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亜空間の戦士三部作書籍化 ーフラッシュ版ー  作者: 亜空間ファンタジー&弥剣龍
5/10

4スパイロボット

 御子(みこ)(がみ)静香は重い鉄の(とびら)を押して中に入った。

 螺旋(らせん)階段をするすると降りると天井の高い地下室に出た。

 薄暗い店内にはぼうっとした光が(うごめ)いている。両側の巨大な恐竜の頭部が牙を()いて()みつこうとする。目がぎょろぎょろ動いているのはテレビカメラになっているからか。

 (なつ)()(しん)()の中古ロボットショップ「ロボーグハウス」に人影はなかった。

 内部は外目(そとめ)よりはずっと広い。

 マニア向けの機動(きどう)歩兵(ほへい)装甲(そうこう)スーツが何列も並べてあり、扁平(へんぺい)な頭部を持つエイリアン、グロテスクな宇宙怪獣、棍棒を持った緑色の肌の原人などが今にも襲い掛かってきそうに手足や触手を動かしている。

 ステージでは裸体(らたい)のマネキン・ロボット達が時々思い思いにポーズを変える。色とりどりの明滅するライトが、壁龕(へきがん)(はい)されたスーパーヒーロー達を照らし出す。空中を浮遊しているUFO型のドローンが、偵察(ていさつ)機ように急に接近してはまた遠ざかる。

 豊富な種類のロボット製品は数え切れない––––––人間そっくりのレセプション用、建設作業用、重量運搬用、水中作業用、お掃除(そうじ)業務用、医療手術用、介護用、荒れ地走行用ロボット・ローバー、幼児型、ペット用のロボット犬やロボット猫、地面を()い回る蛇型、植物型、カブトムシやトンボなどの昆虫型。サーボモーター、アクチュエーター、電子脳、バッテリーパック、その他何に使うのかわからない多種多様なパーツが高い棚にぎっしり。

 よくもまあこんなに雑多(ざった)なものを集めたものだ––––––

 御子神静香はポニーテールにまとめた髪を()らしながら、ゆっくりと展示(てんじ)狭間(はざま)の通路を歩いた。

 ロボット達が各々のセンサーで静香の動きを追尾(ついび)しているのを感じる。ドローンは頭上から、壁面のスーパーヒーロー達は(なな)め上から、蛇型ロボットは床の高さから、様々な角度から全ての視線が静香に集中していた。展示を見て回っている静香よりも、展示されているロボット達のほうが、綿密(めんみつ)に静香のことを観察しているのだ。

 もしこれらのロボットが全部敵だったら、自分はどうやって戦うだろうか––––––

 そんなことを頭の片隅(かたすみ)で考えながら、静香は霊感を働かせて(ひそ)んでいる敵の()()(さぐ)った。

 二台か––––––

 想像していたほど数は多くなかった。

 と、あたかも静香の思念(しねん)を読み取ったかのように、西洋人形の少女が動きだし、ぎこちない足取りで近づいてきた。

 アンティークなピンクのエプロンドレスの愛らしさと、青ざめた無機(むき)(しつ)な表情とが、不気味(ぶきみ)なコントラストをなしている。

「ロボーグハウスにようこそいらっしゃいました。ロボットの修理の方は1を、購入または売却の方は2を、その他のご用件の方は3を押してください」

 人形の口が不自然に開閉し、録音された音声が流れた。

 首から下げたトレイに、1、2、3の赤い数字がディジタルで表示されている。

 青い焦点(しょうてん)の定まらない目が、人形が心を持たない作り物に過ぎないことを念押(ねんお)ししていた。

 しかし、静香の霊感は既に、いたいけなうわべを(よそお)っている人形の正体を見抜(みぬ)いていた。

 そんなまやかしには乗らない––––––

 御子神静香は和洋服(わようふく)(そで)から小太刀(こだち)を取り出した。

「それは何?」

 急に人形の声音(こわね)が変わった。録音ではない、電子(でんし)(のう)が発した音声だった。

「それはひょっとすると武器じゃないの?」

 静香は()ややかに微笑(ほほえ)んだ。

「私に何をする気?」

 危険を感じた人形の(うつ)ろな青い目が、邪気(じゃき)宿(やど)した赤い目に変った。

「正体を現したな」

「私はあなたに何かした?何もしてないでしょ」

「人目を(あざむ)くために無垢(むく)な人形の姿に偽装(ぎそう)したドミヌスのスパイロボット、(のが)しはしないぞ」

「私はスパイロボットなんかじゃない。何も悪いことはしていない。ただここで危険(きけん)分子(ぶんし)の監視をしているだけ」

「それが問題なのだ」

「公共性の高いドミヌスが社会のためにやっていることだから、何も問題などない」

「ものは言いようだな」

 静香は小太刀(こだち)(つか)に手をかけた。

「やめてっ!」

 突如、人形の手がカメレオンの舌のように伸びてきて、小太刀の(さや)(から)みついた。

 人口皮膚が引き伸ばされて千切(ちぎ)れ、チェーンのような金属の多関節が露出(ろしゅつ)した。(さら)にもう一方の手が同じように伸びてきて、金属の蛇のように静香の首に巻きついた。

