第四話 それって伝説の剣を作る力では?
第四話 それって伝説の剣を作る力では?
「な、なんだ!?」
「崩レるぞ!?」
とっさに後ろに倒れこむ。
僕の背中でドカドカと瓦礫が落下してくる音が響き、部屋に差し込んでいた光は崩落とともに失われてしまった。
ややあって振動が収まったことを確認した僕は魔術で火を灯し、暗くなった部屋を照らした。
「まずいな……」
照らされた部屋の状況は、最悪の一歩手前といった具合だった。
先ほどまであった出口の瓦礫はさらに増え、穴が開いていた天井には別の瓦礫が絶妙なバランスで詰まっている。
完全な密室だ。これは僕の力だけでは脱出できないかもしれない。
「……仕方ナい。ラルド、これから私の魔術ヲ教える」
何かを決意したガネットからの提案に僕は疑問符を浮かべる。
この状況を打開できる魔術だろうか。千年以上の記憶を持っている奇怪な剣の魔術、もしかすると旧時代に消失してしまった魔術なのかもしれない。
「いったいどんな魔術なんだ?」
「ああ、この魔術ならば、おそらくここから脱出できる。ただし、一つ約束してほしい。―――この術は決して人には使わないと」
表情はわからなくても声色でガネットがどれだけ真剣なのか、理解できた。
だから、僕は頭をゆっくりと縦に振った。
「わかった」
「ありガとう。これから私が教える魔術の名前は『合成』という。―――物は試しだ、やってみヨう。まズは左手に剣を持ち、右手は何も持たず空けておく。アァ、私は持つナよ」
僕はガネットの指示通りに左手に自分の剣を持ち、右手には何も持たず空けておく。
「これでいい?」
「うム、次に右手で何かしらの素材を握る。今回はその辺に転がっている石でいいダろう」
「石を握る……と」
右手で石を拾い上げ握る。
「準備はできたナ。次にその石に魔術の逆の工程を行いフラグメントに加工する。少し難しいが、コツを掴めばすぐにできるはずだ」
「逆の工程?」
通常、魔術は周囲に漂う魔力素を集め、現象を起こす。
逆というのはどういうことなんだろう。
「右手に魔力を集めるのではなく、右手の石から魔力をすべて追い出す。ただし追い出した魔力は手元に残すイメージでコントロールする」
「魔力……魔力素のことかな。すべての魔力を追い出すのか、こういう感じ?」
ガネットの指示通りに魔力素を操作する。イメージは光の粒を取り除く感じだ。
操作が上手くいったのか、魔力素の抜けきった石はさらさらと砂となり手から零れ落ちていく。
さらに魔力素が四散しないように気を付け、手の上に集まるようにコントロールする。
すると、白いガラスのような長方形の物体が手の上に出来上がった。
「……エぇー、一発で成功すルのか。器用だナ、ラルド」
「魔術は冒険者の切り札だから、いつも魔術の操作は練習してたんだ」
「なるほど、あとはその白いガラス、スキルフラグメントを剣に重ね、回路を形成する」
「回路?」
「アー、ここに来るまでの壁に刻まれた模様だ。それをイメージしてフラグメントを操作し剣に貼り付けていくんだ」
「壁の模様をイメージ……」
僕は右手の白いガラスを左手の剣の刀身に重ねた。
思い起こすは複雑で幾何学的な壁の模様。
記憶を頼りに一本一本線を伸ばしていくイメージで魔力素を操作していく。
すると白いガラスは糸が解かれたようバラバラになり、イメージ通りの模様に変形した。
これを剣に乗せれば良いのだろうか。
僕はゆっくりと模様を剣に押し込む。
線が剣に溶け溶け込み、剣に根付いていくのを感じる。
そして、白いガラスは完全に剣に溶け込んでいった。
「マテマテまテマて!? なんだソノ完璧な回路図ワ!?」
「いや、遺跡の模様ってわくわくするから結構好きで」
「好きダからって……完コぴかヨ」
なんだかあきれた声が聞こえてくる。
「これでいいのか? 僕の剣はどうなったんだ?」
「スキルが付与さレた」
「は、い?」
「目に魔力ヲ集めてスキルを見てみロ」
恐る恐る剣に視線と意識を飛ばしてみる。
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鉄の剣
スキル
【石穿ち】【切れ味強化】【岩石断ち】
――――――――――――――――
量産品の僕の剣が伝説の剣になっていた。
「スキルが付いてる、なんで。」
「これがおそらク私の研究シた魔術『合成』ダ」
ガネットは誇らしく声を上げた。
それとは裏腹に、剣を持った僕の手は震えていた。
スキルだ。これがあれば冒険者としてやっていくことができる。
いや、それどころではないこの『合成』という魔術はすべての伝説の剣につながる技術なのではないか。
「ガネット、君は一体何者なんだ?」
「……アァ、実は、それがわからないんダ」
「わからない? どういうことさ」
「千年もここデ一人だったんダ。覚えているのは名前、合成とイう魔術、そして何かを伝えなけれバいけないということ。だから知りたいのだ、ダモンドへ行って」
「ダモンドだって!?」
ダモンド、それは有名な遺跡の名前だ。
ただ、その遺跡の位置は、魔族たちがあふれかえる人類未踏のエリアに存在すると言われている幻の遺跡だ。
僕としても、冒険者としても、そこに到達するというのは目標の一つなのだ。
「そこへ行けば、ガネットのことがわかるのか?」
「アぁ、その通りだ。おソらく」
あまりに危険で無謀な話だ。
人類未踏ということは何十年、いや百年単位で人がそこにたどり着けていないということ。
それでも―――。
「わかった。一緒に行こう」
それでも目指さずにはいられなかった。
夢とロマンを追いかける。そのために僕は冒険者を目指したのだから。