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第十四話 決闘!

第十四話 決闘!


 やはり対策をしてきた。

 僕がジェードに対して抱いた最初の感想はそれだった。

 まさか竜級の伝説の剣を持ってくるとは思わなかったが、リスタルの予想が当たっただけなので、特別焦ることなく、僕はじっくりとジェードとその周りを観察する。

 やることは変わらない、まずは相手のスキルの把握からだ。

 

 右手に剣を握り、体を左に移動させながら、徐々に間合いを図っていく。

 左手は魔術を使うために空けておく。


「へっへっへ、てめえが何をしようが俺様は倒せねえよ。攻撃して来いよその瞬間がお前の最後だ」

「……」


 ニタニタと怪しげな笑いを浮かべ、ジェードは僕の動きに体の向きを合わせてくる。

 これまでの彼の行動からてっきり即座に攻撃してくると思ったのだが、少し予想を裏切られた。

 明らかに、何かを狙っている。


 お互いの距離は五歩の程度。あと少し前に出れば剣での攻撃が届くだろう。


 素直に彼の言葉をうのみにするなら、カウンターを狙っている。

 だが、さすがにそれだけではないはずだ。

――しかたない、出方を見てみるか。


「矢のごとく飛べ、炎!」


 僕は左手を伸ばし魔術の炎を飛ばしてみた。

 ただしこれは、当てない。けん制の魔術だ。ジェードもそれを見抜いたのか微動だにせず炎をやり過ごした。


 僕は次の彼の動きを警戒する。

 もしジェードの剣に遠距離系のスキルがある場合、奇襲を警戒したほうがいいだろう。

 だが、しかしジェードは何もしてこない。

 手札を隠しているのか? だとすると思った以上に厄介な相手だ。

 僕が警戒を強めていると、突然ジェードが怒鳴りだした。


「て、てめぇなんだそれは! 今何をしたんだ!」

「え……? 魔術を使ったんだけど、習わなかったのか?」


 なにが気に食わなかったのか、ジェードは顔を真っ赤にした。

 よく見ればなにやら焦りからか汗が浮いている。いやいや、まさか。僕を油断させる演技の可能性もある。

 何せ、竜級の伝説の剣だ。どんなスキル飛び出してくるのか分からないので、油断は禁物だ。


「卑怯だぞ。そんなもん使っているんじゃねぇ!?」


 剣を振り回し子供の様に騒ぎ出す。

 決闘中になんでこんな……何かの作戦か?


「こ、この戦いでは魔術の仕様は禁止する!!」

「ええぇぇぇ!?」


 突然観客席からディアンの慌てた声が響いてくる。

 魔術だって立派な技術だと思うんだけどな。

 まあ、審判もどうせ『金緑石の集い』がかこっているのだからごねても仕方ないか。


「分かった。魔術は使わない」

「ヒャッハッハ、聞き分けがいいじゃねえか! お望み通りすぐに地獄に送ってやるぜ嘘つきが!」


 どうでもいいけど、その嘘つきというのは本当にやめてほしい。


 さて、どうしたものか。おそらく近接攻撃に対してカウンターが狙いなんだろうけど、それがわかって飛び込むのはさすがに愚策だ。

 こう言う時は相手を焦らして待つのが一番なんだろうけど、ディアンがルールを握っている分、それも許されないだろう。


 ――結局は攻撃するしかないか。様子見だからなるべく軽く、攻撃後もすぐに動けるように気を付けていこう。


 僕はどう攻撃をするのか決め、足の指に力を入れた。

 一歩目で助走をつけ、次の一歩で大きく一歩踏み込む。

 すると、するりとジェードの懐に入れたので、僕は自分の剣を横なぎに振るう。

 さすがに急所に向けて刃を向けるのはためらうので、刀身の側面を当たるように――。

 

「はっ?」

「あれ?」


 見事にジェードの腹に僕の剣がめり込む。

 それはもうこれでもかってぐらい見事に。

 ……刃を当ててたら間違えなく真っ二つだったぞ。どうなっているんだ?


「ぐおおおおお!? ば、馬鹿な!? なんで! いてえええ!」


 僕の一撃にうずくまって痛みに耐えるジェード。

 その姿を見て、躊躇いながらも念のため一度距離を取った。


 数秒して、息を荒げながらも、ジェードが立ち上がる。

 どうやら【強化自動治癒】の類があるみたいだ。 


 まさか僕が切りつけてこないことも想定した上で、剣を受けたのだろうか。困惑してあそこで立ち止まってしまったらジェードから反撃を受けてしまっていたかもしれない。

 ジェード、恐ろしい相手だ。


 こちらとしては相手のスキルが一つわかったが、この手なら僕にダメージを与えやすく、あわよくば僕を仕留めることができる。

 しかも【強化自然治癒】を持っていることがばれたところでジェードとしてはマイナスがほとんどない。リスキーな選択だが、回復スキルがあり、初見殺しが狙える今の現状ならありだと思わざる負えない。

