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第三十二話 夜闇をかける(sideリスタル)

三十二話 夜闇をかける(sideリスタル)


 リスタルはサイレントウォーカーが少ない屋根伝いを渡り、ギルドを目指していた。


 夜になり、視界が悪くなっているがその程度、彼女には意味をなさない。

 リスタルは周囲の音から気配を読み取り、どこに何があるのか、何が動いているのかを把握し、屋根を駆け渡っていった。


(ラルドが信頼して指示をくれた)


 恐怖は感じない。

 リスタルにとってこれはまたとない機会だった。


 闘技場での勧誘以来、ラルドはリスタルへの危険な指示は避けていた節があった。

 それは彼女からすれば、大切にされて嬉しいと感じる反面、信頼されていないのかと不満に思うこともあり、常にどこか距離感を感じていたのだ。


 それが今回、ラルドはリスタルに対して危険を伴うが彼女の力量を信じ、指示をだしたのだ。

 彼女にとってそれは感じていた距離感を払拭するものだった。


(信頼に応えないとーー)


 リスタルは微笑みそうな自分を戒め、夜を駆け抜ける。

 信頼に応えるために。


 その想いはリスタルの足にいつも以上の力を与え、彼女はほとんど時間をかけずギルドそばまでやってきていた。


 魔術が炸裂する音や、戦いをする者の怒号が飛び交っている。

 ギルドは未だ健在のようだ。


(あれは?)


 屋根から飛び降りようとするサイレントウォーカー二体を見つけ、リスタルは嫌な予感に駆られ彼らへと距離を詰めた。

 

「ぁぁあぁ!?」

「邪魔」


 白刃が舞う。

 尋常ならざるスピードの六連撃が二体のサイレントウォーカーをバラバラにした。


「がぁぁぁはぁぁぁーーー!」


 地面に落下したサイレントウォーカーのパーツに反応し、屋根の下が騒がしくなる。

 リスタルが覗きこむと、どうやら、ここから飛び込み、ギルドの冒険者を襲おうとしたらしく、冒険者たちの戦線がそこにあった。


「あぶねえじゃねえか!」

「ギルドは……無事みたいね」


 ギルドの様子を見るにだいぶ統率が取れているようだった。

 流石に死線を潜り抜けた冒険者たちだけあり、彼らの前進をバリケードで防ぎ、槍や遠距離から攻撃できる魔術で応戦している。


「屋根からも何匹か上がっているやつがいる。注意して」


 彼らの練度なら、一言言っておけば後は対応できるだろう。

 そう判断し、リスタルはギルド近辺を離れ、次の指示をこなすことにした。


(次は彼らの進路……)


 リスタルは街中を駆け回り、サイレントウォーカーたちの動きを観測していった。

 近くにいる人を襲い、街の外を目指そうとしている以外、規則性が見つからず、リスタルは内心首を捻った。


 本来魔物は目的がない場合、その場をテリトリーとすることが多い。

 だが、流通都市タイズに現れたサイレントウォーカーはその場にとどまろうとはしない。

 近くにいる人を襲うだけなら分かるが、街の外を目指すのは何か目的があるはずだ。


(もっと高いところから見れば、なにか分かるはず)


