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第一話 後ろの人が伝説の剣を抜きました

第一話 後ろの人が伝説の剣を抜きました。


「どうやら伝説の剣はあなたに応えなかったようですね」

「え、うそ――――」


 それは、すべての努力が無駄になった瞬間だった。

 ここは伝説の剣を管理している教会。

 管理者の神官に儀式の失敗を告げられた僕は力なく台座から降りた。


「どけ! 次はオレの番だ!」


 同じパーティの男が僕を押しのけ、台座に刺さった剣に手をかける。

 そして僕が抜けなかった剣をあっさりと引き抜いた。


「うおおおおーー、抜けた! 抜けたぞ!! 俺が伝説の剣に選ばれたんだ!」


 剣を掲げ叫ぶ男をその場のすべての冒険者が注目した。

 わずかに赤く反射する刀身は煌めき、彼を祝福しているようだった。


 この世界にはいつのころからか百万もの伝説の剣が存在していた。

 それは一振り、一振りに逸話とスキルを備えた、選ばれた者のみが振るうことができる伝説の剣なのだ。

 その威力は絶大で炎の海を生み出すことも、また剣によっては氷の山を築くこともできる強力な武器。


 魔物が人を襲う今の時代、その力は人々に必要とされるものだった。


「よくやったぞ、ジェード! それで、それは何のスキルが使える剣だ?」

「【剣術極意】【炎竜招来】【絶炎刀】、こいつはすげぇや、レアスキル【強化自然治癒】まで! さすが鬼級の剣だ! 強力な戦闘スキルだらけだぜ」

「よぉし! いいぞ! これで戦力増強だ!」


 パーティのリーダーは喜々として伝説の剣を抜いた男、ジェードを褒めたたえている。

 もはや僕のことは眼中にない様だった。

 僕は肩の力を落とし、その場を後にした。


 そして、その夜。

 僕はパーティのリーダーに宿の前で呼び止められた。


「ラルド、あの剣を抜けなかった者に用はない。君にはすぐにパーティから立ち去ってもらう」

「その通りだとも! 雑魚は消えろ、あとは俺様に任せるんだな! ヒャッハァ!」


 言葉通りのパーティ追放の勧告を受けた。

 彼の隣には、先刻、伝説の剣を抜いたジェードという男がにやにやしながら立っている。

 どうやら彼は正式にパーティに選ばれたのだろう。

 それは残酷にも、僕の居場所がこのパーティには無いことを意味していた。


「……わかりました」


 事実として、僕は勧告を受け入れた。


「ならば荷物をまとめてとっととどこかへ行くんだな! はっはっはっは」


 高笑いを上げながらパーティのリーダーはジェードを連れて酒場へと向かっていく。

 僕はそんな彼らに何も言えず、静かに宿に戻ることにした。


 この日のために様々な訓練を積み、必死に戦闘技術を磨いてきた。

 だが、伝説の剣に眠るスキルを使うことができなければ、強力な魔物に対抗できない。


 剣に選ばれないということは、冒険者として必要最低限の戦闘能力を持つことができないということなのだ。


 僕は冒険者にはなれなかった。

 スタートラインに立つことすらかなわなかったのだ。


 その事実を背負い、僕は宿に戻った僕は荷物をまとめた後、ベッドに倒れこんだ。

 天井をじっと眺め、呆けた頭でぼんやりと考えた。


「さて、これからどうしようかな」


 世界を巡り、各地に点在する旧時代の遺跡を調査するためにあのパーティに加入した。

 けれどもそれはもうかなわない。


「あ、そういえば……」


 ふと、思い出した。

 今いる町から一日ほど歩いた先に、旧時代の遺跡があったはずだ。


 すでに多くの人の手が入った遺跡で、新人冒険者の訓練場のような役割の場所なので、おそらく新しい発見はないだろう。


 だがレベルの高い魔物が現れたという話も聞かないので、僕一人でもなんとか行けるかもしれない。


「最後に一度だけ、行ってみるか」


 どうせ冒険者になるという夢を手放すのなら、せめて最後に何か一つ冒険者らしいことをしてみたいと僕は準備を始めることにした。


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