第三十一話 静寂を歩くもの
第三十一話 静寂を歩くもの
サイレントウォーカー、それは討伐難度エクストラと呼ばれている魔物である。
見た目は人間、動きは緩慢、知能は低く、注意点は異常なまでの怪力ぐらい。
知識があれば、なりたての冒険者でも倒せる程度の魔物だ。
だが、奴らには討伐難度を例外にしなければならないほどの特性がある。
それが感染と増殖。
サイレントウォーカーの攻撃を受けてしまうと特殊な毒により瞬く間に奴らの仲間となり行動を共にするようになる、その後12時間後までに解毒できないと死に、完全に彼らの仲間に堕ちてしまう。
ゆえにサイレントウォーカーは一人が二人に、二人が四人に、四人が八人にと、初期対応をまちがえるとその数を爆発的に増加させていく。
倒しても倒しても無限に増え続ける終わらない悪夢。
大袈裟な話ではなく、小さな村や町でサイレントウォーカーを十体見かけたらもはや災害だといわれているほどだ。
それが今、僕の眼下に五十体以上はうごめていた。
「今のところは大丈夫かな」
夜、僕は宿屋の二階にリスタル、カーネリアと連れ男のシディ、それに宿屋の従業員たち三人と立て篭り、様子を伺っていた。
階段に手当たり次第の家具を置きバリケードを築き、この部屋の扉の前にはベッドを戸が開けられないようにしている。
これだけ固めれば、しばらくはこちらに侵入することはできないだろう。
「……なんで、この街に、こんなに」
サイレントウォーカーは埋葬出来なかった遺体が魔物となると言われているので、本来は都市には出づらいはずなのだが、いったい何があったというのだろうか。
「こんなことは生まれて初めてです……貴方達が声をかけてくれなかったらどうなっていたか」
「いえ、まだ油断できません。彼らは知能は低いが工夫はしてくる」
僕の言葉に宿屋の店主がぶるりとわが身を震わせた。
おそらくサイレントウォーカーに襲われた想像をめぐらせてしまったのだろう。
こんな状況だ無理もない。
正面から当たれば、僕やリスタルならサイレントウォーカーの攻撃を受けることはないだろう。
だがまれに熟練の冒険者でも対策ができないような奇策を使うものもいる。
油断して傷を負ったら、それで終わりなのだ。
彼らを打ち倒すには人数を集め、何もさせないうちに遠距離から魔術などで攻撃をするのが効果的だ。
ギルドと連携し、多方面から冒険者を集めてからの制圧が、おそらく最善の策だ
なんとか冒険者ギルドに連絡が出来ればいいのだが宿屋の周囲だけでも五十体以上いる現状を考えれば、街中にはそれ以上にサイレントウォーカーがいると判断した方が良いだろう。
もし町全体に彼らがいるならば取れる手段は限られてくる。
僕らでなんとかできるのか……?
そもそも町全域にサイレントウォーカーが徘徊しているなら、もはや詰みなのではないだろうか。
焦りからだろうか、考えが堂々巡りする。
「ラルド、落ち着いて」
「リスタル……」
「解決しなくていい、ただ何ができるか確認していきましょう」
僕はその言葉に落ち着きを取り戻そうと、一度深く呼吸した。
たしかに僕らに出来ることは限られている。
だけど何もしないで死んでやるのは、納得できない。
「うん。まずは武器になるものを確認していこう」
改めて、僕はサイレントウォーカーに立ち向かう覚悟を決めた。
その後、僕の指示で各自、自分の武器や箒や包丁など武器なりそうなものを床に並べていった。
「これも使いましょう!」
「お嬢いいんですか?」
カーネリアがシディの鞄から売り物だった剣を床に広げる。
白い刃が8本、ところせましと並んでいた。
「カーネリア、この剣売り物じゃ……いいの?」
「死んだら金勘定はできないのよ」
ためらう僕にカーネリアは諦めたような、呆れたような顔をした。
どうやら遠慮はいらないようだ。
「分かったありがたく使わせてもらうよ」
「絶対切り抜けるわよ。私はあんたのスポンサーなんだからね。ここでお互い死ぬわけにはいかないじゃない」
この剣があればいろいろと心強い。
この後で合成をして戦力を増強しておこう。
これで武器は一通り確認できた。
「次に必要なのは情報だ。リスタル、頼める?」
「任せて」
銀色の髪を揺らしリスタルはうなずいた。
「冒険者ギルドの状態と、サイレントウォーカーの主な進行方向。あと生存している冒険者が居れば声をかけてほしい」
「分かった。行ってくる」
白い刃の剣を二本と愛剣を携え、リスタルは窓から向かいの店の屋根に飛び移った。
僕らのフォローしなければならないという足かせがない分、単独行動のリスタルは恐ろしく強い。
きっと、うまく立ち回るだろう。
「さて、これで……」
僕は窓から下を見る。
今のところ、サイレントウォーカーが宿屋に押し入ってくる気配はない。
合成を進めるなら今のうちだと僕はカーネリアの剣を手に取った。
ガネットは人に見せるなといったが、今はそれどころではない。