 彼らの行動をもっと離れた視点から見ようとリスタルは町の中央にある、管理協会の建物にやってきていた。

 建物の高さからしてここからなら町全体を眺められるだろうと、曲芸師のように瞬く間にリスタルは建物を登りあがる。


「これは……」


 管理協会から街中を観察すると、リスタルが確認した通りサイレントウォーカーは蜘蛛の巣状に街を練り歩き、無秩序ながらも町の外を目指している。

 だが、町を出たサイレントウォーカーたちは一様に北上し、流通都市タイズの北側にある草原に集まっていた。


 理由は見えないが、これで今後の方針が固められるはずだ。

 南の町には多少時間はかかるが冒険者ギルドの支部がある街もある。

 町を脱出し、そこへの援軍要請、そしてそれまでの持久戦だ。


 リスタルはすかさず協会建物から隣の屋根に飛び降り、宿屋に向かい、屋根を駆けようと足に力を込めた。


 だが、その瞬間、彼女は自身の背からおぞましい気配を感じ、直感のままに身を屈めた。


「っ!!」


 僅かに空気が揺れ、何かがリスタルの頭部の上を通過する。

 リスタルは反射的に反転しながら、自身を襲ったソレに白刃の剣を振るった。


「おやぁ、完全に不意をついたとおもったのにぃ」


 それは以前味わった手ごたえだった。

 まるで砂の塊を切るような手ごたえ、相手を認識する前に、その感覚で敵を判断したリスタルはすかさず距離を取る。


 リスタルの前に立っていたのは右腕が半分ほどなくなった白い肌の女性、ラズワードだった。


「なんであなたが!」

「この街にはねぇ、ボクのファンがいたからねぇ」


 ラズワードはけらけらと不快な笑みを浮かべる。

 リスタルは警戒を高め、ラズワードの動向をうかがった。


(基本方針は逃げ、だけど――)


 どの方向に逃げるべきなのかリスタルは悩んだ。

 ラルドたちの合流するべきか、それとも一人でラズワードを引き付けて逃げるべきか。


「君はボクの首を切ったぁ。だぁかぁらぁ」


 リスタルはほぼ直感で後ろに跳んだ。

 同時にラズワードの腕が鞭のように伸び、リスタルの首があった位置を通り過ぎていく。

 ほぼ目では追えない速度だ。

 リスタルは彼女の戦闘力を理解し、判断を下した。


(こいつの存在をラルドに知らせないと)


 そう決めたリスタルは、足止めを狙いカーネリアの剣を投擲する。

 剣はラズワードの足に命中、狙い通り彼女の脚のスネを貫いた。


「おぉ、すごいすごいねぇ」


 常人なら激痛で身動きが取れなくなるものの、ラズワードは少し動き辛そうにするだけで、さして効果があったようには見えない。

 だが、それでもリスタルはその僅かな隙を生かし、持ち前の俊敏さでその場を離れることにした。


(急がないと)


 宿屋の明かりが見えてくる。

 後、三件の屋根を超えれば宿に戻り合流ができる。

 

「リスタル!」


 窓を開けて待っていたラルドを見た瞬間、リスタルはほんの一瞬、気を緩めた。

 その一瞬。それが彼女にとっての致命的な隙だった。


「後ろ!!」


 空気を無理やり押し分けるような轟音。

 リスタルは身を捩じり自分の剣を振るう。


「――っ!!」

「クヒひ、ざぁん、ねぇん」


 そこにいたのはサイレントウォーカーをあたかも武器のように握ったラズワードだった。


(このまま振り抜く!)


 リスタルの剣がラズワードの頭部に吸い込まれていく。

 だが振り抜くことは叶わず、ラズワードはリスタルの剣を頭部に食い込ませ、愉快そうに笑った。


「ひどいじゃぁ、ないかいぃ」

(受け止められた。これは――)


 反射的にリスタルはスキル【氷結華】を発動させる。

 斬りつけたものの体温を奪い、生物であれば全て殺すことができるリスタルの剣のスキルだ。


 だがラズワードは凍ることなく、武器のように握っていたサイレントウォーカーを振り上げた。

 リスタル自身の敗北を察した。


「ラルド! 逃げて!」

「君はぁ――こうぅ!」


 ラズワードはその身の丈を同じぐらいのサイレントウォーカーを振り下ろし、リスタルにたたきつけた。

 地面にたたきつけられたリスタルは反射的に受け身を取りダメージを散らす。


 だが、その腕はサイレントウォーカーに傷つけられてしまっていた。


(傷が……くっ)


 そうリスタルが気が付いたと同時にガクンと意識が落ちそうになる。

 

(ラルド……)


 伝えなければならない、ただその一心でリスタルはサイレントウォーカーの毒に抵抗する。

 全身がしびれていく、そして、何ものかの意思が体を動かそうと指示を出してくる。


「リスタルーー!!」


 遠くからラルドの声が聞こえてくる。

 そうだ、彼に伝えなければならない。


「北の、草原に……いかない、で」


 声は聞こえなくてもラルドならきっと読み取ってくれる。

 そう信じ、リスタルは口を動かす――。


 ――だが、体の機能に作用する効果をこれ以上抑えることはできず、リスタルは操られるように立ち上がると、サイレントウォーカーの群れの中に飲まれていった。



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