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第二十六話 移動商人

第二十六話 移動商人


「うわああああ、魔物が来るぞ!!」

「全員、荷物を盾にしてください!」

「馬鹿! 命より大切な商品を盾にできるか!」

「こっちの防衛は何とかする。頼めるか冒険者」

「やってみます!」


 流通都市タイズのすぐそば、僕とリスタルは魔物に襲われている商人たちの助けに入っていた。

 僕が見上げると、そこには巨大な翼を携えた魔物が一匹、縦横無尽に空を飛び回っている。

 怪鳥タイプと分類されるそいつは人ひとりを簡単につかめてしまうだろうかぎづめを持ち、僕の背丈の倍はあるだろう巨大な翼から自在に空中制御を行い、空から何度も強襲の機会をうかがっているようだった。

 討伐難度Cグラスクロウ、聞いたことはあったけど、実際には初めて見る魔物だ。


「ラルド、そっちに送る」


 グラスクロウを誘導する目的で、リスタルは魔術で氷の矢を放った。

 空中を旋回するグラスクロウはリスタルの放った氷の矢を回避し、飛び道具を使う彼女を警戒し僕のほうへと急降下してくる。


「分かった」


 空から急降下してくる魔物に僕は軽く右手の剣を振った。

 その一撃に、グラスクロウは鋭く旋回し、僕の剣を回避しようと動く。

 

 リスタルの訓練を思い出す。

 彼女はこうして回避先を誘導し、空いた手で次を振り抜き、攻撃を確実に当ててくる。

 戦いとはつまるところ削りあいだ。

 少しだけでもいい、相手に確実にダメージを与えることが大切なのだ。


 僕は回避するグラスクロウに合わせ左の剣を動かそうと力を込めた。

 だが剣は重く、うまく振りぬくことができない。


「だけどっ! 当てるだけなら!」


 僕はスキルを起動し何とか左手を持ち上げ、グラスクロウの逃げる先に剣を添える。

 掠って少しでもダメージが入ればと思ったのだが―――


「あ、あれ?」

「―――――ゥ!?」


 グラスクロウの絶叫が上がる。

 僕の剣は掠めただけだったが、あっさりとグラスクロウの翼を切り落としていた。

 まるでパンに包丁を入れるぐらいの軽い手ごたえだ。


「えー……」


 翼を失ったグラスクロウは地面に墜落し、立ち上がろうともがき続けている。

 なにかいたたまれない気分になりながらも、僕は蹴られないようグラスクロウの背に回り、首を刎ねた。

 グラスクロウは二度ほど体を跳ね上げ、その後動かなくなった。


「ラルド、お疲れ様」

「なんというか、ちょっとこれは戦いが終わった気がしないね」


 改めて左手に持っていた剣を確認する。


―――――――――――――――――――

鉄の剣


【石穿ち】【切れ味上昇++】【岩石断ち+】【鑑定:鉱石+】

―――――――――――――――――――


 調子に乗って合成しすぎたかもしれない。

 この剣は強すぎると、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「ありがとうございます。冒険者さん」


 僕のが剣を収めているところに商人の一人がやってきていた。

 僕と同じぐらいの背丈で大きな鞄を背負った女の子だ。

 赤い髪を後ろでまとめ、ぱっちりとした瞳と笑顔が快活な印象を与えてくる。


 移動商人はみな体力のある男の人がやると思っていたので、ちょっと意外だ。


「あたし、移動商人のカーネリアって言います。ところで、その剣見せてもらってもいいですか?」


 そういうとカーネリアと名乗った彼女は視線を下げ、僕の腰に下げてある左手用の剣を見つめていた。

 なるほど、先ほどの威力を見て、どんなものを使ったのか気になるのだろう。


「見せるだけなら、手渡しなんかはできないけど」


 どんなスキルが付与されているか見られるとちょっとまずい気もするが、あまり邪見に扱うのも悪いと思い僕は剣を抜いて見せた。

 手渡すことはせず、その場で彼女が見えるように右手を添えて刀身を持ち上げる。


「む、むむ……これは……!」


 真剣な顔で刀身を見るカーネリア。

 だが、徐々にその表情が厳しいものになる。

 どうしたのだろうか?


「クソ―、貴様商売ガタキか!!」

「え!?」


 バッと、顔を上げたかと思うと、カーネリアは突然、僕の顔面めがけて拳を突き出してきた。

 下手に動いたら剣を振り回してしまい、彼女を傷つけてしまうかもしれない。


 僕はどう動くのか咄嗟の判断をためらった。

 結果、僕は彼女の拳をよけそこない盛大に吹き飛ばされた。


「うわあああん」


 どう考えても僕は悪くないと思うのだが、なぜかカーネリアは泣き出してしまった。

 新手の盗賊か何かだろうか、なにこれ、この状況、どうしろというのだろうか。


「あいたた……」

「ラルド、大丈夫?」


 リスタルを始め、先ほど守った移動商人たちも次々にこちらに集まってきた。


「あの……うちのお嬢がすみません。もしよかったら事情だけでも聞いてはいただけませんか?」


 商人の男は、手慣れたようにカーネリアをなだめながら、僕たちに頭を下げた。

 僕とリスタルはお互いに顔を見合わせた。


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