 

 なるほど攻撃してこいというのはこう言うことか。


 現存する伝説の剣だとどれだけ多くてもスキルは五つまで、それ以上スキルが付いている伝説の剣は見つかっていない。

 そう考えると、竜級の剣であること加味してあと四つはスキルがあると警戒したほうがいいだろう。


 だが見るからにジェードが痛そうだ。

 手応えから、もしかしたら骨にヒビが入ったのかもしれない。


「だ、大丈夫か? ジェード」

「う、うるせええ!! 俺様にぶっ殺されるてめえが俺様の心配をしているんじゃねぇ!!【剣術神髄】!!」


 これで二つ目。どうやら【剣術】系のスキルの最上位のもののようだ。


 スキルを起動したジェードが剣を両手持ちにし、上段に構えを取る。

 どうしよう、すごい隙だらけだ。これは絶対にカウンターを狙っているはず。


 と、思ったらジェードはそのままドカドカと僕に向かって突進してきた。

 僕は反射的にがら空きの腹をさきほどと同じように剣で殴ろうと、攻撃を繰り出した。


「それを待っていたぜ! 【強度強化】プラス【疾風剣】プラス―――!」


 今度は剣を振り下ろすようで僕はすぐさま剣を引っ込め、構えから太刀筋を予測、身をひねって、横に飛ぶことでジェードの攻撃の範囲から外れる。

 僕の行動のやや後で、ジェードの剣が振り下ろされる。

 【疾風剣】と【剣術神髄】で強化されたからか、振り抜かれた剣が轟音と共に地面をえぐる。

 だが僕は回避した。というか、僕が動いたあと、ワンテンポ遅れてジェードが振り下ろした感じになっていた。


「クソ! てめぇなにしやがった」

「回避しただけだけど」

「なんでこの速度の斬撃が!! このやろう!!」


 もちろん剣が動き出してから避けようとしても避けられない。

 だから相手の構えや予備動作からどう動くかを予測する。

 これは一番最初にリスタルから教わった、一番大切な技術だ。


 剣を持ち上げ、次は横なぎに払おうとしたのか、腰だめに剣を構えるジェード。


 僕は剣の長さを想定し、大きくに後ろに飛ぶ。


 突風と共に会場全体に届くのではないかと思わせる風切り音を聴きながら、僕はジェードの剣を回避した。


「くそおおお!! なんでなんでなんで!」

 

