最終話
最終話 絵本
気がつくと、私はクローゼットの中にいた。
「テリーヌッ!」
大きくクローゼットがひらき、お母さんが前に立ちはだかった。
「夕食の時間ですっ。はやく出てらっしゃい!ホラッ!」
私に手をさしだし、無理にだそうとする。
その時、足の太ももあたりに硬いものがあたった。
「・・・これって、”落ちた私、いたウサギ”・・・だわ。」
「え?何、テリーヌ。見つけたの?」
手に取った、ソレは古ぼけた、小さいころ愛読していた絵本だった。
その本は、ある少女が落ちた先は動物がたくさんいて、その中でも特にウサギが気になるんだ。そしてそのウサギがある日、1冊のノートを少女に渡して。帰るか、帰らないか。
聞かれるんだけど、少女は結局帰ってしまうの。
少女は、ウサギの事はすっかり忘れて遊びまわるんだけど、ウサギはその少女の事が忘れられなくて。
・・・そういう、理不尽な話。
このウサギが可哀そうで可哀そうで、何度も読んでは胸を痛くしたっけな。
絵本にしては暗い話だったけど、この話が一番好きだった・・・。
「・・・テリーヌ?もう良い?夕食なんだけど。」
「うん、もう、いい。」
立ち上がる。
ほんの数時間ほどの、あっちの世界。私が、あの”少女”。
だったら、私が話を変えてしまうこともできるんじゃないの?できるんじゃ・・・。
私は唇を噛み、大きく目を開いた。
あっちの世界・・・今度、いつ行こうかしら?・・・また、ウサギにあえるかな・・・。