 静香は予想していたと見えて少しも(あわ)てなかった。

 相手が逃げ回って他の商品に傷を付けないように、意図的に()()いを(しば)ったのだ。

 人形はもう逃げられなかった。

 静香は(さや)(から)まった相手の力を利用して抜刀(ばっとう)し、まず首に(から)んだほうの腕を()り落とした。

「ああっ、な、なんてことをするのっ!」

 そう言いつつ残ったほうの手は、(さや)を捨てて手元に戻ると、(やり)穂先(ほさき)に変形して静香の顔面を襲ってきた。

 静香は身を()らせて突きを()けた。

 かわされた槍の穂先は、シュルシュルと音を立てて巻き戻され、人形の腕に戻った。

 戻ると直ぐさま弾丸のようなスピードで第二撃を()り出してきた。

 静香はまた難無くかわした。

「まさか!人間のスピードではあり得ない!」

 人形はそう(さけ)びながら、(さら)矢継(やつぎ)(ばや)に攻撃してきた。

 静香は攻撃をかわしながら、首に巻き付いていた千切(ちぎ)れた腕を振りほどいて、飛来(ひらい)する生きているほうの腕に巻き付けた。人形は腕を引き戻そうとしたが、金属の関節同士がぎちっと()み合って動きが取れなくなった。

 静香がにんまり作り笑顔を浮かべた。

「やめてっ!」

 人形は懇願(こんがん)したが、静香の小太刀は残ったほうの腕も()()った。

(ゆる)してっ!お願いっ!私がここにいるのは正当(せいとう)な理由があるんだから!」

 両腕を切断されて攻撃力を失った人形は、まるで命乞(いのちご)いをする者のように金切(かなき)り声を上げた。

「私のほうにもお前を()る正当な理由がある」

 立ちすくんでいる人形に、静香はすたすたと歩み寄り、小太刀を(よこ)一閃(いっせん)。人形の首が床に(ころ)がった。

「ひどいっ、ひど過ぎる!」

 切り離された頭部はまだしゃべり続けた。

 静香は(あき)れた顔をして、叫び続けている人形の顔を見下ろした。赤く光っている目が激しく(しばた)き、耳まで割れた(あぎと)ががくがく動いていた。

 静香は首無しのまままだ立っていた人形の胴体を押し倒し、(ころ)がっている頭部を拾い上げた。

 小太刀で後頭部を斬り()いて中身をつかみだす。

 一辺が五センチほどの立方体だった。軽くて華奢(きゃしゃ)な箱はキラキラと銀色に光った。

「これがお前か」

人殺(ひとごろ)しっ!」

 電子脳が(ののし)った。 

 静香は黙ってそれを床に落とした。

「お願い、殺さないで!」

「もともと命なきものは、壊すことはできても殺せはしない」

 静香は(くつ)(かかと)で電子脳を粉々(こなごな)に()(つぶ)した。

 (さわ)がしかった人形はようやく沈黙(ちんもく)した。

 それを見た緑色(りょくしょく)原人(げんじん)がのっそりと動き出して通路に出てきた。

「次はお前か?」 

 緑色の肌に()げ茶色の体毛が生えたおどろおどろしい原人は、やや前かがみの姿勢で、それでも二メートルを優に超える巨体だった。床につくほどの長い腕に棍棒(こんぼう)()(こつ)が出っ張ったゴリラに似た顔つき。静香に向かって野獣のように()えた。

 こいつは言葉はしゃべらないようだな––––––

 床をずしずし()()らして向かってくる。振りかざした棍棒には禍々(まがまが)しい円錐形の(とげ)がびっしり植え込まれていた。

 静香は次の相手を冷ややかな目で(なが)めた。

 動きが鈍過(にぶす)ぎる––––––

 静香は柄頭(つかがしら)双竜(そうりゅう)(もん)環頭部(かんとうぶ)を百八十度回転させた。すると小太刀は長刀(ちょうとう)に早変わりし、白刃(はくじん)がきらきらとした光を発した。

 九頭龍卍(くずりゅうまんじ)(とう)の斬れ味を試すのにはよかろう––––––

 静香は無造作に相手の間合いに踏み込んだ。

 それを見た緑色原人は、全力で棍棒(こんぼう)を振り下ろした。

 静香の頭蓋(ずがい)(たた)()ったかと見えた瞬間、逆に原人の()き腕が棍棒ごと斬り落とされて床に落ちた。

 緑色原人は短くなった自分の腕を一瞬不思議そうに見詰(みつ)めた。

 飛燕(ひえん)(ごと)く飛び下がっていた静香の目が氷のように冷たく光った。

 原人は残った腕を振り上げて(おめ)き、遮二(しゃに)無二(むに)突進して巨体で静香を()びせ倒そうとした。

 それを待っていたように静香は高く飛んだ。

 白光(はっこう)とともに(すさ)まじい斬撃(ざんげき)が走り、緑色原人の頭蓋から股間(こかん)までが真っ二つに斬り()かれた。

 開きになった原人の体は、仰向(あおむ)けにどうと倒れた。 

 今度は内蔵されていた電子脳も奇麗(きれい)分断(ぶんだん)されていた。

 静香には造作(ぞうさ)もない試し斬りに過ぎなかった。

 環頭(かんとう)をもう一度ねじると霊剣九頭龍卍(くずりゅうまんじ)(とう)は小太刀に戻った。

 静香は(さや)(ひろ)って剣を(おさ)め、店内に一瞥(いちべつ)をくれると足早に立ち去った。



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