第十八話 両手起動
第十八話 両手起動
翌日、僕たちはギルドから発注された同じ依頼を受け、魔物の討伐に乗り出した。
二刀流での初めての実践だ。
だが、それは困難の始まりでもあった。
「――――っ!!」
「さあ、こい!」
僕が対峙しているのはフォレストウルフの亜種である赤毛のマウンテンウルフという犬系の魔物だ。
マウンテンウルフへ山暮らしのためか脚力が強く跳躍力が高いのが特徴の魔物だ。
逆に旋回性能はフォレストウルフより弱く、対峙してみると直線的な攻撃が多い。
この敵ならばいろいろ試すことができそうだと、僕は戦いを挑んだのだが……。
とびかかってくるマウンテンウルフに対し、僕は軽く横に飛び攻撃を避ける。
片手持ちであれば本来回避の補助に空いた手が使えるのだが、二刀流ではそれができず、地面に倒れ込むような回避はできない。
なので、このようにギリギリ避けるように相手の行動をしっかりと見切らなければならなかった。
「ラルド、慌ててマルチスキルなんて使うんじゃないゾ! ボンだゾ!」
「く―――!」
両手での別々のスキルの起動させる作業は、想像以上に難易度が高く、先にスキルを起動させ、別の手の剣で二つ目のスキルの起動させようとすると、起動中のスキルに意識が向かず止まってしまいそうになる。
スキルの起動に失敗した僕はマウンテンウルフのとびかかりをもう一度避け、剣を構えなおした。
「フォロー入る?」
「あと、1分待って!」
右手にはメイン攻撃用の【毒性付与】が備わった剣、左には【敏捷性強化】のスキルが備わった剣。
イメージ通りにできるのなら、左手のスキルで機動力を高めた上で、右手の剣でスキルを起動しマウンテンウルフに傷を負わせられるはずだ。
大丈夫だ。しっかりとイメージを持って……!
「まずは左手【敏捷性強化】!」
スキルの起動を確認し、僕は地面を蹴る。
突然の加速に、マウンテンウルフは狙いを違えたのか、攻撃をせず、すれ違う。
僕は、なるべく小さく旋回し、マウンテンウルフを視界に収める。
このタイミングだ。
「右手【毒性付与】」
イメージする。命令が右手を通り、剣に伝わる。
左手の指示は継続したまま、右手に意識を切り替える。
かちりと意識がかみ合い、右手のスキルが起動を確認。
左手のスキルも問題なく常駐起動している。
「これでっ!」
僕は大きく踏み込み、右手の剣をマウンテンウルフに振るった。
【敏捷性強化】で底上げされた踏み込みにマウンテンウルフは対応しきれなかったようで、僕の右手の剣はマウンテンウルフに浅い傷を負わせた。
軽く傷を負い、僕から距離を取ったマウンテンウルフは、二度ほどうなり声をあげ、毒が回ったのか気を失い動かなくなった。
「できた……!」
僕はスキルを解除し、一息つく。
だがこれはまだまだ初歩の初歩だ。
伝説の剣のスキルは以前ジェードが使ったように単独でも同じ剣の中で2つ、3つと多重起動ができる。
僕が想定しているのはその先、両手での多重起動だ。
まだ複数のスキルが付いている剣は持っていないけど、それができれば、リスタル以上の攻撃力やみんなの支援などいろんなことができるはずだ。
この技術がどこまで通じるかわからないけど、きっと人類未踏の地の探索にも役に立つ。
僕は自分が強くなったことを、少しだけ手ごたえとして感じていた。
それから数日間の僕はリスタルから二刀流そのものの基礎を教えてもらいながら、両手起動を確実にこなせるように依頼をこなし魔物を倒し続けた。
数が数なので、時には合同で複数パーティとして、時には三人で。
そうして大体一週間が経ったころ、事件は起こった。
時刻は朝、僕たちは冒険者ギルドに立ち寄り今日の依頼を決めるところだった。
「頼む! お前の剣を俺に譲ってくれ!」
僕の前にディアンが現れ、彼は開口一番におかしなことを言ってきた。
いくら『金緑石の集い』の看板を奪ったとはいえ、僕は元『金緑石の集い』から資産や武器はもらっていない。
大体ディアンほどの冒険者なら、伝説の剣の儀を受ければ再び剣を手に入れられそうなものだが。
「僕の剣を使いたいだなんて、そちらの剣を使えばいいじゃないですか」
「それが、その……抜けなかったんだ……」
ディアンはぽつりとつぶやいた。
僕は目が点になった。
「え?」
「だから! 抜けなかったんだ! お前どうやって手に入れたかは知らないが何本も伝説の剣を持っているのだろう! ズルいじゃないか。そんなにあるのなら俺に一本くれよ!」
逆切れして開き直られた。
どうやら、二刀流の練習だと、ほかのパーティにもうかつにいろいろ見せすぎてしまったのが原因のようだ。
今のディアンの姿は哀れではあるが、その物言いは人にものを頼む態度ではないし、ただただ不快であった。
「ラルド、殴っテいいカ?」
「……ややこしくなるからちょっとまって」
ぐるぐると腕を回してガネットが鼻息を荒くする。
リスタルも敵意を隠そうともせず、ディアンをにらみつけていた。
ディアンもさすがに空気を察したか一歩後ずさる。
「な、なんだよ……なんでお前ら、俺は―――」
「これはラルドが努力して手に入れたもの。あなたのものはない」
「くそっ……この! ちっ!!」
彼女の表情に、忘れていた彼女の異名のことを思い出した。
リスタルの水晶姫という異名は強さだけでなく、その視線の冷たさ、敵に対する冷静で冷徹な態度に由縁している。
僕も初めてリスタルとの訓練を始めたときは心の底から震えあがったものだ。
そんな彼女のにらみを受けて、黙ることしかできなかったディアンは悪態を引っ込め、しぶしぶそうにギルドから出て行った。
「彼も……スキルに頼り切りだったから」
「それは確かに厳しそうだ」
僕には少し彼が哀れに思えた。
自分の策に溺れたとは言え、愛用の剣を失った彼はこの後どうなるのだろうか。
僕はギルドから出ていくディアンの小さくなった背中を見ていることしかできなかった。
僕にも僕の目的がある。
そのための戦力はどれだけあっても足りない。
それに僕の持っている剣はどれもモンスタースキルという未知のスキルが付いている。
たとえ理由があっても何が起こるかわからないものを他人に渡すわけにはいかない。
「ラルド、今日は護衛して何か報酬を貰おウ、そシて新しいスキルを見つけよウ!」
「確かに、ちょうどいいのがありそうだ」
ギルドでのひと悶着を終え、僕たちは今日の依頼に向かうことにした。
しかし、ディアンはどうして今になって僕らの前に現れたのだろうか。
ふと気になった僕が考えはギルドに駆け込んだ冒険者の言葉でかき消された。
「大変だ! 森の向こうから大量の魔物が町に向かっている! 魔物の大移動『本隊』だ!!」
男の言葉にギルド内はざわめいた。
2022/1/25
誤字報告をいただきました。
ありがとうございます!




