第三十話 管理協会と遺跡の紋様
注意 後半にちょっとえぐい表現があります
第三十話 管理協会と遺跡の紋様
翌日、リスタルとカーネリアは別行動をするとのことで、僕はガネットを担ぎ、伝説の剣の管理協会に前にやってきていた。
「思ったよりも大きいな」
僕の目の前には人が住むには不自由だとおもわれるほど巨大な石造りの建物。流石、多くの伝説の剣を管理している協会の本部だけあって威厳と歴史を感じられる。
多くの伝説の剣を管理している以上、ここ以上に伝説の剣の知識が集まる場所はないだろう。
ここならば、ガネットを修理する方法があるかも知れない。
僕は鞘に入ったガネットを担ぎ直し、中に入ることにした。
人が何十人もの収まるだろう室内、それを彩る荘厳さを感じる内装、中央には儀式を行うための台座、その台座を囲うように水路が入り口へと続いている。
パッとみた感じ、広さこそ違えど、中の作りは以前僕が儀式をした場所とほとんど変わりなかった。
町が違うからと言って設備が変わるようなことはないらしい。
むしろこの施設を模して各支部ができているのかもしれない。
「すみません、どなたかいませんか?」
僕が声をかけると、奥の部屋から男が一人、ゆったりと現れた。
小太り気味の男だ。年も僕の倍ぐらいはあるように見える。身に纏っている衣装から察するにおそらく管理協会の人間だろう。
「何か御用で?」
男は目を細めこちらを見定めるようとしてくる。
そこまで警戒しなくてもと、僕は困惑したが、もしかすると儀式でもないのに冒険者が来る事は稀なのかもしれない。
「実はこの剣はなのですが――」
僕は伝説の剣を修理する手段を探しているとガネットの正体は伏せ、事情を話した。
管理協会の男は静かに首を横に振った。
「お気持ちはわかりますが、形ある物はいつか砂に還るもの。諦めて新しい剣を手に入れるべきです」
「そんな。せめて何か資料とかないんですか」
「……ありません。もしあなたがその気ならば明日執り行われる儀式に参加してみてはいかがですかな?」
その後も何度かやりとりをしてみたが、答えは変わらず、「修理はできない。次の剣に替えろ」というものだった。
「……分かりました。出直してきます」
「また、よろしくお願いします。あなたに剣の導きがあらんことを」
このままではなんの進展も得られないと判断した僕は、一度管理協会から退散することにした。
その時、ふと出口そばの水路に彫られた模様が目に入った。
幾何学に細い線で作られた模様。
回路図とガネットが呼んでいたその模様は、彼女と出会った遺跡の壁に刻まれていたものと酷く酷似していた。
「これは?」
「いかがしましたかな」
僕がじっと水路を眺めていたのが気になったのか、先程の男が近づいてくる。
「いえ、この建物って古くあるものなのですか?」
「ええ、約600年ほど前から建っていたと伝えられていますよ」
その言葉は僕に閃きを走らせた。
男の口ぶりから600年ほどこの管理協会では伝説の剣を管理していると思われる。
だが、水路に刻まれていた紋様は明らかにガネットの時代のものだ。
そうなると考えられるのは、古い時代の遺跡の上にこの建物は建てられたということだ。
もしかするとこの下にはガネットが生まれた時代の遺跡があるのかもしれない。
「ありがとうございます」
あとでもう一度探りを入れてみようと僕は管理協会を後にした。
―――――
管理協会を去った冒険者を見送り、男は踵を返し奥の部屋に戻った。
「よろしかったのですか」
「もちろんだよぉ。ボクの目的はぁ、あの人の復活だからねぇ」
白い肌の女性がさもおかしそうに笑みを浮かべる。
男は恭しく、頭を下げた。
それはさも神をあがめるかのように。
「ううんぅ、でも、君は本当に面白いねぇ。なかなかにボクの好みだよぉ」
白い肌の女性は面白げに振り返る。
そこにあるのは死体の山。
すべては管理協会に仕えていた人間たちであった。
「いいえ、私の一族の使命を果たしたまでです。ラズワード様」
白い肌の女性、ラズワードは死体に近づき、それを貪り始めた。
白い肌が赤黒く染まっていく。
男はそれがさも当たり前のように、彼女を眺めていた。
「望みは命だったっけぇ。永遠に続く命」
「はい」
「ボクは約束は守る方だよぉ。おいでぇ」
男はラズワードに近づいていく。
男の一族は、ある女神の心棒者だった。
彼女が現世に現れたときに備え、彼女の脅威となる伝説の剣を管理し、今日に至るまで伝説の剣を渡す冒険者を選定し、人類と魔物のパワーバランスをコントロールしてきた。
すべては遠き日の約束のため。
永遠の命、それを手に入れるため。
男は、妻を、子を、仲間を、友を、すべて殺した。
すべてはこの一瞬のため。
ラズワードは死体から青い水晶を生み出し、男の胸に埋め込む。
「君にふさわしいのは群れ。個を潰しただけじゃ終わらない永遠のパレード。そのパレードそのものになれば君の命は永定される――【融合】」
叫び声すら上げず、ただ静かに、男は魔物になっていった。




