少しいいかな」
「ええ」
「ファイは君をさらってほしいといった。それはおそらく僕が英雄級の剣に勝てないと踏んでいるからだ」
「ディアンは『金緑石の集い』の元リーダーよ。準備があるのなら、私と同格かそれ以上の実力はあるわ」
「分かってる。だからこそ――――僕は戦うことにしたよ。戦って、ディアンを倒し、君と婚姻を結ぶ」
そう、昨日から考えていた。
領主が英雄級の剣と、リスタルを手元に置いておくことを目的としているのならば、僕が戦いに勝ち英雄級の剣を超える剣がここにあると証明すればいい。
リスタルのいう通り、ディアンは【攻撃者】としてかなりの実力者だ。冒険者のランクも僕よりもはるかに上である。
ならば、僕がそのディアンを倒せるならば剣の性能の差に他ならないと周囲は思うだろう。
そのうえでリスタルと婚姻を結び、リスタルを自由にする。
領主との交渉次第だが、ディアンを倒した剣を担保すればかなり可能性があるはずだ。
「分かったわ。あなたのことを待ってる」
リスタルは全てを納得したように、にこりと微笑んだ。




