第九.五話 ジェードの初戦(sideジェード)
注意 ちょっと痛そうな描写があります。
第九.五話 ジェードの初戦(sideジェード)
俺様の目の前にには四頭のフォレストウルフが立ちふさがっている。
図体ばかりがでかい雑魚犬だ。
リスタルの話だと、あのラルドの野郎はフォレストウルフの群れを一人で撃退したという。
「だったらッ! 俺様だってできるはずだ! 死ねェ! 犬っころどもが!」
俺様はスキル【絶炎刀】を起動した。
スキルの起動に呼応し、俺様の剣は炎を纏う。
その炎に対しフォレストウルフどもが後退りするのを俺様は見逃さなかった。
戦いとは怯んだら負けの世界だ。俺様はすかさず目の前のフォレストウルフとの距離を詰め、その胴体をたたき切った。
「どうだ! 雑魚めが!ーー痛ッ!」
だが、残った三頭のうち二頭が俺の背後に回り込み、足を狙い、爪を滑り込ませてきた。
俺様に激痛が走り、足の腱がやられたのか足が動かなくなる。
「くそっ! くそっ! くそぉ!」
スキル【強化自然治癒】の効果が発動し、体は再生する。だがこのスキルは傷は治るが体力が回復するわけではない。
残り三頭……くそっ、この俺様が肩で息をさせられている。
絶対に嘘だ! あいつは嘘をついている! こんなやつスキルなしのあいつが一人で倒せるわけがない。
「だが! だが! 俺様は! 選ばれたんだ! 【火竜招来】!」
俺様はスキル【火竜招来】を起動させた。
俺の剣の炎が蛇のようにうなり、空へと登る。
そしてそのまま俺様は剣を横なぎに払った。
「死ねぇ!! ヒャッハァ!」
視界一面が炎で埋まる。
圧倒的な熱は草を焦がし、突風を生み出す。
【火竜招来】を駆使し、【絶炎刀】の範囲を広げ一気に薙ぎ払う。
これが俺様の剣の必殺技だ。
これの攻撃なら耐えることもできないはず!
炎が引き、俺は勝利を確信した。
「――――っ」
だがその核心はあっさりと裏切られた。
一頭を盾に炎をしのいだ二頭のフォレストウルフが足音を荒立たせてこちらに近寄り、俺様の肩に食らいついてきた。
押し倒され身動きを制限される。
肩をかみ砕かれる激痛に、俺様は条件反射で【強化自然治癒】を発動させていた。
「や、やめ、ヤメロォォ! クソ! グアアアアア!?」
癒しても、癒しても、奴らのキバを肩から抜くことができない。
もがいても、体を振り増そうとしても、地面に押し倒され、肩を砕かれ続ける俺に反撃の機会はもはやなかった。
「し、死ぬ! 嘘だ! 嘘だぁぁ!? ぎゃぁぁああああ!?」
再びの激痛。
とにかく剣を離してはいけない。
今、全力で稼働している【強化自然治癒】が止まってしまえば、瞬く間に俺の肩は引きちぎられてしまう。
それは数秒の後に俺様が死ぬことを意味していた。
とにかく、剣だけは! 剣だけはぁ!
「――まったく世話が焼ける」
凛とした声とともに、音もなく一陣の冷たい風が吹き抜けた。
その風に当てられ、俺にかみついていた狼の動きが凍り付いたように止まった。
「な、なに、が……」
徐々に癒えていく体が冷気を感じ取る。
これはリスタルの伝説の剣のスキル【氷結華】だ。
切りつけた相手の体温を根こそぎ奪い取り、凍らせ殺す必殺の一撃。
俺にかみついた姿勢のままの凍り付いたフォレストウルフたちは戻ってきたリスタルの蹴りで粉々に砕け散った。
「お……おお、リスタル! 助かったぜ」
「……はぁ」
さすが俺様の女。
本人は否定しているが、それは照れ隠しだと俺は知っている。
当のリスタルは銀色の髪を整えて、物憂げな表情で俺を見つめてきた。
「スキルに振り回されているわね」
「そんなことはねぇ! 俺のスキルは完璧だ。さっきのは油断だ。油断さえなければあんな雑魚!」
「……」
はぁというため息とともに、じっとりとした表情でリスタルが俺様を見てくる。
熱い視線だ。俺様の最高の伝説の剣に嫉妬しているのだろうか。
「……どうして、ラルドじゃなかったのかしら」
リスタルがぽつりとこぼした一言は俺様の胸の底に届いた。
どす黒い感情が湧きあがり、その感情のまま俺様は声を荒げた。
「なんだよラルド、ラルドって! あの不能者がそんなにすごいのかよ!」
「……あたりを見なさい。この周囲にある不自然に巨大な石。これはストーンゴーレムのものよ」
「ぐう……!」
気が付きもしなかった。周囲を見渡すとリスタルの指摘通り、不自然に巨大な石があちこちに転がっている。
ラルドがストーンゴーレムを倒したとまざまざと見せつけられ、俺様は心の底から怒りが湧き上がってくる。
馬鹿にしやがって、伝説の剣に選ばれた俺様のほうが強いに決まっている。
コケにしやがって、伝説の剣に選ばれなかったお前がこんな事できる訳がない。
リスタルも、冒険者ギルドのやつらも、だまされているんだ。そうだ、そうに違いない。
「ラルドォ。お前の嘘を暴いて、俺様がお前より優れていることを証明してやる……!」
「そんなことよりも、あなたはもっと基礎を身に着け――」
「――うるせぇ! うるせぇ! 俺のスキルがあれば、どんな奴にも負けるわけない!」
その言葉にイラついた俺は手に持った剣を彼女に振り下ろしていた。
ギィンという金属音、リスタルは自身の剣で、俺に剣を受け止める。
彼女の氷のような瞳に俺が写った。
「負けるわよ。確実に、少なくともあなたが雑魚と蔑んだラルドには絶対に勝てない」
「―――――ッ!!」
激情の炎が言葉にならない声を生み出す。
ラルド、ラルド、ラルド! あの男の何がいいんだ!
そうか、そうだ! リスタルは騙されているんだ。馬鹿な女だ。俺が目を覚まさせてやらないと。
「ならあいつを俺が殺してやる……!」
そうして俺様は地面に転がる凍ったフォレストウルフの頭を踏み砕き、町に戻ることにした。