 ブンブンと剣を振り、ジェードは距離を作る。

 流石に超高速の剣撃に飛び込むのは、リスクが高いので僕も仕切り直すように距離を置いた。


 これであの剣のスキルは四つ分かったのであと一つだ。

 だが最初のけん制や途中の行動を見る限りリスタルの話とは違い、ジェードは恐ろしくクレバーなやつなのかもしれない。

 正直、これまでの行動があまりに雑すぎて、すべては最後のスキルを決めるための布石である可能性を僕は捨てきれないでいた。


「ラルド……てめぇ、スキルを使っているだろ!」

「使っていないよ」

「ふざけるな! じゃあなんで攻撃が当たらないんだよ! おかしいだろ! その剣だ。その剣に細工してスキルを使えるようにしたんだろ!!」

「……なるほど、そうくるか」


 僕が勝っても、スキルを使ったことになればそれは『金緑石の集い』が正しいことになってしまう。

 ここでこの話を持ってくるとはやはり、ジェードはなかなかに切れ者だ。

 タイミング的にもこれはうまい手だと僕は素直に関心し、ディアンに動かれる前に、僕は先手を打つことにした。


 僕は自分の剣を地面に置いた。

 この決闘で僕が勝つにはこれ以外の選択肢がなかった。


「わかった。そういうなら、この剣はここに置いておく」

「はぁ!?」


 驚くジェード、だが恐らく演技だろう。

 なにせジェードには最後に残したスキルがある。

 一方僕には、何もない。相手の剣を受ける剣でさえ。


 ジェードの最後のスキルが自然とけん制になり僕の動きに制約をかけてくる。

 これは、どう動くのが正解だろうか。


「やれ! ジェード! 今なら【剣術神髄】と【接触爆破】で押し切れるぞ!」


 外野からディアンの声が聞こえてくる。

 僕は唖然とした。


 この男はジェードが命がけで作り出してきた自分に有意な状況を全て無駄にしたのだ。


 もしかするとここまでが作戦なのかもしれないが、咄嗟にでたらめなスキル名が出てくるはずもない。


 それに【接触爆破】ならばジェードが先ほど僕に見せている。

 地面を破砕したのは威力を上げた剣撃ではなく、【接触爆破】の効果だとしたら……。


「……残念、だったね」


 剣のスキルをばらされ、優位を崩されたジェードに僕は同情した。 

 【接触爆破】は強力だがおそらく剣が当たらなければ意味をなさないスキルなのだろう。

 遠距離攻撃を嫌い、とにかく攻撃を当てることを狙った戦術をとるジェードの動き、すべては【接触爆破】を狙った動きだと考えられる。

 そう、すべてがかみ合った瞬間だった。


「な、何を言ってやがる!」


 僕はジェードに向かって駆け出した。

 ジェードはなぜか怯んだ演技のままで剣を振ってくる。


 リスタルとの訓練はいつも無手だった。大丈夫、避けられる。


 僕は姿勢を低く保ち、ジェードの縦切りを誘う。

 ジェードはそれの誘いに応じ、渾身の一撃を振り下ろしてきた。

 リスタルの斬撃よりも早い、スキルのこもった神速一刀の斬撃。

 だがしかし――どう剣が落ちてくるのか分かっていれば、避けられる。


 僕は体勢を軽く捻りジェードの脇をすり抜け、僕は彼の後ろに回り込む。


 全力で振り抜いたのだろう凄まじい風切り音と爆発音が響く。だが僕はもうそこにはいない。


「ラルドォて―――!!」

「ていっ!」


 僕は振り返ってくるジェードの顎に拳を当てた。

 僕の拳はパシンと小気味良くジェードの顎を打ち抜き、その結果ジェードはぐらりと頭を大きく揺らした。

 顎は人間の弱点の一つだ。キレイに当たると相手を動けなくさせてしまう。


「め、え――……」


 どさりとジェードが倒れた。

 僕はひっくり返してとジェードの様子を確認する。


 彼は白目をむいて気絶していた。

 どうやらうまくいったようだ。


 いくら傷がすぐに治るとしても、気絶させてしまえばそれ以上何もできないだろう。


 僕は、観客席のディアンをにらみつけた。

 ディアンは怒っているのか、何か言いたそうな顔で口をパクパクさせている。

 これ以上、何か言われる前に勝敗を決めてしまおう。


「僕の勝ちだっ!!」


 僕はディアンに向け声を張り上げ、勝利を宣言した。

 

「「「うおおおおおおおおお!!」」」


 会場に集まった冒険者は僕の宣言に湧き上がった。

 勝敗は決した。空気的に。


「ラルド、無事でよかった」

「めちゃくちゃな試合だったナ」


 通路で待機していたリスタルがガネットを手に駆け寄ってきた。

 彼女としゃべる剣を見たら緊張が解け、どっと疲れが噴き出してきた。

 でもまだだ。ちゃんとディアンには決闘の負けを支払ってもらわないといけない。


「うん、でもまだもう一つ残っている」


 僕はそそくさとこの場を離れようとしているディアンに叫んだ。


「逃げるな、ディアン! 僕との約束を守ってもらうぞ!」


 観客の目線がディアンに集中する。

 逃げることもできなくなったディアンはいら立ちを隠さないまま、振り返り、僕をにらみつけた。


「約束? ああそうだったな。卑しいやつめ! その竜級の剣でもなんでも持っていくがいい」

「そんなものはいらない!!」


 僕は決めていた。

 この決闘に勝ったら、ディアンは好きにするがいいといった。なら僕は―――。


「ディアンお前からは『金緑石の集い』の名前をいただく! 今後お前たちは『金緑石の集い』を名乗ることは許さない。ここにいる全員が証人だ!」

「は? はぁぁぁぁああ!?」


 名前はそのパーティの歴史そのものだ。

 それを奪われてしまえば、彼が引き継いだ名声も失われ、すべてを一からやり直しになりかねない。


「それでいいな! みんな!」


「「「うわあああああああ!!」」」


 状況はすべて僕に味方した。

 ディアンは何か言いたそうに顔を赤らめたが、この状況を覆す言葉が見つからないのか、逃げるようにその場を去っていった。


 すべて何とかなったと僕は肩の力を抜き、息を大きく吐いた。


「ラルドあなた……何をしたのかわかっているの?」


 声を掛けられ、リスタルのほうに振り向く。

 大きな瞳がぱちくりと瞬き、じっと僕を見つめてくる。 


「言わないで、もらったのはやりすぎたと思っているから」

「そう。でも、ラルドがリーダーになるならきっと『金緑石の集い』はよいパーティになる」


 リスタルは肩の荷が下りたみたいな柔らかな表情をしていた。

 でも僕にはそれが少し寂しそうな表情に見え、昨日彼女に言われたことを思い出した。


「それでリステルに相談があるんだけど僕のパーティに入らない」

「いいの?」

「うん、リスタルが良ければ一緒にダモンドを目指そう」

「ええ」


 僕の誘いにリスタルはにこりと微笑んだ。

 これでよかったのだと、その時になって僕はようやく実感した。


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